2017年6月、2014年から試験運用されていた「可搬式速度違反取締装置」、いわゆる移動オービスの導入を発表した警察庁。当初は「年々、増加しつつある、ゾーン30などの生活道路での交通事故防止対策として、狭い道路でも速度取締りを行うことができる移動オービスを順次、全国的に配備する」ということだったのだが、2018年秋、愛知県警が名古屋高速道路でレーザー式移動オービスを本格運用させることを宣言。これを皮切りに、一部の都道府県警が、自動車専用道路首都高、そして紀勢自動車道などでの取り締まりをスタートさせ、さらについ最近、東名高速でも取り締まりを行っていることが発覚! 高速道路での速度取締りは、ドライバーはもちろん、取り締まりを行う警察にも受傷事故のリスクがつきまとう。果たして安全性は担保されているのか、気になるところだ。

h2高速道路での取り締まりには、最低限、予告看板設置による受傷事故リスク回避が必須となる!

 当情報局が入手している、移動オービスによる高速道路(一部有料道路)での取り締まり実績は、上記のとおり(11月現在)。確かに、飛躍的に増えている一般道での取り締まりに比べれば、まだ数えるほどではあるが、なにしろ高速道路は一般道に比べて遥かにアベレージスピードが高い。制限速度の低い高速道路とは名ばかりの都市高速は別にして、東名高速東北道などで100km/h+αで走っていて、何の予告もなく突然、移動オービスが目に入り、慌てて急ブレーキを踏んだらどうなるか。ハンドルを切っていなければ、そのまま進んで減速するだけだが、無意識に計測や撮影を避けようとして舵角を与えると、クルマはあらぬ方向へ行きかねない。幸運にも無事に減速できたとしても、後続車にとってはたまったもんじゃない。交通量の多い高速道路では、十分に車間を空けているケースは少ないだけに、追突事故が起こってもなんら不思議はないのだ。

 さらに、「事前予告看板」が設置されていたとしても(上記目撃例のいくつかは、目撃者により「事前予告看板」の設置が確認されている)、それなりのハイスピードで走っているドライバーの中には、うっかり(?)見落とす人だっているだろう。全国的に多発しているとみられる「Nシステム」を、オービスと勘違いしてブラックマークが残るくらいのパニックブレーキを踏むのと同じ危険性をはらんでいるというわけだ。

 もちろんこれは、ドライバーのみならず、警察官にとっても同じ。ガードレールの外側で取り締まってはいるものの、100km/h超でクルマに突っ込まれたらただでは済まない。その辺のリスクを、果たして認識したうえでの所業なのか。事実、紀勢自動車道での取り締まりの報道写真を見ると、三重県警の警察官はヘルメットをかぶっていることから、ある程度の危険性は感じているようだが、とはいえ、紀勢自動車道の制限速度は70km/h。100km/hでの衝突時の衝撃度は、その2倍を超えるのだ。(衝撃度は速度の2乗に比例する。)

 実は10年以上前、日常茶飯事となっていた高速道路でのネズミ捕りにおいて受傷事故が発生し、それをきっかけに、その後、長年にわたって自粛していたという事実がある。もちろん、従来のネズミ捕りは警察官が道路に飛び出し、違反車を止めるというう危険な作業を強いられていたため、その場で切符を切る必要のない移動オービスとは同列には論じられないが、だからといって、ドライバー側の安全が担保されているとはいえない。最近、流行りの「自己責任」とでもいうつもりなのだろうか。

 とにかく、高速走行時の急ブレーキの危険性は、一般道でのそれの比ではない。気持ちはわかるが、いきなり見たことのないような装置が目の前に現れたとしても、急ハンドル、急ブレーキは極力避けて欲しい。たとえ切符を切られたとしても、命までとられるわけではないのだから。