ドルトムント戦で2アシストと躍動したミュラー、監督交代で“地位”を取り戻す

 ドイツ語で“デア・クラシカー”と呼ばれる注目の一戦は、またしても思わぬ大差がついてしまった。現地時間9日に行われたブンデスリーガ第11節、ドルトムントをホームに迎えたバイエルン・ミュンヘンは、内容的にも相手を完全に凌駕して4-0と完勝。改めて、その底力を世界に示してみせた。

 この試合で重要な働きを見せたのが、元ドイツ代表MFトーマス・ミュラーだ。バイエルンで公式戦通算500試合目というメモリアルゲームで、30歳のアタッカーは誰よりも躍動感のあるプレーを見せ、健在ぶりをアピールした。

 今季はここまで、難しい時間を過ごしていた。ニコ・コバチ前監督はブラジル代表MFフィリペ・コウチーニョを優遇し、公式戦6試合連続ベンチスタートという時期もあった。報道陣からいつもミュラーについて聞かれていたコバチは、「チームが危機的状況になったら間違いなく必要になる」というコメントを出してしまったことで、一気にバイエルンファンからも選手からも反感を買ってしまう。

 ミュラーもこの時期には移籍について考えないわけにはいかないほど、苦しんでいた。それでもチームが勝利を重ねていれば、火種がそこまで大きくなることもなかったのだろうが、10月のバイエルンは結果も内容も芳しくない試合が続き、チーム内の不満は燻り続けていた。フランクフルトに1-5で敗れた試合では、とても世界有数の選手を抱えるチームのプレーとは思えないほどミスのオンパレード。首脳陣はついにブレーキを引く決意をした。コバチは退任となり、アシスタントコーチを務めていたハンシィ・フリックが暫定監督に就任することになった。

 ミュラーにとっては、ドイツ代表アシスタントコーチとして2014年ブラジル・ワールドカップ(W杯)でともに優勝を祝い合った、いわば盟友だ。フリックはすぐにミュラーを主軸として起用することを明言し、チームの立て直しに着手する。

 ドルトムント戦を見越して4日前のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)オリンピアコス戦をそのためのメンバーで戦い、2-0で勝利。この試合でテストすることができたからこそ、ドルトムント戦では攻守全般にわたってより明確なプレーをチームとしてすることができた。

 試合後、ミックスゾーンに充実の表情で現れたミュラーは、「自分たちのやりたいことが上手くできて、今日のような試合を4-0で勝つことができたんだから、楽しかったよ。1週間前に報道陣の前に立って話す時よりも、ずっといい気持ちで今ここにいるよ」と笑った。

30歳となった自然体の“象徴” 「誰よりも走って、戦って、組織を整えていく」

 2000年に11歳で下部組織に入って以来、バイエルン一筋でプレーするミュラーは、ファンにとってクラブの象徴そのものだ。08年に18歳でプロデビューを飾ると、当時の監督だったルイス・ファン・ハールから「ミュラーはいつもプレーする」と絶大な信頼を得て、ドイツの名門での地位を一気に確立する。

 20歳で出場した南アフリカW杯では、ドイツ代表として5得点をあげて大会得点王に輝く。そうしたキャリアだけではなく、そしてピッチ上におけるプレーもさることながら、常に自然体で、笑顔を絶やさず、ポジティブなオーラを出すミュラーは、バイエルンにおいて今も欠かすことができない存在なのだ。

 ミュラーは信頼して起用してくれたフリックに、プレーで返した。

「信頼して起用してくれた。僕らが誇る前線のクオリティーは間違いない。そのなかで指示を出す役割を担い、誰よりも走って、戦って、組織を整えていく。ゴールは今でももちろん狙っているけど、大事なのは僕らのプレーをやり通すことなんだ」

 攻撃的な選手である以上、いつでもゴール数で測られるのは宿命かもしれない。そしてミュラー自身も「プロ選手になったばかりの頃は、ゴールの数で自分のプレーを測っていたりもしたよ」と当時を振り返る。だが今のミュラーは、誰よりもチームのことを考えてプレーする“大人の選手”になっている。

「年を重ねるごとにチームの中で責任を担って、チームのためのプレーをより大事にするようになってきたと思う。いつでもペナルティーエリア内にいることだけを考えるわけではない。ゴールを狙うだけではなく、相手のカウンターを防ぐためにすぐに汗をかいて守備をするとかね。ピッチに立っている限り、僕はいつでも試合に勝ちたいし、そのための仕事を探してプレーしているんだ」

 パスを引き出し、ボールを追いかけ、体を張って守備をして、またスペースに走り出していく。そうしたチームプレーに汗をかきながら、ゴールへの道を作り出すのがミュラーの真骨頂だ。

 この日も見事な動き出しとパスで2アシストをマーク。ブンデスリーガ通算アシスト数は「101」と、ついに大台に乗せた。これは歴代ナンバーワンの成績だ。30歳となったバイエルンの生き字引は、今も成長を続けている。(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

2アシストでデアクラシカーでの勝利に貢献したMFトーマス・ミュラー【写真:Getty Images】