「頭数の多いところはいいわよね」そんな風に私が溜息をついていたのは金曜日、マドリッドの2強が土曜に挑むリーガ戦の招集リストを見た時のことでした。いえ、衝撃だったのはむしろ、お隣さんの招集されないメンバーの方だったんですけどね。レアル・マドリーには負傷者が2人いながら、ビニシウス、マリアーノ、ブラヒム、オドリオソラがレアル・ソシエダ戦をパルコ(貴賓席)観戦というのは元々、RMカスティージャ籍のロドリゴを含め、26人もいるからこそ、できる所業なんですが、対してアトレティコは先日、ヒザの靭帯断裂からのリハビリ最終局面をこなすため、マハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場に母国クロアチアから戻って来たベルサイコを含め、22人の少数精鋭体制。

おまけに今週は木曜にジエゴ・コスタが頸椎の椎間板ヘルニアの手術を受け、全治3カ月となったのに加え、10月のモンテネグロの代表戦で痛めた左太ももが治りかけていたサビッチも同じケガを再発し、ヒメネスなど、まだ1度もグラウンドに姿を現していないとなれば、サウールトマスが出場停止となるグラナダ遠征に帯同できる選手が16人しかいないのも当然だった?そこへ、まだ修行中のサポンジッチが今回もリスト落ちしたため、3人のカンテラーノ(アトレティコBの選手)を入れての18人ですからね。これではせっかく2週間のparon(パロン/リーガの休止期間)が終わり、年末に向けて最後の一山が始まるのをワクワクして待っていたファンもちょっと心配になったんじゃないでしょうか。

え、今週はユーロ予選をつつがなく終えながら、ロベール・モレノ監督が辞任、ルイス・エンリケ監督の復帰が決まったものの、10年来の友人同士でもあった両人の仲に亀裂が入り、前者がアシスタントコーチに戻らないというゴタゴタもあったため、リーガがどうなっているのか、すっかり忘れてしまったって?いやあ、実は私もそうだったんですが、代表に関しては、50万ユーロ(約6000万円)の契約解除金と引き換えに秘匿条項が課されたため、ロベール・モレノ元監督からの声明にサッカー協会への批判はなし。来週水曜には8月に3女を骨肉腫で亡くした悲しみから立ち直ったルイス・エンリケ監督の再任プレゼンが行われ、30日のユーロ本大会組み合わせ抽選にも当人が出席することをお伝えしておくぐらいですが、とりあえず、マドリッド勢の様子を見ていくと。

まず、代表戦前にレガネス戦(5-0)、CLガラタサライ戦(6-0)、エイバル戦(0-4)といよいよ持ち前のgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)体質が蘇ってきたマドリーは現在、首位のバルサと同じ勝ち点で2位を並走中。さすがビッグクラブだけあって、今回も各国代表に14人を出向させていたんですが、先週末には9得点とリーガのピチチレースのトップを走るベンゼマフランスサッカー協会のル・グラエ会長との間に論争が勃発したなんてことも。ええ、4年前、代表チームネートだったバルブエナ(現オリンピアコス)への脅迫騒動以来、招集されていないことについて、「もうベンゼマフランス代表時代は終わった」と言われ、「だったら、自分が代表になれる他の国でプレーさせてくれ」と当人がツイッターで反論したんですが、うーん、今更そうもいきませんよね。

だってえ、可能性があるとしたら、ベンゼマの両親の出身地、アルジェリアぐらいだそうですが、フランスは二重国籍制度ではないため、あちらの国籍を取るにはフランス国籍を破棄する必要が。将来的にどちらのパスポートを持っているのが便利かは明白だと思いますが、そこから更にFIFAの許可も必要となると、31才の彼にそんなことしている時間がある?そりゃあ確かに大量のチームメートがいなくなり、バルデベバス(バラハス空港の近く)の練習場ではRMカスティージャとの合同セッションとなってしまう代表戦期間など、ちょっと疎外感があるかもしれませんけどね。フランス代表だって去年W杯を制したばかり、今回のユーロ予選も首位突破した強豪となれば、よっぽどのことがない限り、再招集はされない?

その分、ジダン監督も自分のところのエースがケガをしないかとハラハラしながら、母国の試合を見ないで済みますしね。ちなみにそれとはまったく逆の意味で注目を集めていたのがベイルで、元々、10月の代表戦で負傷して戻って来て以来、マドリーの試合には1度も出ず、嬉々としてまたウェールズへ行ってしまった辺りから、眉をひそめるファンは決して少数派ではなし。それでも予選最後の2試合で先発し、アゼルバイジャンハンガリーに連勝して、初出場だった2016年に続く2大会連続出場を達成したのは見事だったんですが、まさか「Wales. Golf. Madrid. In that order(ウェールズ、ゴルフ、マドリー。この順番)」と書かれた国旗をチームメートと一緒に広げ、あれだけのお祝いぶりを見せられてはねえ。

実際、その言葉は元々、元マドリーの選手でスポーツディレクターでもあったミヤトビッチ氏がベイルの優先順位についてラジオで話していたのがキッカケで、面白く思ったウェールズのファンが旗を作り、試合中にカンティコ(メロディーのついた応援)なども歌っていたりしたんですが、そりゃ、彼はマドリーからセルヒオ・ラモスと並ぶ、チーム内最高年棒である1400万ユーロ(約15億円)をもらっていると聞けば、マドリーファンでなくても???とならなくないかと。おかげで金曜の記者会見では記者たちから出た質問16件中、半分がベイルに関するものという試練に遭ったジダン監督でしたが、最後まで選手を非難することはなし。

曰く、「Lo que te puedo decir es que está bien después de su lesion/ロ・ケ・テ・プエド・デシール・エス・ケ・エスタ・ビエン・デスプエス・デ・ス・レシオン(言えるのは負傷の後、よくなったということ)。今はプレーもできる」そうですが、ずっとバルデベバスでトレーニングしていたビニシウスを押しのけ、ベンチ入りしたベイルではあるものの、スタンドからの大音響pito(ピト/ブーイング)が懸念されるレアル・ソシエダ戦で先発するかは不明です。いえ、同様の状態だったハメス・ロドリゲスコロンビア代表に行ったものの、練習中にヒザの靭帯を痛め、試合に出ずに帰ってきたものの、一概にお留守番の方がいいとも言い切れず、この木曜にはルーカス・バスケスがジムでダンベルを足に落とし、右の親指の先を骨折。全治1カ月になってしまったなんてこともあったため、右サイドのトップ争いはブラジルA代表デビューを果たしてきたロドリゴとのガチンコ勝負になるんですけどね。

アザール(ベルギー)、クロース(ドイツ)、モドリッチ(クロアチア)も母国のユーロ出場権を勝ち取って元気に帰還、カセミロ(ブラジル)、バルベルデ(ウルグアイ)もケガなく親善試合から戻ったとあって、トップを3人にしない4-4-2へのシステム変更も考えられますし、その辺は土曜午後9時(日本時間翌午前5時)からのレアル・ソシエダ戦を見てのお楽しみ。相手は5位でも勝ち点差は2しかないため、順位の逆転もありえますし、ここ数週、ケガをしていたウーデゴールも今週、練習中に肩を脱臼したミケル・メリーノも出場可能、スペインルーマニア戦でゴールを挙げたオヤルサバルもいるとあって、見応えのある試合になるんじゃないでしょうか。

そして同じ土曜午後6時30分(日本時間翌午前2時30分)から、アウェイでのグラナダ戦となる3位のアトレティコなんですが、お隣さんとバルサの首位軍団まではこちらも勝ち点1差だけ。ここ3連敗と失速気味ながら、昇格組としては上々の8位につける相手にモラタだけの1本柱で挑まないといけないというのは結構、悩ましいところですが、それは金曜の練習後、記者会見で話したシメオネ監督も感じていたよう。

ええ、「コスタの欠場は彼の強靭な性格、そしてそれをチームに伝えてくれるという意味でとても重大だ。No estaba en su mejor momento, pero estaba/ノー・エスタバ・エン・ス・メホール・モメントー、ペロ・エスタバ(最好調ではなかったが、いてくれたんだから)」と話していましたが、その代わりをするのは、足首の負傷が治り、1カ月ぶりに招集された20才を迎えたばかりのジョアンフェリックスではなく、Bチームで8得点と当たっている22才のFWダリオ・ポベダなのだとか。残り2人のカンテラーノ、トニ・モヤとマヌ・サンチェスは出場停止で来週火曜のCLユベントスに向けて英気を養う予定の2人と、エルモーソとブラジル代表に参加しながら、プレー時間なしで帰って来たフェリペしかいないCB不足に呼応するものですが、はあ。スペイン代表2戦目のルーマニア戦で連続試合得点が7でストップしたモラタを補って、上手い具合にビトロやコレアのゴールも決まってくれればいいんですが。

それより土曜にはブタルケでビッグゲームが控えているのを忘れていないかって?その通りで前節からアギーレ新監督が着任して、レアル・ソシエダと1-1で引き分け。まだ最下位脱出も叶わず、残留ゾーンまで勝ち点7、首位とは19差あるレガネスがバルサを午後1時(日本時間午後9時)から迎えるんですが、正直、大差がつきそうな気がして怖いんですよ。というのもアギーレ監督にはアトレティコを指揮していた時代、「El 6-0 del Calderón, que se lo metieron al Pichu, y el 6-1 allá en Barcelona/エル・セイス・セロ・デル・カルデロン、ケ・セ・ロ・メティエロン・アル・ピチュ、イ・エル・セイス・ウノ・アジャー・エン・バルセロナ(ビセンテ・カルデロンで6-0と負けて、GKはピチュ・クエジェルだった。バルセロナでも6-1にされた)」と本人も忘れていない悲惨な体験があったから。

ええ、最初の試合は2006-07シーズンの5月、その敗戦でフェルナンド・トーレス(この夏、ヴィッセル神戸で現役引退)が子供時代からプレーした古巣に見切りをつけ、シーズン後のリバプール移籍に繋がった因縁がありますし、アグエロ(現マンチェスター・シティ)がプレーしていた2008-09シーズン10月のもう1つの方など、前半だけで5-0に。そんな可哀そうな目にはあってほしくないんですが、レガネスはレシオとケビンロドリゲスが出場停止なのに代わって、ケガをしていたルーベン・ペレスが復帰できる予定。

あと朗報と言っていいのか、バルサもDF陣が不足しているようで、ジョルディ・アルバとセメドが負傷中、セルジ・ロベルトも出場停止のため、両SBはワゲとジュニオール・フィルポが務めることに。その上、レングレもフランス代表から痛みを抱えて帰還し、来週にはCLドルトムント戦がえているため、マドリッドには来ておらず、今季まだリーガで2試合しか出ていないウムティティと今週は月曜から始まった、改訂版コパ・デイビス(テニスの国別対抗戦)の主催者の1人して、毎日、午前中にバルセロナで練習した後、午後はマドリッドのカハ・マヒカに詰めていたピケだけが頼りとなれば、もしやオスカルがスペインU21のユーロ予選、イスラエル戦でゴールを挙げてきたレガネスにも好機はある?

そしてマドリッド勢で1チームだけ、日曜開催となったのがヘタフェなんですが、こちらは正午からバルセロナでエスパニョール戦。前節はオサスナと0-0で引き分けてしまったため、まだ7位のままとはいえ、来季のEL出場権がもらえる6位のアスレティックと勝ち点で並んでいるんですが、今のところはあまり順位にこだわってもねえ。それより彼らには来週、バーゼル戦2連敗で3位になってしまったELグループリーグの大事な5節、アウェイでのトラブゾンスポル戦もあるため、ボルダラス監督には選手のローテーションを上手にやってもらいたいところ。私も丁度、代表戦期間が始まる前、ワンダメトロポリターノでアトレティコがエスパニョールに3-1と余裕で勝利するのを見たばかりですし、弟分チームもそれにあやかれるといいですね。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。
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