ダークマターで作られた宇宙の大規模構造のシミュレーション。/Credit:矢作日出樹、長島雅裕/武田隆顕/国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト
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  • 離れた銀河の回転同期や複数のクエーサーの平行した回転軸など、宇宙には奇妙なつながりが見つかっている
  • 重力などの影響が届かない遠方の銀河同士のつながりを、宇宙の大規模構造と呼ぶ
  • 新しい研究は445の銀河を研究し、それらが何らかの巨大な構造に沿って運動して見えることを発見した

宇宙に浮かぶ銀河などの天体は、孤立した存在のように見えます。しかし奇妙なことに、他の銀河と回転が同期している場合があるようです。

もちろん互いが近い距離にある場合は、重力的な影響で同期することは考えられます。事実宇宙では、銀河同士の衝突・合体も珍しい現象ではありません。

しかしそれが数千光年という距離を隔てて起こっている場合はどうでしょうか?

これだけ遠く離れた天体同士は、互いの重力などが伝わって相互作用を起こすことは、既存の理論では不可能と考えられています

しかし2019年10月に発表された論文で、数千万光年を隔てた銀河の動きに同期した回転が見られるという発見が報告されました。これはまったく予想外の発見です。

宇宙には、私たちには見えない「お互いをつなげる巨大構造」が潜んでいる可能性があるのです。

この宇宙の巨大構造とは、一体何なのでしょうか?

論文は、韓国天文宇宙科学院の天文学者であるJoon Hyeop Lee氏を筆頭とした研究チームより発表され、10月15日付けで天体物理学の学術雑誌『The Astrophysical Journal』に掲載されています。

Mysterious Coherence in Several-megaparsec Scales between Galaxy Rotation and Neighbor Motion
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ab3fa3

見えない宇宙の大規模構造とは?

1980年代から、宇宙にはなにもない空洞と、多くの天体が集まった場所に分かれていることがわかってきました。

それはあたかも集まった泡のような構造になっており、「宇宙の大規模構造」と呼ばれています。

宇宙は泡の膜面にあたる場所に銀河などの天体が集まっていて、泡の中のような空間は天体のない空洞となっているのです。

そしてこのような構造になった原因と言われているのが、あの「暗黒物質」です。

暗黒物質は一切の放射を行わず、重力的な影響以外の相互作用を起こさないと考えられている謎の物質です。未だ発見されていませんが、様々な重力的影響からその存在が確信されています。

宇宙誕生の頃、宇宙を均一に満たしていたといわれるこの暗黒物質。しかし宇宙進化とともに、僅かな密度の揺らぎによって大きく偏り、網目のような構造(フィラメント構造)を作り出したと考えられているのです。

ダークマターの分布変化を可視化した固定視点シミュレーション。宇宙の一部を切り取ったこの箱は一片が約3億光年となっている。/Credit:矢作日出樹、長島雅裕/武田隆顕/国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

そして、こうした目に見えない構造が、本来相互作用の起こらない遠く離れた銀河同士をつないで、奇妙に一致したパターンを作り出している可能性があるというのです。

同期する銀河の謎

Credit:Robert Nemiroff (MTU) & Jerry Bonnell (USRA)

こうした宇宙の大規模構造の証拠と目されているのが、遠く離れた天体同士の奇妙な同期です。

今回の研究者たちは、地球から4億光年離れた445の銀河について観測を実施。地球に向かって回転する銀河の多くが地球に向かって移動している一方、逆回転する銀河は地球から離れるように移動していることに気が付きました。

これは隣り合う銀河同士で見せる奇妙な一致でしたが、互いの銀河同士の距離は6メガパーセク(約2000万光年)の隔たりがあり、直接相互作用していると考えることは不可能でした。

発見者のLee氏は、これら同調した銀河が同じ大規模な構造に沿って埋め込まれるように存在しているという可能性を考えています。ただ、裏付けを取るためには、さらにもっと多くのデータが必要だと言います。

こうした遠く離れた銀河同士の奇妙な同調は、この発見に始まったことではありません。

2014年には、ベルギーのリエージュ大学の天文学Damien Hutsemékers氏が率いる研究チームが、チリの大型望遠鏡VLTを使って、約100近いクェーサーを調査した研究を発表しました。

クェーサーとは初期宇宙に存在した非常に明るい銀河のことです。

この研究では、クェーサーから放たれる光の偏光記録からクェーサーの回転軸を調べたのですが、なんと19のクェーサーが互いに10億光年近く離れているにもかかわらず、回転軸が平行に揃っていたのです。

狭い範囲の銀河では回転軸が揃う場合があると知られていますが、10億光年という極端なスケールで回転軸が平行に揃うという事実は既存の理論では説明できません。

他にも不思議な例があります。

天の川銀河周辺の衛星銀河は、現行の宇宙論に従ったモデルのシミュレーションでは、ランダムな軌道を描くと予想されています。

ところが、観測によると天の川銀河の衛星銀河はきれいに整列した軌道を回っているように見えるのです。これはたまたま、天の川銀河になにか特殊な要因があって予想と異なっているのだ、と多くの天文学者たちは考えていました。

しかし、その後アンドロメダ銀河で、そして2015年には1000万光年離れた楕円銀河ケンタウルスAでも、衛星銀河が1つの軌道面に整然と同期していることがわかったのです。

身近な3つの銀河で予想外の観測がされたことで、天文学者たちは現行の標準的な宇宙論になにか重大な欠陥があるのかもしれないと、考え直す必要に迫られたのです。

この巨大構造の存在を証明し、奇妙な宇宙のつながりを説明するにはまだまだ観測データが足りないと言います。

衛星銀河の奇妙な同期について研究しているフランスのストラスブール大学の天文学Oliver Müller氏は、「宇宙の研究がまだまだ開拓段階であることこそが、もっとも面白くエキサイティングだ」と語っています。

現在は大規模な新しい望遠鏡も次々と稼働し、その真価を発揮し始めています。宇宙の見えない大規模構造を探りあて、隠された天体同士のつながりを見つけ出す日は近いのかもしれません。

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