人生に絶望して自殺を試みたサラリーマンが、目覚めたら女子高生に拾われて、彼女に言われるまま「ポチ」として生活することになり――週刊ヤングジャンプで連載していた漫画『ポチごっこ。』の上下巻が11月19日に発売されました。

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 作者のアッチあいさんは以前、ねとらぼの取材で「編集の赤字は無視する」「OKが出た後に内容を変える」など型破りな手法を語ってくれました。その際には、『ゴールデンカムイ』(ヤンジャン作品)の熱量と情報量に驚いて商業マンガを描きたいと思ったというエピソードも。一方で、語りたりなかった/イメージを更新したい部分もあるとのことで、今回改めてインタビューを実施。第1話の出張掲載とあわせてお届けします!

●週刊連載を終えて、リベンジしに来ました

――『ポチごっこ。』上下巻の刊行、おめでとうございます! ねとらぼ編集部宛に「リベンジしたい」という連絡をいただいたと聞いて、今日はドキドキしながら来ました。

アッチあい(以下、アッチ): 昨年『このかけがえのない地獄』を出した後にインタビューしてもらった記事には、いろいろな反響がありました。あのインタビュー記事を読んだ人が、私を頭のおかしいヤバい作家だと思って、初対面の編集さんから何も言ってないのに「こちらの言うこと聞かなくても大丈夫ですからね!」と言われたり、何の話もしてないのに『ゴールデンカムイ』の話を振られたりして、あのインタビュー記事読んだんだなって……。私、初対面は良い人と思われるんですけど、「デジタルタトゥーってこういうことなんだ……」と思いました。

――記事がよく読まれたということは書き手としてうれしいのですが……取りあえずすみません(?)。

アッチ: そんな話を今回の『ポチごっこ。』の担当編集・F山さんに漏らしたら「じゃあもう一回インタビューして上書きしましょうよ!」と言われて。今回はF山さんに私が普通の人だということを説明してもらいに来ました。

担当編集・F山(以下、F山) ご説明に伺いました。

――だいたい理解しました。週刊誌連載は、どういうきっかけで始まったんでしょうか。

アッチ: 作画がもともと早くて、いろんな編集さんに「週刊できる」って言われてて、週刊はキツいってよく聞くけど本当に自分にできるのか試したかったんです。ちょうど連絡があったF山さんヤングジャンプの方だったので、週刊やってみようかなと思いました。

F山: 『このかけがえのない地獄』を拝読したんですが、女の子がかわいらしいだけでなく、一つ一つの短編にオチがしっかりついていて構成力も素晴らしいと感じました。是非お仕事をご一緒したいと思いご連絡しました。

アッチ: 読み切りを描いたら焼肉をおごってあげる、連載が決まったら寿司をおごってあげると言われ、それを目標に頑張りました。そこから読み切りを経て、連載会議に向けてずっと打ち合わせをしてたんですけど、F山さんが何出してもOKくれなくて。でも連載会議は3~4カ月おきで、さらに連載が始まるまでに準備期間もあって……。気持ち的に早く連載してみたかったので、連載会議の1週間前に脳をフル回転させてこの話を描いて、やっとOKをもらいました。そのときのタイトルは「ポチの生活」でした。

アイデアは、Twitterから生まれる

――火事場の瞬発力がとてつもない。「サラリーマン女子高生に飼われる」というアイデアは、どこから出てきたのでしょうか?

F山: それがアッチさんのすごいところなんですけど、ヤングジャンプ読者のTwitterアカウントをいくつか観察して、マーケティングした結果のアイデアらしいんですよ。

――えっ!?

アッチ: ヤンジャンの勉強をしようと読者のリストを作ったんですけど、その中の人が思い悩んでて死にたがってたんです。このままだと本当に死んじゃう、死ぬなーと思ってこういうマンガを描きました。初期ネームストーリーがしっとりしてて編集部でも好評だったんですけど内容がすごく暗くて。この暗さをずっと連載で描いていくと自分の気が滅入りそうだったので明るい作風に調整しました。

F山: 「どうして明るくするんですか?」と伺ってみると、「死にたいくらい悩んでる人に読んでほしいのに、今のままだと読み味が暗すぎるから、もっと明るく軽く読めるようにしたい」と仰っていましたね。

――自殺しそこねたサラリーマン・友寄を「ポチ」として飼いはじめるのが、謎の女子高生・花。お色気キャラすぎず、子どもすぎない、絶妙の女の子だなと思いました。女性が読んでも「かわいい!」と思える。

――途中で、実は花に姉妹がいることが発覚し、その姉妹から二人の関係をドン引きされるシーンとかもあるじゃないですか。「女子高生と同居でラッキースケベ!」となりすぎないバランス感が良かったです。

アッチ: ポチと花ちゃんの距離感には気を使いました。毎話ネームを描くたびに、女性アシスタントに見せ「女性が読んでも素直に受け入れられる範囲」になるようにしました。「ポチキモい」「近い」「離れろ」判定だと、背景を描いてくれないんですよ、アシスタントが。

――合理的かつ明確な判断基準!

アッチ: でも別に、ヤンジャン編集部からも「エロくして」とか「脱がせて」とか言われることはなかったんです。むしろ「飼う」がエスカレートしすぎないようにと、バランスに気を使う意見をもらいました。

●苦難の末編み出した「週刊連載してないフリ」

――週刊連載をしてみてどうでしたか?

アッチ: ネームを切る能力が格段に上がりました。それまでは、ネームって、自分が満足するまで直し続けないと完成と思えなかったんです。でも週刊連載をやったら、締め切りが絶対に来るから、「満足していなくても最後まで描き切る能力」を手に入れました。

――十分にスケジュールがない中で完成までやりきるのって、一番大変なことですよね。

アッチ: 作画は追い付いてたんですけど、毎週作品を生み出さなきゃいけない、絶対休めないのが想像以上にきつかったですね。「この逃げ出せない感じ、週刊連載って刑務所では?」って思いました(笑)。しかもこの刑務所は、模範囚であればあるほど刑期が伸びるんです。

――(笑)

アッチ: きつすぎて、「自分が週刊連載をしているわけがない」と思い込むことにしました。

――どういうことですか?

アッチ: 週刊連載をしていたら絶対にやれないだろうことを、あえてやるんです。映画館まで映画を観に行ったり、手のかかるスイーツをつくったり。スポンジを焼いて「一晩おいて生クリームを塗る」なんて手間が掛かることをするために無理して時間作るのが楽しかったです。モンブラン手作りが一番おいしいんですよ。

――なるほど……。

アッチ: そうしていると連載に追われている気分にならないんですよ。最初の5話までは本当につらくて「脱獄したい」と思ってたんですけど、目くらまし戦法が効いてだんだん慣れてきました。でも後半になると漫画を描きすぎて日常の全てに対して、頭の中でコマ割りに落とし込んでしまう現象に見舞われました。人と会話してても、映画を観ていてもその内容がどんどん脳内でマンガページになっちゃうんですよ。頭がパンクしそうでした。

――大変すぎる。

アッチ: でも過酷なスケジュールマンガを描き続けた結果、自分に合ったマンガの描き方をいくつか発明できたのはよかったです。詳しくは企業秘密で。以前は1日のノルマを決めて作業をしていたんですけど、1日の作業時間を決めて作業をするほうが効率がいいというのも、週刊連載を通して学びました。というのもノルマ制だと、「今日のノルマ達成しそうだな」って思った以降サボっちゃうんですよね。7時に起きて、休憩時間で区切りながら原稿をやる。20時には絶対やめて、筋トレをして0時には寝るスタイルにしました。

――健康的だ。

●打ち合わせのメインピックは、ヤンジャン編集部の人間関係

F山: アッチさんは「効率」を考えるのがすごく得意な方なんです。

アッチ: 効率を上げることはいつも考えてます。でもマンガ以外では何も頭を使ってません。

――えっ?

アッチ: マンガ以外のことで脳みそを使いたくなかったから、他のことは全部、家族に任せてました。服のコーデを全部用意してもらったり、夕食が鍋だったりすると、どの具を選ぶか考えられないので全部とりわけてもらってました。

――やはりアッチさん、模範囚なのでは?

アッチ: 漫画を描くっていう行為が好きなので、それととことん向き合えたのは良い経験でした。

――週刊連載で一番うれしかったことは?

アッチ: 原稿料です。週刊ってページが多いからその分もらえるんです(笑)

――単行本の表紙、上下巻の背景のコントラストがすごくステキです。

アッチ: 上下巻の表紙どうするって打ち合せしていて、F山さんが「今まで上下巻やったことない」って言うから、「じゃあお前(F山)の思い出に残る上下巻にしてやるよ」と言って描きました。

――思い出感、ありますね。手元に置きたくなりました。これはデジタル着彩ですか?

アッチ: カラーは全部デジタルだと、ぺろーっとしてしまうので、どこか一カ所はアナログでやるようにしてます。今回の表紙は背景に絵の具を使ってます。作業に入る前に、単行本表紙に原稿料が出ないと知って、めちゃくちゃショックを受け、「ケチっ」って思いながら頑張りました。でもこの後に、連載終了祝いで天ぷらおごってくれるんです。

――また食べ物で釣っている! 連載中のF山さんとの打ち合わせって何を話しているんですか?

アッチ: うーん。なんだろう。打ち合わせは毎回2時間くらいしてたけど、ネームの話は3分くらいで終わってましたね。「これどうする?」「いいじゃないですか?」「そっか?」で。

――残りの1時間57分何の話を!?

アッチ: 最近楽しかったこととか、編集部の人間関係の話です。

F山: アッチ先生はものすごく記憶力がいいんです。何気ない世間話も全て覚えているので毎回驚かされました。料理好きな後輩が話題に挙がったときは、後日、本人にレシピを聞かれてましたね(笑)。そうやって記憶されてる人間のプロフィールが、作品のベースとして蓄積されてるんじゃないかと思います。

アッチ: こちらがどれだけ「ヤンジャン編集部の悪口」を聞き出そうとしても、人の悪口を一言も言わないんですよ。つまんなくないですか?

――(笑)

●結局、編集の赤字は無視しない?

――以前のインタビューで「アッチさんは“うそつき村”の住人だ」という話がありましたけど、F山さんは“正直村”の住人ってことですね。

アッチ: そうそう。まさに私のことを“うそつき村”の住人呼ばわりしたのがF山さんなんですよ! 私とF山さんが同じ村の住人じゃないのは、とても助かりましたね。プロットを考えているときに「この後どうなると思う?」って聞くと、F山さんがだいたい普通のことを言うんですよ。

――だいたい普通のこと(笑)

アッチ: だから「よし、その展開にはしないようにしよう!」とこっそり思って、斜め上の展開を考えるヒントになりました。ラストも、F山さんからは「友寄が前に進んだところを見せてほしい」と言われたんですよね。ただ、前に進むだけが成長というわけではないと私は思っていて。考えた末に、それとは違ったラストにしました。本編でポチがどう成長したか読んでください!

――やはり、編集の言うことは聞かない主義ってことでは?

アッチ: 「もっともだな」と思う提案はちゃんと取り入れましたよ! ヤンジャン読者のことをよく知ってるのはF山さんですから。作画を大きく変更したこともありました。たしか、あれは3話だったかな。花ちゃんの姉と妹を結構早く登場させる予定で描いていたんですが、F山さんから「もっと後がいい」とストップが入って。トーンまで貼った状態だったので、「今言う???」と散々文句を言いましたけど納得できたので、そこは大幅工事をしました。

F山: 打ち合わせと内容が違うときも、そこにはちゃんとアッチさんの意図があるので。あくまで作品ファーストな作家さんだと思います。

――信頼関係があるからこそですね。

アッチ: 信頼っていうか、私は端的に物を言い過ぎるところがあるんですけど、F山さんはすぐ意図をくみ取ってくれて、会話が滞らないのが楽でした。

――そうしてでき上がった『ポチごっこ。』。どんな人に読んでいただきたいですか?

アッチ: 『ポチごっこ。』は、今あまり元気がない人に、ちょっとでも元気になってほしいという気持ちで描いたので、そういう人に是非読んでほしいです。ストレスのない長さですし、絵もかわいいです!

F山: 2019月12月発売予定の「LOVE」をテーマにしたヤングジャンプの増刊誌に、アッチあい先生の新作読み切りが掲載されるので、そちらも是非ご一読ください!

――アッチさんらしいお話がたくさん聞けて、良いインタビューになったと思います。今後の活躍も応援してます!

ポチごっこ。(C)アッチあい/集英社