アートの領域を越えたさまざまなプロジェクトや作品から、近未来のヴィジョンを考察するユニークな展覧会『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命—人は明日どう生きるのか』が、森美術館11月19日(火)に開幕。2020年3月29日(日)まで開催されている。

近い将来、私たちの生活に大きな変革をもたらすであろう、AI、バイオ技術、ロボット工学、AR(拡張現実)などの最先端テクノロジー

同展は、それらに影響を受けて生まれたアート、デザイン、建築を通して、近未来の都市、環境問題からライフスタイル、そして社会や人間のあり方をともに考えることをテーマにした展覧会だ。

会場は、「都市の新たな可能性」「ネオ・メタボリズム建築へ」「ライフスタイルとデザインの革新」「身体の拡張と倫理」「変容する社会と人間」の5つのセクションで構成。国内外から参加した64のアーティスト、プロジェクトによる100点以上の作品が紹介される。

「都市の新たな可能性」では、最先端の都市計画や、アーティスト、建築家が描くユニークな都市像を紹介。環境を汚染する排出物を出さないエコシティや、海上に浮かぶ都市、自然と融合した都市など、SF映画に出てきそうな都市が、実現可能な形で提示されている。

ビャルケ・インゲルス・グループ 《オーシャニクス・シティ》 2019年

続く「ネオ・メタボリズム建築へ」では、建築の最新動向を紹介。環境に優しい有機的な建材の開発、3Dプリンター、ドローン、ロボット光学などを駆使した新工法などを用いた建築例が並ぶ。

ビャルケ・インゲルス&ヤコブ・ランゲ 《球体》 2018年
MX3D & ヨリス・ラーマン・ラボ《MX3Dの橋》2015-2019年
ミハエルハンスマイヤー《ムカルナスの変異》2019年

中にはバイオ技術を使った彫刻も展示されている。コンピュータサンゴの形をシミュレーションした造形物の中には微細藻類が埋め込まれ、それらが太陽光によって光合成を行い、酸素を生成しながら造形物内で生物コロニーを形成。デザインとライフサイエンス、神経科学や生物学などが融合することで広がる、建築の新たな可能性が見えてくる。

エコ・ロジック・スタジオ 《H.O.R.T.U.S. XL アスタキサンチン g》 2019年
分割されたブロック内で微細藻類が光合成を行なっている

「ライフスタイルとデザインの革新」では、衣食住のあり方にフォーカスを当てる。3Dプリンターやレーザーカッターなどの最新技術を駆使してデザイン、制作された服、 人工培養された食材を使った食事、人間と共生するペットロボットなどが紹介される。

エイミー・カール 《インターナル・コレクション》 2016-2017年
OPEN MEALS 《SUSHI SINGULARITY》 2019年

「身体の拡張と倫理」では、ロボット工学により義足やアシスト・ロボットが発展し、生物工学や遺伝子工学により病気や身体そのものの改変などに注目する。ここでは、ゴッホが切り取った左耳を培養して再現した作品をはじめとするバイオアート、乳幼児に特殊な外科手術を施す提案などを紹介。身体をどこまで拡張、変容させてよいのか、倫理上の問いも浮かび上がらせる。

遠藤謙《OTOTAKE PROJECT》2018年〜
ディムート・シュトレーベ 《シュガーベイブ》 2014年〜
アギ・ヘインズ 《体温調整皮膚形成手術》(「変容」シリーズより) 2013年

最終セクションとなる「変容する社会と人間」では、人間や生命、幸福の定義の再考をうながし、よりよい未来に向かうにはどうすべきか問いかける作品を紹介。ロボットに看取られたり、3人以上の親の遺伝子を継ぐ子どもを「共有」したり、未来に直面するであろう社会と人間の姿をアーティストが表現する。

マイク・タイカ《私たちと彼ら》2018年
アウチ 《データモノリス》 2018年

豊かで夢のある近未来の生活を楽しくイメージ・体験しながらも、社会・家族の在り方や、生死にまつわる倫理観など、さまざまな課題についても深く考えさせられる同展。アートのみならず多彩なジャンルから切り込んだ近未来像を、この機会に目撃してほしい。

【開催情報】
『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命—人は明日どう生きるのか』
2020年3月29日(日)まで森美術館にて開催

【関連リンク】森美術館

エコ・ロジック・スタジオ 《H.O.R.T.U.S. XL アスタキサンチン g》 2019年