わたし先日の記事で「男子御三家」と呼称される麻布・開成・武蔵の概要を紹介した。この記事はわたしの最新刊『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』(文春新書)の一部を抜粋、修正を加えたものである。

男子御三家の卒業生のタイプをたとえると

 わたしはこの本を著すにあたって、男子御三家各校の学校関係者、卒業生たちに取材を重ねた。

 そして、彼らは中高6年間で身につけた各校独自の「カラー」が、いまでも各自の行動規範に影響を及ぼしていることを感じたのだ。つまり、彼らそれぞれに「麻布的な何か」「開成的な何か」「武蔵的な何か」を感じ取ることができたのだ。

 それらの特徴をまとめようと、わたしの経営する中学受験専門塾のスタッフたちと各校の卒業生たちに一脈通じる「性質」のたとえ話を考えたら、夜遅くまで盛り上がってしまった(弊社のスタッフには開成出身者が2名、武蔵出身者が1名いる)。

 その結果、「プラモデル」を用いたたとえ話がぴったりだね、という結論に達した。ここに開陳したい。

 もし複雑なプラモデルを組み立てるのであれば?

・麻布生……組立説明書は無視、感覚だけで独創的かつ味のある逸品を製作する。
・開成生……組立説明書を一言一句しっかり読み込み、精巧で完璧な作品を製作する。
・武蔵生……組立の途中で各パーツにのめりこんでしまい、なかなか作品が完成しない。

 そして、それぞれの特徴を二字熟語に落とし込むと次のようになる。

 麻布は「鬼才」。
 開成は「秀才」。
 武蔵は「変人」。

 もちろん、どれも「褒め言葉」である。男子御三家各校の卒業生たちに取材していると、出身校別に共通する「才知」がひしひしと感じられたのだ。

 それでは、3回にわたって男子御三家各校の教育の特質の一端を紹介していきたい。

 今回取り上げるのは「麻布」である。

ウィキペディアには300名以上の卒業生が

 4年前に創立120年を迎えた麻布。

 麻布の進学校としての実力は昔より揺るぎがない。1954年以来、70年近く東京大学合格者数ランキングトップ10に顔を出している。これは現在東京大学に最も多くの合格者を輩出する開成でさえなしえていない偉業だ。

 麻布の卒業生は多岐に渡る分野に進出している。政財界、法曹界、文学界、学術分野はもちろんのこと、高学歴が求められていない世界にも進出している人が多いのも特徴的である。ウィキペディアの「麻布中学校高等学校の人物一覧」を見ると、輩出した著名人の多さに舌を巻く。その数、何と300名以上。

自らの正義を貫くために

 そういえば2017年には一人の麻布卒業生が世間を大きく賑わせた。元文部科学事務次官の前川喜平氏である。彼が初等中等教育局課長を務めていた際は小泉純一郎政権が推進しようとした「三位一体改革」に噛み付き、義務教育費の削減などに異議を唱え、話題になった人物だ。そして、2年前は「加計問題」で数々の証言をおこない、政権を揺るがした。彼の座右の銘は「面従腹背」。このことばは一般的にマイナス要素で用いられるが、彼は「自らの正義、信念は、どんなことがあっても曲げずにいよう」と考えているのだろう。

 この前川氏を「平成の忠臣蔵」と形容し、援護したのは元経済産業省官僚であった古賀茂明氏である。そう、彼もまた麻布の卒業生だ(前川氏より1学年後輩)。

 さらに、麻布でラグビー部に所属していた前川氏とスクラムを組んでいたのは、城南信用金庫顧問、麻布学園理事長を務める吉原毅氏である。吉原氏は東日本大震災後、城南信用金庫が掲げた「脱原発宣言」を主導し、元首相の小泉純一郎氏らと脱原発活動を続けている。

 この3名に相通ずるのは、自らの正義を貫くためには、周囲の目を恐れることなく「反官権的」になってもみせるという点だ。

 そう、わたしが麻布の卒業生たちに取材をして感じたのは、「体制」に従順な人間などあまり見られなかったという点だ。これは一体どういうことだろう。わたしは麻布の歴史にそのヒントがあると睨んでいる。

中1は麻布創立者の志を徹底的に学ぶ

 麻布の難関の入試を見事にパスし、入学した生徒たちはすぐに麻布の歴史を学ぶ。1学期の道徳の時間に「中1校長特別授業」がある。麻布の創立者である江原素六の歩んできた道が書かれている新書サイズの本(加藤史朗著『江原素六の生涯』麻布文庫第1巻)が生徒たちに手渡され、それに基づき、校長が授業をおこなう。そして、生徒たちは夏休みにこの本についての感想文に取り組むというものだ。

 創立者の志について、これほどまでに時間をかけ、そして、感想文まで提出させる学校は珍しい。

 換言すれば、第1関門を「中学入試」とするならば、この取り組みは「本当の麻布生」になるための(あるいは、近づくための)第2関門に相当するのだろう。中学校1年生という日々学校生活に新鮮味を見出している時期におこなうのだから、この取り組みが各人の心に何かしらの刻印を残す可能性は高い。とするならば、この創立者の志を学ぶ試みは麻布生たちの行動規範の基盤になるのかもしれない。

動の時代を生きた麻布創立者・江原素六

 それでは、麻布の創立者である江原素六とはどのような人物であったのだろうか。

 江原素六は、1842年(天保13年)、幕臣の長男として江戸で生まれた。父が幕臣とはいえ、その食禄もわずかであり、生活は困窮していた。しかし、素六は学ぶことについてはひときわ貪欲であった。素六は漢学や蘭学、洋算、そして剣術などの学問に勤しんだ。

 その甲斐あって、素六は20歳にして解体寸前であった幕府軍の指揮官となる。

 江戸幕府が滅亡したあと、素六は沼津に設置されていた陸軍局のもとで沼津兵学校の経営管理に当たった。その後、明治政府の命令で兵学校が廃止された後も、集成舎(現在の沼津市立第一小学校)、沼津中学校、駿東高等女学校(現在の沼津西高校)などを設立し、沼津の教育に尽くした。

 そして、東京に戻った素六はカナダ・メソジスト教会のミッションスクールとして設立された麻布鳥居坂にあった東洋英和学校の幹事となる(のち校長に就任)。そして、1895年(明治28年)にその東洋英和学校内に麻布尋常中学校を創立、初代校長を務めた。これが現在の麻布の前身である。

江原素六の残したことば

 決して恵まれていない生い立ちだからか、素六が遺したことばに通底しているのは「弱者への温かな眼差し」であるとともに、「権力」を疑ってかかる姿勢だ。それらがよく現れている素六の語録を3つ紹介したい。

「一体日本人の考えでは、何だか政府が一番大きいように思って居る。文明の進んだ国においては、政府の力などは至って微弱なものである」

「人を待遇するには、人の自由と権利を尊重しなければならないと同時に、自らも独立自尊の徳に満ちておらねばならぬ」

「労働者は『人』であるとの自覚から、各個人が独立の品位を保つ為に、労働に対する正当なる労銀を要求する権利を、欧米にてははやくから法律を以て認めているのである。この正当の労銀を要求するには、個人の力では目的を達し難いゆえに、団体の力を以てこれに当たるのである。富める者、地位ある者は、とかく傲慢に陥り易いものであるから」

 これらのことばを見ると、「反体制的・反権力的」なものが目立つ。わたしはこれを旧幕臣としての薩長藩閥政府への素六の反発とは単純に受け取ってはいけないと思う。そうではなく、時の権力がどう変わろうとも、決してブレない確固たる個性を各人が備えるべきであるという強い信念があったのではないか。

 この創立者の志が麻布生たちに脈々と受け継がれているのである。先述した卒業生の一例でもこのことがよく分かるだろう。

麻布で学ぶ6年間

 冒頭のプラモデルのたとえ話に戻ろう。

〈麻布生……組立説明書は無視、感覚だけで独創的かつ味のある逸品を製作する〉

 この組立説明書は「体制」「権力」と言い換えてもよいかもしれない。

 麻布の教育スタンスを端的にまとめると、「で、自分の本心、意見はどういうものなのだろうか?」……そんなふうに日々、生徒たちを自問させるような試みをおこなっている。中高6年間の中で麻布生たちは周囲に付和雷同することのない確かな「個」を育んでいく。麻布出身者に自由人的な「鬼才」が多いように感じるのは、そういう背景があるからだろう。

 拙著『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』では、この麻布の学校生活やその独自の教育について詳述している。

 わたしは少子化の波が襲いかかる中で、それでも人気を博す学校の条件のひとつとして「卒業生に応援される学校である」ことを筆頭に挙げたい。創立以来受け継がれてきた学校独自の教育文化をかけがえのない宝物として持ち続け、よりよい学校を希求していく――そういう思いを胸に、子どもに向き合っている学校こそ、魅力ある佇まいをみせると考える。

「昔から変わらぬわたしの母校で、わが子、わが孫にも中高生活を送ってほしい」

――そんな卒業生たちの願い、後押しは、必ずやその学校の「半永続性」を担保するのである。

 麻布は間違いなくそういう学校なのだ。

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 続きは『男子御三家』(文春新書)にて。受験期のお子さんを抱えている家庭だけでなく、OB、「教育とは何か?」を考えるすべての人にアピールする好著である。

INFORMATION

男子御三家の卒業生は、中高6年間でそれぞれ身につけた独自の「色」があるように感じます。それでは、あなたの性格は「麻布的」「開成的」「武蔵的」……一体、どれでしょうか?

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(矢野 耕平)

『男子御三家』(文春新書)