「せっかく予選はいい終わり方したのにねえ」そんな風に私が嘆いていたのは火曜日、ラス・ロサス(マドリッド郊外)のサッカー協会施設プレスルームでルビアレス会長とスポーツディレクターのモリーナ氏の記者会見が午後12時半からあったんですけどね。昨今の趨勢から、絶対、TV中継なり、マルカやAS(スポーツ紙)のウェブ中継があるはずと予想していたため、現地にこそ足を運びませんでしたが、まさか2時近くまで延々と、ロベール・モレノ氏のスペイン代表監督辞任とルイス・エンリケ監督復帰の経緯について、質疑応答しているのにうんざりしていた時のことでした。

ちなみに月曜に極寒のワンダメトロポリターノで開催されたユーロ予選最終節、ルーマニア戦の様子がどうだったか、まずお伝えしていくことにすると。いやまあ、キックオフまではかなり空席が目立ち、むしろマドリッド圏に10万人を超える移民人口を持つビジター応援団ばかりが賑やかだったスタンドも最終的には観客3万6000人とそれなりの入りに。グアルディア・シビル(治安警備隊)のマーチングバンド生演奏で流れる国歌も新鮮で良かったんですが、ロベール・モレノ監督は7-0と圧勝した金曜のマルタ戦から、モラタ(アトレティコ)、ジェラール・モレノ、カソルラ(ビジャレアル)、セルヒオ・ラモス(レアル・マドリー)を除いて、スタメンをローテーションしたにも関わらず、この日は前半からgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)が始まったから、ファンも喜んだの何のって。

ええ、4分にモラタのクロスをガヤ(バレンシア)がヘッドで入れたゴールは当人がファールを犯したとして認められなかったんですが、この日は中盤だったカディス(スペイン南部のビーチリゾート)での試合から、前線に上がったカソルラのシュートがゴールバーを直撃したすぐ後のことでした。GKタタルシャヌ(オリンピック・リヨン)がカルバハル(マドリー)の一撃を弾いたところ、そのボールをファビアン(ナポリ)がvolea(ボレア/ボレーシュート)で決めてくれたんですよ。先制すると、ちょっと気が緩んだか、イニゴ・マルティネス(アスレティック)が自陣エリア前でボールを奪われ、プシュカス(レディング)のエリア内シュートをGKケパ(チェルシー)がparadon(パラドン/スーパーセーブ)するなんてシーンもあったんですけど、大丈夫。

「Hemos hecho presión tras pérdida, incomodando en todo momento/エモス・エッチョ・プレシオン・トラス・ペルディダ、インコモダンドー・エン・トードー・モメントー(ボクらはボールロストの後、プレスをかけて、常に相手を落ち着かなくさせていた)」とサウール(アトレティコ)も言っていたように、いえ、彼の場合はガヤやカソルラが敵エリア内に入るため、上手く繋いでいたボールを自らのパスミスで失い、敵を追っかけてファールで倒すとか、少々、自業自得的な面もあったんですけどね。昨今ではロドリ(マンチェスター・シティ)にレギュラーを脅かされているという話もよく聞く、ブスケツ(バルサ)が強烈なタックルで敵のカウンターを止めてイエローカードをもらったりした10分程の時間帯以外、84%という恐ろしいハイポゼッションを維持したスペインは32分、いよいよ追加点をゲットします。

2点目は短いCKから、再びカソルサが上げたボールをエリア内中央でジェラール・モレノが小器用に頭を回してゴールにしたんですが、いやあ、この日の彼はまさに大当たり。だってえ、42分にもガヤがゴール前に送ったラストパスをモラタが逃してしまった後ろで待機。余裕で体勢を整えて蹴り込んで、doblete(ドブレテ/1試合2得点のこと)を達成してしまっただけでなく、ロスタイムにもサービス精神を発揮して、8試合連続得点を狙うモラタにアシストしようとパスを出したところ、敵DFがオウンゴールにしてくれたとなれば、ハットトリック並の働きと言っていい?

いえ、これには前節のスウェーデン戦にホームで0-2と負け、グループ2位になれる可能性が消滅。それでも昨年のネーションズリーグのおかげで3月のプレーオフで勝てば、ユーロ出場の切符を掴むことはできるとはいうものの、コントラ監督もこの試合を最後に解任される予定とあって、ルーマニアにモチベーションが欠けていたのもあるんですけどね。後半はスペインの選手たちもリラックスムードになったため、最後の最後までゴールを狙っていったのはご当地選手のモラタとサウールの2人だけだったんですが、大体がして、ワンダで3点以上入る試合なんて滅多に見られるもんじゃなし。

結局、終盤にはサウールがエリア前から狙って外した後、ジェラール・モレノに代わって途中出場したオジャルサバル(レアル・ソシエダ)がシュート精度の高さを披露。ロスタイム2分にスペインの5点目を決めて、そのまま5-0で2試合連続の大量得点勝ちとなりました。これで勝ち点を26に増やした彼らは30日のユーロ2020本大会組み合わせ抽選でも第1シードとなることが決まったんですが…試合後にあんなシュールな光景が待ち受けていたとは!

うーん、確かに余裕のある展開だったせいか、ゲーム中から、私が聞いていたオンダ・マドリード(ローカルラジオ局)の実況アナもスタジオコメンテーターも6月に正式に就任後、3月の暫定監督時代も含め、予選9試合を7勝2分けという見事な成績で終わらせたロベール・モレノ監督が続投せず、8月に9才の三女を骨肉腫で亡くしたルイス・エンリケ監督がそのショックを乗り越え、復帰にゴーサインを出したという話ばかりしていたんですけどね。それだけに誰もがロベール・モレノ監督が話すのを待っていたんですが、コントラ監督の会見後、どうやら待てど暮らせど、ワンダプレスコンフェレンスルームに姿を現す気配がなかったよう。

というのもその時、私はそことは離れたミックスゾーンで選手たちが出て来るのを待っていたため、その経緯はつけっぱなしにしていたラジオや、それこそ近くでマイクに喋っている各局のレポーターの言葉から推測するしかなかったからなんですが、いやあ、それもかなり時間が経って、カメラを避けるため、衝立の後ろを通って駐車場に向かう選手たちに混じり、ロベール・モレノ監督がひっそり帰って行くのを目撃してしまってはねえ。

実際、どこから伝わってきたのか、ロッカールームでは彼が涙ながらに選手たちに別れを告げたなんて報道もあって、あ、もしや試合終了直後のTVインタビューでジェラール・モレノが「Nosotros estamos con el míster, con todo el staff. Estamos a muerte con él/ノソトロス・エスタモス・コン・エル・ミステル、コン・トードー・エル・スタッフ。エスタモス・ア・ムエルテ・コン・エル(ボクらは監督と全てのスタッフを支持している。死ぬ程、忠誠を誓っているよ)」なんて言っていたのは、まったく事情を知らされてなかった?

まあ、彼などはロベール・モレノ監督が10月に初招集した選手ですからね。それだけにその恩師が代表を離れることになったのはショックだったかも。え、古くはバルサ時代から、この3月まではルイス・エンリケ監督のチーフアシスタントを務めていた当人なんだから、上司の復帰が決まっても元の鞘に納まればいいだけじゃないのかって?うーん、それはルビアレス会長も翌日の会見で説明していたんですが、6月にそれまでエリートチームを指揮した経験のないロベール・モレノ監督が昇格した時から、前任者が復帰できることになった際には交代することは織り込み済みだったそうで、「Luis Enrique es el líder de este proyecto/ルイス・エンリケ・エス・エル・リデル・デ・エステ・プロジェクト(ルイス・エンリケ監督がこのプロジェクトのリーダー)」(ルビアレス会長)とのこと。

10月末にはルイス・エンリケ監督と会合を持ち、復帰の意志を確認したものの、とりあえず予選終了までは様子を見ることに。ところが、ルーマニア戦の前日、ロベール・モレノ監督からこの先の見通しについて問い合わせがあり、これから検討すると答えたところ、試合当日に当人が辞意を表明。そこで急遽、ルイス・エンリケ監督に復帰をお願いしたという流れで、決して事前に交渉があった訳ではないと言っていましたけどね。今回、ルイス・エンリケ監督がスタッフにロベール・モレノ監督を加えないのは両者の関係性の問題だそうですが、まあなかなか、1度頂点に立ってしまうと、心理的にサポート役に甘んずるのも難しいのかも。

そんなスペイン代表はこの先、3月のドイツオランダとの親善試合までは予定がなく、近日中に火曜には協会との契約解除交渉に弁護士を派遣したロベール・モレノ元監督なり、ルイス・エンリケ出戻り監督なりから、コメントがあるはずですが、代表監督にまつわるゴタゴタは去年のW杯開幕直前、ロペテギ監督(現セビージャ)の電撃解任後、臨時にイエロ・スポーツディレクターを指揮官に立てて、16強敗退で終わった時もそうでしたが、ファンとしてはうんざりの感もなきにしろあらず。

この代表戦週間中は人権擁護派から非難が集まる中、サウジアラビアでのスペインスーパーカップ開催を発表。たまたま合宿中だった参加4チームの代表、ラモスブスケツ、ガヤ、サウールを平気で抽選前、30分以上もステージで立ちん坊させていたり、そのTV放映権をスペイン主要メディアから拒否されていた日曜には111チームからなる巨大ラウンドとなったコパ・デル・レイ1回戦の抽選を実施。ヘスス・ナバス(セビージャ)、パウ・トーレス(ビジャレアル)、オジャルサバル、そしてU21代表のマヌ・ガルシア(スポルティング・ヒホン)、フラン・ベルトラン(セルタ)、ククレジャ(ヘタフェ)を借り出して、10個も20個もクラブ名の入ったボールを引いては開け、引いては開けの作業をさせていたサッカー協会会長のあまり、選手ファーストではない姿勢には私もちょっと疑問を覚えるんですが、まあそれはそれ。

やっぱり気になるのは来年6月12日に開幕するユーロでいつ、どこでスペインプレーするのか農法ですが、ただもう、今回は前代未聞の12都市で開催される広域大会ですからね。とりあえず、スペイン6月15日にビルバオ(スペイン北部)のサン・マメス(アスレティックのホーム)でグループリーグ1節を迎え、もしダブリン会場を持つアイルランドプレーオフで出場権を獲得しなければ、グループ3試合共、ビルバオになると言われているんですが、困ったことにそのプレーオフ自体も正直、訳がわからず。

だってえ、4チームが選出されるプレーオフには、ネーションズリーグでAからDまである4リーグ内のグループでトップとなったチームが出られるんですが、予選で出場が決まっているチームが首位だった場合、グループの次の順位のチームにプレーオフ出場権が譲渡。次も決まっていれば、その次と言われても、とりわけUEFAランキング上位チームで構成されたAリーグなど、ほとんどが予選でユーロ出場を決めているため、プレーオフを必要とするチームがほとんどなく、もう一体、どうやってプレーオフに参加する16チームが決まるのか、さっぱりわからないんですよ。

まあ、その辺は22日のプレーオフ抽選会までにははっきりすると思うんですが、UEFAのチケット販売も12月に第2弾が始まるようですしね。観戦予定を立てたいファンも焦らず、まずは30日に本大会の組み合わせが決まるのを待って、じっくり旅行計画と練るといいんじゃないでしょうか。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。
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