ヤフー親会社のZホールディングス(ZHD)と、LINE2020年10月までに経営統合を目指すと発表した。報道各社は、競合するキャッシュレス決済「PayPay」と「LINE Pay」の行く末に加え、GAFAGoogleAppleFacebookAmazon)や、中国大手のBAT(バイドゥアリババテンセント)といった海外の脅威を中心に、インターネット業界の転換点を伝えている。

その一方で、メディア企業としての姿を解説する記事は少ない。実は両社は、コンテンツの制作から流通、消費まで、一貫して行える仕組みを持っている。直近の決算資料や媒体資料などを参照しつつ、「巨大メディア企業」としてのヤフーLINE連合を見ていこう。

圧倒的なポータルサイトの強さ

両社のメディア戦略を考えるうえで、まずはポータルサイトに触れる必要がある。ポータルPortal)とは、英語で「玄関」を意味し、文字通りユーザーネット上の情報に触れる入口となるサイトだ。ZHDは「Yahoo!JAPAN」、LINEは「livedoorライブドア)」が主力で、前者は月間ページビュー(PV)が約700億(以下、特記がなければ、19年11月22日時点の最新媒体資料より)、後者は約90億となっている。

これらのポータルサイトは、メディア各社からニュース記事の配信を受けている。2社で言えば「Yahoo!ニュース」(約150億PV/月間、18年7月25日付プレスリリースより)と「livedoorニュース」(7億)がそれだ。Yahoo!ニュースの「ニュース提供社」ページには19年11月中旬時点で、テレビ局から新聞、ネット専業メディアを含めた約600媒体が掲載されている。ここに、Yahoo!ニュースよりも軽めの話題を扱っていた「ネタりか」(10月終了)の百数十媒体もあわせると、そのカバー範囲の広さがわかる。同様にlivedoorの「ニュース配信元一覧」にも、370ほどのメディアが並ぶ。

ポータルサイトは、配信を受けた記事に、独自の見出し(通称:トピックス)や関連情報へのリンク、記事の概略などを付加して、トップページに掲載する。スマートニュースやグノシーといったアプリと違い、編集部が人力で、ニュースの価値判断をするのが特徴だ。

LINEが運営するニュースポータルでは、他に「LINE NEWS」がある。これはLINEアプリ上で直接記事を読めるのが特徴で、19年7月時点で月間アクティブユーザー(MAU=月1回以上アクセスした利用者数)約6700万人としている。LINE NEWSには、メディア側が好きな記事を選んで定時配信できるサービスアカウントメディア」もあり、こちらには320以上の媒体(11月時点)が参加している。

また、ZHDと共同通信デジタルの合弁企業であるノアドットnordot)は、新たな形のニュース配信プラットフォームを持っている。同サービスユーザーは、コンテンツを提供するメディア側(コンテンツホルダー)に加えて、ポータルサイトのように記事を選ぶ側(キュレーター)にもなれるため、企業や個人が「旧来的なポータル観」にとらわれない、新たなサイトを作れる可能性を秘めている。

マスメディアではなく、個人が発信する仕組みも

コンテンツの「作り手」を担うメディアも、2社ともに持っている。Yahoo!ニュースは15年から、取材記事やインタビューなどのオリジナル記事を掲載する「特集」をスタート。解説記事の「THE PAGE」(13年創刊、子会社運営→吸収合併によりヤフーへ)とともに、他社からの配信だけでは補えない読者ニーズにこたえている。また、編集に対する考え方やメディア業界の動向も、オウンドメディア(自社保有の媒体)である「newsHACK」(14年開始)で定期的に伝えている。

ヤフーと米大手ウェブメディアの合弁によるBuzzfeed Japan(バズフィードジャパン)も、創刊約4年で存在感を増し、19年9月に月間UU(ユニークユーザー3000万人を超えた(10月7日付プレスリリース)。同社は料理動画の「Tasty(テイスティー)」日本版も手掛けているが、ライバルとなる「クラシル」を運営するdely(デリー)もまた、18年にヤフー傘下となった。なお、delyは19年3月、ヤフー子会社女性向けメディア「TRILLトリル)」に資本参加し、ライフスタイルジャンルの強化に取り組んでいる。

企業運営のメディアだけでなく、発信力や専門知識を持つ有識者に、みずから寄稿してもらう仕組みもある。LINEBLOGOS(ブロゴス、09年創刊)では、音喜多駿・参院議員が東京都議時代から発信を続けていることで知られるほか、かつては元フジテレビアナウンサー長谷川豊氏の投稿が物議をかもした。政治家から研究者、学生まで「1300名を超える豊富な執筆者」(サイト紹介より)が居るという。12年にスタートした「Yahoo!ニュース 個人」も600人超をラインアップ(18年12月7日newsHACK記事より)。ポータルのトピックスに、個人発の記事が入ることも珍しくなくなった。

ユーザーの声を拾う「まとめ」と「知恵袋」

著名人ではない、いわゆる「街の声」をとりあげる仕組みも用意している。口コミやレビューQ&Aサイトなどユーザー参加型のメディアをCGM(消費者生成メディア)と呼ぶが、そのひとつがLINE子会社ネクストライブラリが運営する「NAVERまとめ」(09年開始)だ。ネット上の情報をユーザーがまとめて紹介(キュレーション)できるサービスで、19年8月時点で約4800万UB(ユニークブラウザブラウザごとの訪問者数)としている。なお17年7月29日付プレスリリースの時点では、月間約20億PV、約6700万UBだった。さらに過去のリリースを見ると、13年12月は21億、14年6月は23億PVとなっている(14年7月29日付)。

キュレーションをめぐっては16年秋、医療情報を扱う「WELQ」(DeNA運営、すでに閉鎖)の情報精度や著作権処理が問題視され、各社が対応を迫られた。NAVERまとめ著作権管理システムなどを導入するなどの対策をはかったが、少なくともUB数については、大きな影響が出たものと思われる。

Q&Aサイトでは「Yahoo!知恵袋」(04年開始)が、19年春時点で質問が約2億件、回答総数が約5億件という(4月24日コーポレートブログより)。ライバルの「OKWAVE(オウケイウェイヴ)」が3600万件以上、「教えて!goo」(NTTレゾナント運営)が約800万件と公称していることから、その強さが読み取れる。

口コミサイトでは、ヤフー子会社のカービューが運営する「みんカラ(みんなのカーライフ)」が月間約3億5000万PV(18年10~12月の平均値)。メンバー登録数は100万人を超えるとしている。ひとつのジャンル自動車)に特化したSNSを持つのも、ヤフーの長所といえそうだ。

一方のLINEは、ブログが強みだ。「livedoor blog」(03年~)と、「LINE BLOG」(14年~)の2ブランドで展開している。これらに加えて、Yahoo!ニュースの記事に付いているコメント機能(通称ヤフコメ)もまた、広義のCGMと呼べるだろう。

動画は「短尺」「ドラマ・映画」「ライブ配信」の三本柱

より動画に力を入れている印象があるのは、ヤフーだ。Yahoo!JAPANは直近の媒体資料で、現状500本/月の動画を7000本に「大幅拡大」すると明言。その一方で、新たなクリエイターの発掘にも取り組んでいる。18年秋に始まった「クリエイタープログラム」は、ブロガーやインフルエンサーYouTuberらが動画コンテンツを投稿できるプラットフォームだ。19年5月現在で、クリエイターは約300人、累計7000本超。動画は長くても10分前後で、多くは1~2分前後の「短尺動画」だという。

またヤフーは09年、自社動画サイトを「GYAO!」(05年開始、当初はUSENグループ)に統合。ドラマアニメ、映画などを配信している。運営会社の株主にはヤフーに加え、電通や博報堂DYパートナーズ、民放テレビ各局が並び、18年夏からは元SMAP木村拓哉さんをCMキャラクターに起用して、より認知向上に努めている。

そしてLINEは、ライブ動画配信サービスLINE LIVE」(15年開始)を持っている。スナック感覚で楽しめる「短尺」と、作りこまれた「ドラマ・映画」、そして時間を共有できる「ライブ配信」の3パターンで、生活習慣に合わせて動画コンテンツを消費できるようになっている。

ヤフーLINE連合は、出版もカバーしている。そもそも、ZHDの源流であるソフトバンクは、祖業のひとつに出版がある。日本ソフトバンク(当時)は創業翌年の1982年パソコン雑誌「Oh!PC」「Oh!MZ」を創刊。両誌は2000年までに休刊(事実上の廃刊)されたが、出版事業はソフトバンク パブリッシング(現在のSBクリエイティブ)に引き継がれ、「SB新書」や、ライトノベルの「GA文庫」などの発行を続けている。

電子書籍ストア「ebooksjapan」を運営するイーブックイニシアティブジャパンは東証1部上場企業でありながら、ヤフーが43.92%の株式(19年9月30日現在、四半期報告書より)を持っている。00年創業の同社は、Amazonの「Kindle」が上陸する以前から、日本の電子書籍業界を牽引してきた。16年にヤフー傘下に入り、現在は「bookfan」のブランドでも、電子ではない紙書籍のオンライン販売を行っている。

LINE陣営には、電子書籍サイトLINEマンガ」がある。19年4月25日付のプレスリリースによると、国内での累計ダウンロード数は、開始6年で2300万。250社以上の出版社・レーベルを通じて、38万点以上の作品を配信しているという。

ZHD社長「お互いに切磋琢磨してやっていけばいいんじゃないかな」

ZHDとLINEによる新会社は、「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニー」を目指すとしている。重複事業の再編については、経営統合が完了した後、LINEジュンホ氏が率いる「プロダクト委員会」が検討する予定だ。

メディア事業はAI技術よりも、人力に頼る部分が多い。ウェブメディアに携わる筆者としては、当然ながらYahoo!ニュースLINE NEWSなどの今後が気になる。19年11月18日の統合発表会見で、ZHD川邊健太郎社長は、統合後に考えるとしつつ、

「両サービスとも多くのユーザーに愛されているサービスですから、引き続きどんどんお互いに切磋琢磨してやっていけばいいんじゃないかなと、私個人は思っております」

と発言した。重ねて川邊氏は、かつてYahoo!ニュースの責任者だった立場から、

「日本のジャーナリズムが、より健全で発展的になっていくための1つの場として、この2つのニュースサイトが、ますます日本の報道において貢献していってくれる場になってくれると、現場に期待をしております」

とも述べた。

発表会見で触れたのは2サイトのみだが、ここまで書いてきたように、両社にはそれ以外にもメディアを多数抱えている。その一方で、ここ数年で手放したものがあるのも事実だ。ウェブサイト作成サービスの老舗「Yahoo!ジオシティーズ」は、今年に入って日本語サービスを終了した。ジオシティーズ1994年アメリカで生まれ、97年に日本法人が設立された。2000年からはヤフーブランドとなり、世界各国でのサービス終了後(09年)も日本のみ継続されていたが、19年3月、ネット黎明期から20年以上にわたる歴史に幕を閉じた。

キーワードを入力するのではなく、リンク集をたどる方式の「ディレクトリ型検索」もそうだ。スタッフサイトを1件ずつ収集し、カテゴリごとに分類するため、これも人力で編集されたメディアと呼べるだろう。Yahoo!JAPANは96年の開始当初から、ディレクトリ型検索の「Yahoo!カテゴリ」を提供していたが、18年3月に終了した。同社はその理由を「一定の役割を終えたもの」と考えたためとしている。同様に「Yahoo!ブログ」(05年開始)も、19年12月サービス終了すると発表済みだ。

「大再編」の可能性はあるのか

企業の成長にともなって、資本関係も難解になりつつある。とくにソフトバンク傘下では、ソフトバンク子会社、ZHD子会社ヤフー子会社に、それぞれ事業会社が置かれていて、それぞれの株主構成は複雑だ。たとえば、「ねとらぼ」(11年創刊)などを運営する東証1部上場企業・アイティメディアITmedia)は19年11月中旬現在で、ソフトバンクの「ひ孫会社」、ソフトバンクグループの「来孫(らいそん)会社」にあたる(ソフトバンクグループソフトバンクグループジャパンソフトバンク六本木分割準備→SBメディアホールディングスアイティメディア)。ZHD・LINE両社の競合ブランドの今後については、経営統合後に具体的な検討に入るとしているが、周辺事業を行うソフトバンク傘下の会社も巻き込んでの「大再編」となる可能性もゼロではないだろう。

新聞や放送、映画やインターネットなどを手広く擁する企業を「メディア・コングロマリット」と呼ぶ。その代表例が「メディア王」ことルパート・マードック氏が率いる、米ニューズ・コーポレーションだ。ソフトバンク創業者の孫正義氏は1996年、このマードック氏と組んで、テレビ朝日への資本参加を目指したが、朝日新聞社の反対で失敗している。LINEの母体の一つであるライブドア堀江貴文社長(社名、肩書とも当時)が、フジテレビジョンの筆頭株主だったニッポン放送の買収をめざすのは、それから9年ほど後になる。

ここまで書いたように、今回の経営統合は、「巨大メディア帝国」誕生の側面も持ち合わせている。統合発表会見で、川邊氏、LINE出澤剛社長とも、ほぼ孫氏は交渉に関与していなかったとしているが、「(孫氏は統合に)100%賛成である」(川邊氏)とも語っている。表向きはAIがメインだが、メディア事業への夢も再び――などと予想するのは、いささか勘繰りが過ぎるだろうか。

10年前と大きく変わったネットメディア業界

Yahoo!ニュースの運営方針を知る貴重な資料として、当時の担当者・奥村倫弘氏(現:東京都市大学教授)によって書かれた『ヤフー・トピックスの作り方』(光文社新書、2010年)があるが、ここでは「ロボット編集部」の難しさについて、実例を示しつつ、このように指摘していた。

「人間の内側にある数値化できない価値は、思考や感情、直感を持たない機械にどうしても教え込むことができないからです。(中略)人間が心の内側で感じる価値を機械は感じ取ることができません。こうした感受性に加えて、文脈を理解したり、文意を汲み取ったりといった行間を読む行為や眼光紙背に徹することは機械にはできません」

同書刊行から、もうすぐ10年が経つ。その間に技術も大きく進歩し、スマートニュースやグノシーのように、人の手を介さないキュレーションアプリも登場した。川邊氏はYahoo!ニュース責任者だった08年1月、J-CASTニュースの「ライバルはいるのか」との問いに、こう答えていた。

「意識しているのはブログミクシィモバゲーですね。重要なのはニュースも含めて、時間の奪い合いをしている、ということなんです。危機意識はありますね。(中略)何を面白いと思うかがメチャクチャ多様化している。だからヤフーニュースもますます多様性をもたなくてはいけない。横にも縦にも選択肢の多さ。何でも『とりあえずヤフーニュースで探そう』という感じに」

当時はパソコンからネットを見るのが当たり前。このインタビューから半年後、iPhone 3Gが発売され、日本にスマートフォンの波がやってきた。ツイッター日本語版開始もこの年だ。後にソーシャルゲームソシャゲ)が乱立し、11年にはLINEアプリも登場。ヤフーは「爆速」をスローガンに、宮坂学社長(当時、現:東京都副知事)のもとで、一気にスマホシフトを進めることになる。このように数年先もわからないのがIT業界だ。令和の時代に生まれる「AIテックカンパニー」は、メディア事業にも技術革新を起こすのだろうか。

J-CASTニュース編集部 城戸譲)

ZHD川邊社長(左)とLINE出澤社長が手を取り合った(19年11月18日、J-CASTニュース撮影)