これまで数多くのドラマ・映画にて映像化されてきた“冬の風物詩忠臣蔵。殿のために仇討ちを果たし、忠義を尽くした四十七士の物語だが──その仇討ちって、いったいどのくらいのお金がかかるの? そんな素朴な疑問をテーマに描かれるのが『決算!忠臣蔵』である。

今作で濱田 岳が演じたのは、毒見役の大高源五。幕府による赤穂藩お取り潰しで路頭に迷った藩士たちが行く末を協議するなか、「退職金は出るのか」と空気を読まない発言をしたり、大石内蔵助(演/堤真一)相手に遠慮なく不満を爆発させたりと、自分勝手でマイペースな役柄ではあるが、濱田の持つ独特な“ゆるさ”ゆえ、どこか憎めない。

多くの作品を濱田とともに作り上げてきた中村義洋監督は、もちろんそれを狙っていたのだろう。濱田にとって“気心が知れた友達”であり“一番おっかない監督”でもある中村監督と作り上げた新しい大高源五は、飄々と、かつ逞しく江戸の時代を生きていた。

取材・文 / とみたまい 撮影 / 増永彩子


“みっともない”人物を演じる僕の姿が、中村監督は好きだと思う(笑)
ーー これまで何度も一緒にお仕事されている中村義洋さんが監督・脚本を務めた『決算!忠臣蔵』ですが、脚本を読んでどのような印象を持ちましたか?

中村義洋という人が『忠臣蔵』を読んだら、こういった解釈もできるんだなあと思いました。これまでいろんな作品で描かれてきた四十七士(赤穂浪士)ですが……今回僕が演じた大高源五のように、「遊郭に行きたくて行きたくてしょうがない」という気持ちをあれほど誇張して描かれたキャラクターはいないと思うので(笑)、いろんな意味でチャレンジでした。そういったチャレンジを中村監督のもとでできたのはすごく楽しかったです。

ーー 中村監督と濱田さんだからこそ生まれたキャラクターという気もします。

直接監督にうかがったわけではありませんが、長い付き合いのなかで感じているのは、監督は僕のああいった“みっともない姿”が好きだと思うんですね(笑)。とくに赤穂浪士ファンの方たちからしたら今回の大高源五は本当にみっともない男に見えると思うんですが、いち俳優として初めて赤穂浪士を演じるにあたって、中村組でこういった大高源五を演じることができたのを僕は誇りに思っているんです。

ーー 濱田さんが演じる大高源五を見たときに、中村監督はどのような反応をされましたか?

僕、おでこが広いから正面から見ると髷(まげ)が見えなくて。ただの“真ん中が禿げてる人”にしか見えないんですね。それが楽しかったみたいです(笑)

ーー 大高源五を演じる際に中村監督から言われたことなどはありますか?

源五は「性欲が高まってるときは椀帽をかぶり、性欲が減退してるときは椀帽を脱ぐ」と(笑)。「なんだその演出?」と思いましたが(笑)、僕と監督の間では、すごくわかりやすいワードでもあったんですよね。「あ、そうやって源五を活かすのか」って。なので、吉原を眺めているときはしっかりと椀帽をかぶってるし、吉原に行けないって諦めているときは禿げたまんまだし、みたいな(笑)。そうやって、監督とはいつもどおり、冗談を言って笑いながらやっていました。

ーー そうやって現場でお互いにアイデアを出し合うことも多いのでしょうか?

もちろん、「源五としてどう動こうか」っていうアイデアは自分の宿題として現場に持って行って、まずはやってみます。そこで監督が「岳はそうきたか」って思ってくれたら、そこからお互いのイメージのすり合わせが始まる感じです。今回はもしかしたら、自分で言うのもなんですが、僕が成長したせいなのか、そういった楽しいすり合わせが多かった気がします。
最後のほうの吉原を眺めるシーンも……、1回でOKをいただきましたが、僕が演じた源五の「吉原に行きたい、女性とやりたい、だけどもう叶わない」っていう表情がすごかったみたいで(笑)、監督が僕のところに来て「お前あんな顔して、俺は人として恥ずかしいよ」って言ってました(笑)。「あ、これは褒めてもらってるんだろうな」って思いました(笑)

ーー 序盤にキャストが一堂に会して赤穂藩の行く末を論じる「大評定」のシーンも印象的でした。

侍たちがすし詰めになっていて、「なかなかすごい場所に居るな」と個人的にも思いました。それに、関西弁時代劇を見るのが僕自身初めての経験だったので、自分のセリフを言うまでの間、東京出身の僕としては、まるで吉本新喜劇を見ているような感じでした(笑)。「関西弁でドタバタしている侍たちって、こんなに面白いんだ」って。台本でも伝わってきましたが、実際に先輩方が動いて演じられているのを見ると、より楽しく感じました。

ーー ドタバタの空気のなか、“割賦金(退職金)”について問う源五のマイペースな感じも絶妙でした。

源五は「自分は退職金がもらえるのか」と疑問に思って手を挙げているだけなんですが、役とはわかっていても、やっぱり緊張しましたね。僕にとっては『決算!忠臣蔵』で最初に発するセリフだったので。先輩方がヤイヤイやっているなかで「あの……」って。木村さん(原惣右衛門役の木村祐一)に「なんや!?」って強い調子で返されたときには、怖いものがありました(笑)
でも、そのやり取りで「源五はそうやって自分が気になっていることをあっさり聞いてしまう“無粋な男”なんだろうな」っていうのがわかったので、あのシーンで始まってよかったと思います。僕には、あの場でああいった発言をする勇気はないと思うので、そういう意味では源五にちょっと憧れがありますね。

ーー マイペースながらも、最後まで大石内蔵助について行くという。

ねえ? あんなにやる気がないのに、みんなとずっと一緒にいて。まあでも、源五は吉原に行きたいだけなんですけど(笑)。そういった意味でも素直な男なので、そこは好きですね。映画では「本当にコイツ、役に立たないな」っていう役ですから(笑)、演じる僕しか源五のことを大事に思ってあげられないんです。そういう意味では“良いとこ探し”はしました。
最後のほうで内蔵助を睨むところも、いくら浪人になったとはいえ、内蔵助は相当上の立場の人ですから。そんな人に対して「お前のせいで、俺は一生童貞なんだ!」って(笑)。あんなに睨むなんて、なかなかできないことですよね。すごく好きなシーンでしたし、一生懸命「どうやって内蔵助を睨もうか」って演じた記憶があります(笑)

ーー 矢頭長助役の岡村隆史さんとは初共演となりますが、ご一緒されてどう感じましたか?

台本にとても真摯に向かわれていて、真面目で誠実な方だなと再認識しました。監督が僕に「悲しさ2、喜び3、憎しみ8の顔でやれ」とかって……これまで長くやってきたふたりの間だけで通じるような表現をするんですが、それを見ていた岡村さんが「中村監督の現場って、いつもああなんですか?」って、ちょっと面食らっていらっしゃって。「そんなことないですよ」なんて言ったりしていました(笑)

狙いに行かず、一生懸命やるだけ。芸人たちの芝居から学んだ姿勢
ーー ほかにも“中村監督の現場ならでは”と感じることはありますか?

僕はやっぱり、勝手知ったるスタッフさんが多いというのがあります。とても贅沢なことです。カメラマンの相馬(大輔)さんがムードメーカーになってくださる感じとかも「中村監督の現場に帰って来たなぁ」と思いますし、沖田さん(三村次郎左衛門役の沖田裕樹)と小松さん(貝賀弥左衛門役の小松利昌)がいるっていうのも…、おふたりも中村組の作品に何度も出演されていますから、僕にとっては“中村チルドレン”のお兄ちゃんたちがいる感覚なわけですよ(笑)。監督とおふたりのやり取りを末っ子の僕がニコニコ見ている感じがあって、とても楽しく過ごせました。

ーー コメディ要素の強い本作に、芸人さんが多く出演されています。彼らのお芝居から感じたことはありますか?

みなさん芸をしにいらっしゃってるわけではなく、映画の役に臨まれていらっしゃるので、そういう意味では気持ちは一緒だなと感じましたが、“人を笑わせる”ことをお仕事とされているプロフェッショナルな方たちが、こういったコメディ映画でどうやってお芝居されるのかな? と見ていたら、やっぱり一生懸命やるしかないんですよね。「笑いを狙いに行くものなのかな?」なんて簡単に思ったりしがちですが、今回のお話では“侍たちが困ってバタバタしている”様子が面白いっていうのを、みなさん肌でわかっていらっしゃるんでしょうね。だから一生懸命、侍として困っているんです。その様子ってやっぱり傍で見ていても面白かったですし、「僕も一生懸命やろう」と思いました。

ーー 狙いに行くのではなく?

そうですね。源五って、ト書きでは狙うチャンスがたくさんあるんです。でも、そうじゃないんだっていうのを先輩方に背中で教えていただきました。でも“本気で吉原に行きたい顔”ってわからないんですけど(笑)、自分なりに考えて、源五として一生懸命やろうと思いました。

ーー ちなみに、個性豊かな共演者の方々とご一緒されて、現場でつい笑ってしまったことなどはありますか?

大評定のシーンで、岡村さんが僕の近くまで来て割賦金の話をしているときに、僕らの間をきよし師匠(大野九郎兵衛役の西川きよし)が通り抜けるところがあるんですね。最初のテストのときに、その場面で僕と岡村さんが気づいたのが……「あれ? きよし師匠、ガム噛んでない?」って(笑)
本番中も「ガムどうしたかな?」って気になっちゃって、「師匠、あのガムどうしましたか?」って後で聞いたら「飲みました」って(笑)。「あ~、これがあのきよし師匠なんだな」って実感しました。きよし師匠に関する逸話をテレビとかで見ていましたが、芸人さんたちがネタで言ってる部分もあると思ってたんですよ。でも、本当にお茶目な方なんだなって(笑)。とはいえ、一時代を作った大スターですから、お芝居をご一緒できたのはすごく嬉しいことでした。

流されるのではなく、自分の意志で流れを選んで流れていく
ーー 『決算!忠臣蔵』で何が一番の挑戦だと思いましたか?

最初にお話ししたように、歴史ある赤穂浪士のなかで、「とにかく女性とやりたい」という思いを表に出す武士。これはたぶん……チャレンジですよね(笑)。今回の大高源五そのものがチャレンジだと思います。

ーー 今回の大高源五役も「新しいな」と思いましたが、これまでも様々な役を演じられてきた濱田さん。31歳のいま、30代から40代にかけてのビジョンなどはありますか?

明確な目標はないかなぁ。(少し考えて)9歳のときにスターダストにスカウトしてもらって、初めて受けたオーディションに受かって、それから徒然なるままに21年経ってしまった印象なんですよね。いま振り返っても「俺、大人になったなあ」っていう実感がなくて。もちろん、現状に満足しているわけではありませんが、かといって特に何かあるわけでもなく。制服を着る役は当然なくなってきて、子どもを持つ親の役をいただく機会も増えてきて。そうやって周りが僕を変えてくれるので、流されるのではなく、自分の意志で流れを選んで流れていくというのが僕は大事だと思っています。
だから、これまでどおり流れていければいいなあって。白髪も増えてきましたし、そのうち禿げてもくるでしょうし。そういったものを受け入れることで、新たにできる役もあると思いますから。

ーー 流れていくなかで出会った作品の一つひとつが、役者・濱田岳の糧になっていくと思いますが、そういう意味で『決算!忠臣蔵』はどんな糧となりましたか?

僕のなかで、中村監督と作品を重ねるというのはすごく大きなことなんです。中村監督という存在は、ある瞬間は本当に“気心が知れた友達”であり、別のある瞬間は僕にとって“一番おっかない監督”になるというか。監督が信頼して僕をキャスティングしてくださり、一緒に作品を重ねてきたからこそ、監督の要望もどんどんアップしているんですね。そんな関係なので、「次に会うまでに体たらくなことはしてられないな」とか「次に会ったときも、監督の要望に応えられるようにしなきゃいけない」って思うんです。“次”がいつ来るかわからないけれど、友人のひとりとしてつねに準備はしておきたい。中村組だからといって、あぐらをかける瞬間が一回もないんです。そんなことをしたら、監督に見抜かれちゃうから。そういう意味では何年経っても中村監督の現場は緊張するし、また呼んでもらえたというのが大きい出来事でしたね。
『決算!忠臣蔵』自体が挑戦的な作品なので、この船に乗れて、船員のひとりとしてチャレンジできたことも糧になりましたし…そうですね、たくさん糧はありますが、一番はこの新しい赤穂浪士のメンバーになれたことなんじゃないかなと思います。

濱田 岳
1988年東京都生まれ。2019年は、映画『マスカレードホテル』『引っ越し大名!』『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』、ドラマフルーツ宅配便』(TX)『土曜ドラマスシャル ベトナムひかり〜ボクが無償医療を始めた理由~』(NHK)『インハンド』(TBS)に出演。2020年は、ドラマ『心の傷を癒すということ』(NHK)、映画『喜劇 愛妻物語』への出演が決定している。

映画『決算!忠臣蔵
11月22日(金) 全国公開



STORY
元禄14(1701)年3月14日。事件が起こったのは江戸城・松の廊下。
「濁った水を綺麗にする」ことを強く願う清廉潔白な赤穂藩藩主・浅野内匠頭は、かねてより賄賂まみれだった吉良上野介の態度の据え兼ね、斬りかかります。通常であれば喧嘩両成敗となるはずが、幕府が下した結論は、浅野家のお取り潰しと、内匠頭の即日切腹。突然藩主を亡くし、お家断絶となり、赤穂藩士たちは路頭に迷う。要は江戸時代の優良企業倒産事件。現代に置き換えると、藩は会社、武士はサラリーマンということ。筆頭家老・大石内蔵助(堤)は、嘆く暇もなく、勘定方・矢頭長助(岡村)の力を借り、ひたすらリストラに励む日々。その努力や幕府への取次も虚しく、お家再興の夢は断たれてしまいます。それでも一向に討入る様子のない内蔵助。
だが、江戸の庶民たちは赤穂浪士たちによる、吉良上野介への仇討を超熱望! いつの時代も物事を動かすのは、なんとなくの時代の空気感。それは現代でも変わりありません。 ただそこで発覚した大変な事実。なんと、討入りするにも予算が必要。その上限は9500万!!!
討入るのか討入らないのか、迷っているうちに予算はどんどん減っていく。でも世間の空気的に仇討しないと絶対にまずい! どうする大石内蔵助!?
予算の都合で、チャンスは一回。果たして彼らは【予算内】で、一大プロジェクト【仇討】を、無事に【決算】することができるのか!? こんな忠臣蔵見たことない! 涙と笑いの予算達成エンタテインメント!

原作山本博文『「忠臣蔵」の決算書』 (新潮新書)
出演:堤 真一 岡村隆史 濱田 岳、横山 裕、妻夫木 聡、荒川良々、竹内結子、石原さとみ 木村祐一、板尾創路村上ショージ ほか
監督・脚本:中村義洋
製作:「決算!忠臣蔵製作委員会
製作幹事:松竹株式会社吉本興業株式会社
配給:松竹株式会社

(c)2019「決算!忠臣蔵製作委員会

“盟友”中村義洋監督の要望に応えたい──『決算!忠臣蔵』で濱田 岳が挑戦するのは“遊郭に行きたくてしょうがない”赤穂浪士!は、【es】エンタメステーションへ。
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掲載:M-ON! Press