来年の総選挙を向けてのアピール材料にしたかったのだろう。

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 韓国の文在寅ムン・ジェイン)政権が2カ月以上も情熱を注いできた金正恩氏の韓国への招待が水の泡となった。11月21日北朝鮮側は文大統領11月5日に極秘に親書を送っていた事実を公表した上で、韓国側の「韓国+ASEAN首脳会談」への招待を断ってみせた。

 これによって、北朝鮮金正恩キム・ジョンウン委員長に対する文在寅大統領の一方的なプロポーズは、再び韓国世論の厳しい批判に晒されることになった。

暴露された金正恩への親書の内容

 北朝鮮の機関紙の「朝鮮中央通信」は21日、『何事にも適当な時と場所があるものだ』というタイトルの記事で、文大統領金正恩委員長に25日から釜山で開かれる韓国+アセアン首脳会議に出席してくれるように「懇切に招請する親書を丁重に送ってきた」と明らかにした。また、「韓国側は親書が届いた後も、(金正恩)国務委員長が来られないのなら、特使を派遣してほしいという切実な願いを何度も伝えてきた」とし、水面下の接触があった事実まで暴露した。

 記事は末尾に「南側の期待と誠意はありがたいが、国務委員会委員長が釜山へ行けなければならない適当な理由をついに見つけられなかったことを理解してほしい」と、文在寅大統領の招待に対する拒絶の意思を明確に示した。内密にされるべき韓国大統領からの親書の存在を北朝鮮は官営メディアを通じて韓国国民に暴露し、その要請に応じる可能性を完全に否定したわけだ。

 これを受けて韓国では、文在寅政権の対北朝鮮政策の不透明さと屈辱的な態度に対する批判が日々増している。

 それだけではない。ここ最近の、文在寅政権の北朝鮮人権に対する曖昧な態度が再度クローズアップされ、「文在寅政権は金正恩氏の訪韓を促すために、北朝鮮の人権問題を交換条件にしようとしていたのではないか」という疑惑まで提起されている。

 どういうことか。

息子を亡くした両親に「ご家族の幸せと健康を祈る」の言葉

 韓国の第1野党の自由韓国党は、文大統領の親書のお届け日時が「11月5日」という点に注目し、次のような声明を発表した。

「あいにくにも親書を渡した5日は、南北共同連絡事務所を通じて韓国政府が脱北した2人の乗組員を強制送還すると北朝鮮に意思を伝えた日だ。翌日の6日、北朝鮮は、北朝鮮の乗組員たちを受け入れる意思を表明し、韓国政府はかれらを死地に追いやった」「結局、文在寅大統領が『人権』と『韓国の国民』を放棄してまで得ようとしたのは何なのか。『握手ショー』のために屈従的態度も厭わない文在寅政権が国民を失望させていることだけは確かだ」

 前回の記事で詳報したが、11月2日、東海(日本海)上のNLL以南で、北朝鮮のイカ釣り漁船が韓国海軍によって拿捕された。当時、船舶に乗っていた2人の乗組員は亡命意思を明らかにしたが、韓国政府は彼らが16人の同僚の船員を殺害した凶悪犯と判断、11月5日北朝鮮側に送還意志を打診、7日に急いで北朝鮮に帰した。板門店までの護送課程では2人に目隠しと捕縛までし、抵抗に備えるために猿ぐつわまで準備したという事実がメディアによって暴露され、韓国内外から「反人権的だ」という非難が巻き起こっているのだ。

参考記事:文在寅、北の亡命希望者を「強制送還」で地獄送りに
https://post.jbpress.ismedia.jp/articles/-/58272

 さらに、その過程で、送還を陣頭指揮したのが主務省庁の国防部ではなく大統領府であったことも、国民の大きな不信を買った。この強制送還の事実が公になったきっかけが、政府の発表ではなく、偶然に報道カメラに撮られた政府高官がスマートフォンで受信した報告メールだったからだ。そのため現在でも数多くの疑惑が呈されている。

 北朝鮮の「人権問題」から意識的に目をそらそうという態度は、これだけではない。14日には「文在寅大統領がワームビア夫婦の面談申請を断った」という報道があった。

 米国バージニア州立大学3年生に在学中だったオットー・ワームビアさんは、2016年、観光で北朝鮮に渡ったところ、北朝鮮当局によって17カ月間も抑留されていた。帰国できたのは2017年6月だったが、その時すでに昏睡状態で、帰国の6日後に死亡した。

 事件後、ワームビアさんの両親は、世界中を飛び回り、北朝鮮の人権蹂躙の惨状を知らせる活動に力を注いできた。そのワームビア夫妻は、22日からソウルで開かれる「国際決起大会」に出席するため韓国を訪問する予定だった。

 そこで、主催者である「6・25戦争拉致被害者家族協議会」は11月1日大統領府へワームビア夫妻との面談を要請する手紙を送っていたのだが、大統領府は13日に「日程上面談は困難」という返事を送ってきたのだという。主催者側が公開した大統領府からの手紙には、北朝鮮によって息子を亡くしている親の心情を無視するように、「ご家族の幸せと健康を祈る」という紋切り型の文言で締めくくられていた。

 さらに14日にあった国連総会の「北朝鮮人権決議案」の共同提案国では、韓国は11年ぶりに提案国に名を連ねなかった。北朝鮮との関係を考慮し、2008年以来ずっと共同提案国の一員となっていた北朝鮮人権決議案に名前を載せることを放棄したのだ。

国民の忍耐は限界に達している

 しかし、ここまで金正恩の顔色を窺い続けた文在寅政権の「誠意」も、北朝鮮を動かすことはなかった。北朝鮮は、文在寅大統領の親書を一方的に公開するという外交上の非礼を犯しただけでなく、韓国政府の招待を「枯れ木から水取り」「牛の角の上に卵を積む工夫」「犯した過ちに対する反省とすまない気持ちで三顧の礼をしても足りない状況」などと非難した。

 文在寅大統領北朝鮮に対する配慮と忍耐が今後も続くかどうかは分からない。だが、韓国で生活している私の実感から言わせてもらえば、韓国国民の忍耐はとうに限界に達している。

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11月19日、韓国MBCの番組に生出演し、100分間の「国民との対話」を行った文在寅大統領。北朝鮮が、国際会議への招待を断ってきたのはこの2日後だった(左。写真:YONHAP NEWS/アフロ)