インターネットの誕生からおよそ四半世紀。噂話はそれまでの口コミからネット経由を介したものとなり、都市伝説はその在り方を変えてしまった。

 こうして数々のネット都市伝説が誕生したわけだが、なかでも特に有名なのが『きさらぎ駅』。巨大掲示板サイト2ちゃんねる』(※現・5ちゃんねる)内のオカルトスレッドへの書き込みから生まれた話だ。

◆列車が着いたのは実在しないはずの『きさらぎ駅』

 同スレッド2004年1月8日深夜、はすみ(葉純)さんという女性からの「気のせいかも知れませんがよろしいですか?」との投稿から話は始まる。

「いつも通勤に使っている電車なのですが、先程から20分くらい駅に停まりません。いつもは5分か長くても7、8分で停車するのですが」

 その後も実況を続け、列車はやがて駅に停車。しかし、そこは民家も人の気配もない無人駅で、「近くには本当に何も無いです。草原とか山が見えてるだけです」と述べている。

 実は、彼女が降りたとされるこの駅こそが『きさらぎ駅』なのだ。

 ただし、書き込みのあった2004年当時も現在もそんな名前の鉄道駅は実在しない。はすみさんも駅名に聞き覚えはなく、どこにいるのか見当もつかないというのだ。

 その後、自宅に電話して親に迎えに来てもらうように頼むが場所がわからないと言われてさらに困惑。近くに交番やタクシーもないため、彼女は線路沿いを歩き始める。

 すると、伊佐貫という名前のトンネルを抜けた後、親切な男性に出会い、「近くの駅まで車で送ってくれる事になりました」と投稿。だが、車は山のほうへと向かい、男性の様子がおかしいことに気づく。
 
「先程よりどんどん山の方に向かってます~(中略)~全然話してくれなくなってしまいました」

 そんな投稿の後、携帯電話の電池が残りわずかだったのか、「もうバッテリーピンチです。様子が変なので隙を見て逃げようと思っています。先程から訳のわからない独り言を呟きはじめました。いざという時の為に、一応これで最後の書き込みにします」を最後に彼女からの投稿は二度となかった。

 投稿時間1月9日の深夜3時44分を指していた。

ネット上できさらぎ駅探しがブーム

 きさらぎ駅だけでなく、伊佐貫トンネルも実際には存在しなかったのだが、彼女は早い段階で「路線は静岡県の私鉄です」「新浜松からの乗車です」「乗った電車は11時40分だったと思います」と書き込んでいた。新浜松駅とは静岡県の私鉄、遠州鉄道の始発駅。仮に彼女の書き込みが事実とするならば、午後11時40分に新浜松駅を出発した列車に乗ったまま異世界にでも入り込んだとしか思えない内容だ。

 それに彼女は新浜松駅から『きさらぎ駅』到着までの所要時間を約40分と書いていたが、同路線の本来の終点の西鹿島駅までの所要時間は33分。この点でも大きな矛盾が生じる。

 ネット上では一時期、「きさらぎ駅探し」がちょっとしたブームになっており、2014年にはGoogleマップで駅名を入力すると、某国立大の敷地内の池が表示されたこともあった。

 このほか、きさらぎ駅構内と称する画像がネット上に出回ったことも(※後に兵庫県内の「西相生駅」だったことが判明)。

 いずれも何者かによるイタズラだと思われるが、だとすると「きさらぎ駅」は一体どこにあるのか?

遠州鉄道に「きさらぎ駅」のモデルになった駅があった?

 これについて地元紙、静岡新聞の記事によると、沿線の『さぎの宮駅』がモチーフになった可能性があるとの遠州鉄道の担当者のコメントを紹介している。

 2019年10月某日、筆者はこの『さぎの宮駅』を訪れたが駅員が常駐しており、無人駅ではなかった。また、駅周辺は田畑もあるが住宅も多く、交通量の多い道路も並行して走っていて、投稿された『きさらぎ駅』周辺の情報と合致しそうな部分がない。

 なお、きさらぎ駅の話には後日談がある。書き込みから7年経った2011年きさらぎ駅のまとめサイトに同じ「はすみ」を名乗る人物から「今、普通の世界に戻れました」との書き込みがあったのだ。

 それによると2004年の最後の書き込みの後、山奥の暗い森の中で車が停まった後、車が光って運転していた男性は消滅。そして、近づいてきた別の男性が「今のうちに逃げるんだ!」と叫び、彼女が泣きながら走って気が付くと見覚えのある最寄り駅で、7年も過ぎていたという内容だ。

◆創作だと知っていても面白い

 冷静に考えれば、人が7年も行方不明になっていれば警察に捜索願を出し、公開捜査になっている可能性が高いだろう。一方、2018年には『きさらぎ駅』に行ってきたという別の人物の書き込みが『5ちゃんねる』にあり、こちらは車掌や沿線住民との触れ合いが中心のほのぼのとした内容になっている。

 恐らく、一連の話は実体験風の創作で、新しい書き込みは別人が便乗して投稿した可能性が高いだろう。でも、そうだとしても“よく出来た話”であることには間違いない。

 小説『裏世界ピクニック』(宮澤伊織/ハヤカワ文庫)では『きさらぎ駅』をモチーフとした話が登場し、コミック版も登場。2018年には遠州鉄道の車内広告で同書刊行のPRを行うコラボも実現している。

 さらに中華圏でもこの話は有名。『如月車站』という名前で小説や漫画にも取り上げられ、聖地巡りで遠州鉄道を訪れる海外の旅行者もいるようだ。

 実在する鉄道駅にもあたかも草原にあるような雰囲気の駅がないわけでもない。物語としても十分面白いが、そうやって自分なりの『きさらぎ駅』を探して旅に出てみるのもまた面白そうだ。<TEXT/高島昌俊>

【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。昨年に続き、今年も年末年始を利用して世界一周(3周目)に出発する。この旅の模様も日刊SPA!にて配信予定。

さぎの宮駅。周辺に草原はない