兄のチャド・モルデンハウアー(右)と弟のジャレッド・モルデンハウアー(左)。幼い頃からアクションゲームを遊んでいた。父親の影響で30年代のカートゥーンアニメが大好き。建設作業員として働きながら空いた時間に独学で『Cuphead』制作をスタート。7年の歳月をかけて完成させた
兄のチャド・モルデンハウアー(右)と弟のジャレッド・モルデンハウアー(左)。幼い頃からアクションゲームを遊んでいた。父親の影響で30年代カートゥーンアニメが大好き。建設作業員として働きながら空いた時間に独学で『Cuphead』制作をスタート。7年の歳月をかけて完成させた

今、ゲーム業界では海外インディーゲームに注目が集まっている。インディーゲームとは小規模、独立系企業または個人が開発したゲームのことだ。

そこで、今年、スイッチ向けに発売されたインディーゲームの中で特に異彩を放つ、カナダのインディーゲーム開発会社Studio MDHRが開発した『Cuphead』の開発者、チャド・モルデンハウアージャレッド・モルデンハウアーにインタビューした!

* * *

■『Cuphead』とは
激ムズの2Dシューティングアクション。30年代カートゥーンの手法を再現して1コマ、1コマ手描きで描かれたキャラクターたちを操作することで、まるでアニメの世界に入ったような気分が味わえる。

――『Cuphead』の全世界での販売総数が500万本を超えました。Nintendo Switch版を筆頭に日本でも好調なセールスを続けていますね。

ジャレッド 子どもの頃からチャドと僕はずっと、日本で生まれたゲームを遊ぶことに数え切れない時間を費やしてきました。カプコン任天堂、セガ、コナミ、その他の偉大なゲーム会社がなければ、今僕らはゲーム作りにのめり込んでいたかどうかわかりません。

これらの会社が作り出した古典的名作が、僕ら兄弟をゲーマーに育ててくれました。だから、僕らにとって日本の皆さんに受け入れられるというのは、究極のご褒美ですね。

あとこれも、ぜひ日本のファンの方々に伝えたいのですが、日本の皆さんが描く『Cuphead』のファンアートは本当に素晴らしい。私もよく素敵な作品を見つけてデスクトップの壁紙にしていますよ!

――さまざまなインタビューで、『Cuphead』を制作する際にインスピレーションを受けたゲームとして日本産ゲームの名前を挙げていますが、もともと日本のゲームのファンだったんですか?

ジャレッド 子供の頃、チャドと僕は、特に日本産ゲームのファンだったというわけではなく、いろんなゲームを遊んでいました。だけどその中で、日本産のゲームは僕たちが引き込まれてしまうような活気に満ちていて、とても楽しく魅力的でした。大人になった今遊んでも、日本のゲームは特徴的なキャラクターと素晴らしいデザイン哲学を持っているように感じます。

特に『Cuphead』を作るときには、緻密なデザインと鮮やかなグラフィックをミックスすることに力を入れていたので、自分たちが子どもの頃から遊んでいた日本の名作ゲームに自然と近づいていったのでしょうね。

――株式会社トレジャー制作のタイトルが多いですよね。

チャド トレジャーはいつも、ゲームにほんの少しのスパイスときらめきを加えている会社でした。既存のゲームシステムに、特別なニュアンスとユニークなタッチを取り入れる。だからプレイ後も敵のパターンに加えられているちょっとしたディテールがいつも私たちの心に残るんです。

ビジュアル面でも、すべての背景や敵たちに、キュートなユーモアやねじれを加えることで個性を与えることを忘れませんでした。

――インスピレーションの源泉となったという過去の名作ゲームの数々は、実際、『Cuphead』にどのような影響を与えているのかを、各タイトルごとに教えてください。

【1】『ガンスターヒーローズ』(メガドライブ 1993年発売)について
2D横スクロール型アクションの名作。次々に現れて形態を変えるボスを武器を使い分けての攻略するゲームスタイルは『Cuphead』に多大な影響を与えている。(C)SEGA

ジャレット 鮮やかで楽しい美的感覚と創造性に満ちあふれています。プレイ中、30秒に1回、何か新しくてすごいものに出くわします。キングダイス戦でのバトルに、『ガンスターヒーローズ』の「スゴロク要塞」ステージのオマージュがありますよ。

『ガンスターヒーローズ』のステージ4「スゴロク要塞」。すごろくの要領で進んだマスごとにボスとバトルする。(C)SEGA
ガンスターヒーローズ』のステージ4「スゴロク要塞」。すごろくの要領で進んだマスごとにボスとバトルする。(C)SEGA

キングダイス戦。こちらもサイコロを振って、矢印を進めて、止まったマスのステージをクリアしていく。(C)SEGA
キングダイス戦。こちらもサイコロを振って、矢印を進めて、止まったマスのステージをクリアしていく。(C)SEGA

【2】『魂斗羅 ザ・ハードコア』(メガドライブ 1994年発売)について
2人同時プレイが可能な人気2Dアクションシリーズのメガドライブ用作品。名前通り、ハードコアな激ムズ難易度に仕上がっている。(C)Konami Digital Entertainment

ジャレット 『Cuphead』のラン&ガンステージ(横スクロール型アクションステージ)のテンポ感については、まさにこのゲームを念頭に置いて制作しました。 

常に注意を払い、画面上の敵を処理しつつ、最終的に多段階のボスに到達します。ヒルダ・バーグのボスステージでの、おうし座ふたご座いて座への変身形態は、ステージ4のノイマン・カスケード戦バトルへのオマージュです。

【3】『スーパーマリオワールド』(スーパーファミコン 1990年発売)について
スーパーマリオ」シリーズの4作目。回転しながらジャンプするスピンジャンプやヨッシーに乗って進むなど、多彩なアクションが魅力。※Nintendoオフィシャルサイトより

ジャレット ひょっとすると史上最もタイトな操作性を持つゲームですね。考えつく限りのアクションができるのに、ボタンの入力を最小限に抑えている。それぞれの動きに十分な違いを与えながらも、段階的な難易度曲線を設けて、少しずつ学習させることで、プレイヤーは感じるまでもなく自然と操作がうまくなっていくんです。

メインキャラのカップヘッドマグマンの操作感を、これだ!と思えるまで慎重に考えて練り込むことができたのは、このゲームのおかげです。

【4】『ストリートファイターⅢ 3rd STRIKE-Fight for the Future-』(ドリームキャスト 2000年発売)について
ゲージをためることにより、必殺技や特殊能力を発動するスーパーアーツや、ガード中にシビアな入力を求められるガードロッキングなどのシステムが追加された。(C)CAPCOM U.S.A.,INC.ALL RIGHTS RESERVED.

画像はスーパーアーツが発動した瞬間。写真は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション インターナショナル』のもの。
画像はスーパーアーツが発動した瞬間。写真は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション インターナショナル』のもの。

ジャレット 『ストⅢ』に登場する、攻撃がヒットするたびゲージが蓄積され、MAX状態で発動可能になる超必殺技、スーパーアーツは選択式なのですが、選んだ技によってキャラクターの扱い方にまで影響を及ぼします。このゲームへの思い入れが『Cuphead』にEXショットとスーパーメーターを導入することに繋がりました。

【5】『レイディアントシルバーガン』(セガサターン 1998年発売)について
トレジャーが手掛けた8種類の攻撃方法を使い分けるシューティングゲーム。「レイディアントソード」という武器を使えばピンク色の敵弾は消すことが可能。(C)TREASURE

画像はXbox Live Arcade版。
画像はXbox Live Arcade版。

ジャレット 基本の武器セットを使い回すことに価値があることを示す見事な例を示したゲームです。『Cuphead』のメイン武器がステージによって、有利になったり不利になったりすることへと繋がりました。

ストリートファイターⅢ 3rd』のガードロッキングと『レイディアントシルバーガン』のレイディアントソードへの思い入れから生まれたのがパリィシステムです。パリィの対象の攻撃やオブジェクトがピンクなのはそれが理由ですね。

『ストⅢ 3rd』のガードブロッキング。判定はとてもシビアだが成功すればボディが赤くなり、スーパーアーツゲージがたまる。写真は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション インターナショナル』のもの。(C)CAPCOM U.S.A.,INC.ALL RIGHTS RESERVED.
ストⅢ 3rd』のガードロッキング。判定はとてもシビアだが成功すればボディが赤くなり、スーパーアーツゲージがたまる。写真は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション インターナショナル』のもの。(C)CAPCOM U.S.A.,INC.ALL RIGHTS RESERVED.

【6】『ロックマン』シリーズ(ファミリーコンピューター 1987年~)について
各ステージのボスを倒して得る能力を使ってさまざまなステージを攻略する2Dアクションの傑作シリーズ。4作目となる『ロックマン4 新たなる野望!!』(1991年発売)からチャージショットが導入された。(C)CAPCOM CO.,LTD.ALL RIGHTS RESERVED.

(左)『ロックマン2 Dr.ワイリーの謎』(1988年発売)に登場するメカドラゴン。(C)CAPCOM CO.,LTD.ALL RIGHTS RESERVED.(右)影響を受けたというボス、グリム・マッチスティック。そっくり! (C)CAPCOM CO.,LTD.ALL RIGHTS RESERVED.
(左)『ロックマン2 Dr.ワイリーの謎』(1988年発売)に登場するメカドラゴン。(C)CAPCOM CO.,LTD.ALL RIGHTS RESERVED.(右)影響を受けたというボス、グリム・マッチスティック。そっくり! (C)CAPCOM CO.,LTD.ALL RIGHTS RESERVED.

ジャレット 『ロックマン4』から導入されて、他のゲームの先駆けとなったチャージショットこそが、まさに私たちが必要としていた武器でした。『Cuphead』には同じようにショットボタンを押しっぱなしで威力が高まる武器が「チャージ」の名前で登場します。

【7】『ロックマンX』シリーズ(スーパーファミコン 1993年~)について
スーパーファミコンで発売された新たなロックマンシリーズ。第1作『ロックマンX』からダッシュ、壁蹴りなどの新アクションが導入された。(C)CAPCOM CO.,LTD.ALL RIGHTS RESERVED.

ジャレット 『ロックマンX』を研究することが、『Cuphead』のダッシュに大きな特徴をつけるきっかけになりました。スライドする際に当たり判定が低くなる点は、私たちのダッシュにも取り入れています。

それによってダッシュの動作が2つの意味を持ち、空中でのアクションに加えて、一定の攻撃の回避法という当初の意図を超えた防御オプションとしての意味を持つ動きになりました。

【8】『サンダーフォース』シリーズ(メガドライブ 1989年~)について
上下やうしろ方向へのスクロールなど驚きのギミックが登場するサイドビュー型シューティングシリーズ。(C)SEGA

写真はメガドライブで発売された『サンダーフォースⅢ』(1990年発売)の1面の巨大ボス
写真はメガドライブで発売された『サンダーフォースⅢ』(1990年発売)の1面の巨大ボス

ジャレット このゲームはプレイヤーの自発性を刺激する難しさを加えるために、ほとんどの敵の攻撃がプレイヤー機に常に少しずつ重なるように作られています。敵の攻撃に対して常に動いて対応しなくてはいけないものの、反復してチャレンジすることでクリアできるようにデザインされている。

この「頑張ればなんとかなる」式のパターンを採用した最も代表的なゲームのひとつです。『Cuphead』のステージには、可能な限りこのゲームの持つ法則を適用しようと努力しました。

【9】『斑鳩 IKARUGA』(ドリームキャスト 2003年発売)について
弾に黒と白の属性があり、自機の属性を変えながら戦う。同じ属性の敵弾は吸収することができるのが特徴。(C)TREASURE

写真はプレステ4版。最難関の白黒の弾と敵が入り乱れるステージ4。
写真はプレステ4版。最難関の白黒の弾と敵が入り乱れるステージ4。

ジャレット トレジャーの創造性が最も素晴らしい形で発揮されています。古いジャンルに、ほんの少しの新たなシステムをどう加えるべきかという方法を学ばせてくれます。

『斑鳩IKARUGA』は、黒と白の属性というアイデアで、それを気軽に、かつ巧妙に行っています。デザインの段階において「自分が必要なものを探し出すまで頑張れ!」という気持ちを僕らに持たせてくれました。

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――最近発売されたばかりのメガドライブミニには、ふたりが影響を受けたゲームが多く収録されています。収録タイトルについて感想をお願いします。

今年9月に発売された『メガドライブミニ』。新タイトル『テトリス』、『ダライアス』を含む全42タイトルを42本収録。価格は6980円(税抜)
今年9月に発売された『メガドライブミニ』。新タイトル『テトリス』、『ダライアス』を含む全42タイトルを42本収録。価格は6980円(税抜)

チャド 収録タイトルに素晴らしいゲームが揃っていますね。こういった企画では、常に何本かラインナップに入ってほしかったのに漏れてしまったレアなタイトルがあるものですが、メガドライブミニには私のお気に入りのゲームが概ね入っています。

この懐かしいゲームたちが、新世代のプレイヤーたちのために現代によみがえったのは素晴らしいことだと思います。多くの人にとってメガドライブゲームの魅力を知る入口となってくれることを願っています。

こちらがメガドライブミニの収録タイトル。『サンダーフォースⅢ』、『ガンスターヒーローズ』、『魂斗羅 ザ・ハードコア』、『ロックマンメガワールド』(1994年発売。『ロックマン』シリーズ1~3作目をまとめたセット)の他、株式会社トレジャーが開発した『ダイナマイトヘッディー』(1994年発売) 『幽☆遊☆白書~魔強統一戦~』(1994年発売)、『コミックスゾーン』(1995年発売)も収録!
こちらがメガドライブミニの収録タイトル。『サンダーフォースⅢ』、『ガンスターヒーローズ』、『魂斗羅 ザ・ハードコア』、『ロックマンメガワールド』(1994年発売。『ロックマン』シリーズ1~3作目をまとめたセット)の他、株式会社トレジャーが開発した『ダイナマイトヘッディー』(1994年発売) 『幽☆遊☆白書~魔強統一戦~』(1994年発売)、『コミックスゾーン』(1995年発売)も収録!

――最近遊んで面白かったゲーム、よく遊んでいるゲームを教えてください。

チャド ジャレッドと私は、間違いなく今もレトロゲーマーです。ゲームで遊ぶ時間は限られていますが、タイミングを合わせて挑戦しがいのあるゲームを選んで遊んでいます。ふたりとも、まだ生涯にわたるセガマスターシステムのゲームをコンプリートを目指す旅の途中です。

最近、ジャレッドは『サイコワールド』(MSX他)をプレイしていますし、私は息子と『ワンダーボーイⅢ モンスター・レアー』(PCエンジンCD-ROM2他)を遊んでいます。もちろん私たちがまだ遊べていない、たくさんの素晴らしい新作が多くあることも知っています。

ジャレッドは最近、『The Messenger』(Nintendo Switch他。『忍者龍剣伝』の影響を受けたアクションゲーム)を終わらせて『Blazing Chrome』(Nintendo Switch他。『魂斗羅』風2Dアクションゲーム)を始めましたが、どちらも素晴らしい体験だったと話していましたよ。

――あなたたち兄弟が『Penguin Land』(北米版セガ・マークⅢであるSega Master System用ソフト)でゲームデザインを学んだように、現在、『スーパーマリオメーカー2』(Nintendo Switch)で遊んでいる子供たちが、数年後、『Cuphead』のようなゲームを開発する可能性はあると思いますか?

『penguinland』(セガ・マスターシステム 1987年発売)。日本では『どきどきペンギンランド 宇宙大冒険』のタイトルで知られる、卵を下へ下へと運ぶアクションパズルゲーム。当時の家庭用ゲームソフトとしては画期的なステージ作成機能を搭載。2人は子供の頃、このゲームを夢中で遊ぶことでゲーム作りを学んだ。(C)SEGA
penguinland』(セガ・マスターシステム 1987年発売)。日本では『どきどきペンギンランド 宇宙大冒険』のタイトルで知られる、卵を下へ下へと運ぶアクションパズルゲーム。当時の家庭用ゲームソフトとしては画期的なステージ作成機能を搭載。2人は子供の頃、このゲームを夢中で遊ぶことでゲーム作りを学んだ。(C)SEGA

チャド 『スーパーマリオメーカー2』は新たなゲームデザイナーたちの才能を呼び起こすはずです。簡単なツールにアクセスすることで、自分の創造性を発揮して輝かせることができるなんて、本当に素晴らしいツールだと思います。自分の作ったステージをオンラインでシェアできて、他の人を楽しませることができるんですからね。

ゲーム内の優れたステージデザインに関するヒントのおかげで、プレイヤーは何がステージを楽しくさせているかについて理解を深めることができますし、さらにオンラインで遊んだ人にステージをレビューしてもらえる機能のおかげで、新たな開発に行き詰まることもなくなるはずです。

Penguin Land』や『エキサイトバイク』(ファミコン)の時代からあった、ステージをデザインする機能が、ここまで進化したことに驚いています。まさに私たちの子どもの頃の夢が現実となったようなツールだと思います。あとは『ロックマンメーカー』さえあれば人生は完璧ですね!

取材・文/河上 拓

兄のチャド・モルデンハウアー(右)と弟のジャレッド・モルデンハウアー(左)。幼い頃からアクションゲームを遊んでいた。父親の影響で30年代のカートゥーンアニメが大好き。建設作業員として働きながら空いた時間に独学で『Cuphead』制作をスタート。7年の歳月をかけて完成させた