「世界で今、最も戦争が発生しやすい地域はどこか」と質問されれば、「朝鮮半島であり、それもかなり切迫している」と私は答える。
平和に浸り切っていると、国民はそんなことが起こるはずがないと思いがちだ。
だが、隣の北の国には、武力によって赤化統一するという国是があり、そのために着々と核兵器やミサイルを開発し、侵攻のためのシナリオを完成させている。
軍事の専門家からすれば、侵攻の可能性は極めて高く、これまでかつてないほどの危険なレベルにあると判断するのは当然のことだ。
だが、韓国の文在寅政権に捻じ曲げられた情報に踊らされた国民は、現在迫っている脅威に目を背け、対日批判に邁進している。
韓国国家や国民の命運が危険に晒されるかもしれないのに、北朝鮮の脅威に目を向けようとはしない。
今の韓国の政権と国民の動きを見ていると、グリム童話にある「ドイツ・ハーメルンの笛吹き男」の話を思い出す。
笛吹き男が、町に大繁殖したねずみを川に誘導して溺死させた。その後、町の子供たちが笛の音に引きつけられて、どこかに連れ去られたという話だ。
この物語について、ドイツの職のない若者たちが、弁舌巧みに誘われ、ポーランドに連れていかれたという研究がある。
日本でも同様の話がある。1950年代から「北朝鮮は地上の楽園である」という宣伝に騙されて、多くの在日朝鮮人が北朝鮮に渡り、悲惨な生活を余儀なくされたという事実である。
今、韓国を見ていると、「真実を見ようとしない国民」が北朝鮮とその親派が吹く笛に踊らされている感じを受ける。
韓国に、ひたひたと迫る南侵の脅威を笛の音で消し、国民がそれに導かれるように、対日批判に引き込む文在寅政権の巧みな戦術について、分析する。
1.著しく高まった侵攻危機
北朝鮮(以後、北)軍は昨年まで、ソウルより南の地域に展開する在韓米軍や韓国軍には、ほとんど手を出せなかった。
北軍の長射程砲などはソウルまでが限界で、これ以遠の目標に対しては、旧式のスカッド短距離ミサイルで撃っても、命中率が悪く目標には当たらない。
ソウルを火の海にするどころか、逆に米韓軍の反撃によって北軍の長射程火砲は破壊され、南侵すれば撃退させられることになったであろう。
北は2017年まで、新型の「火星12・14・15号」ミサイルの実験を行い、ミサイルを大型化し射程を伸ばしていった。
これらのミサイルを運用すれば、半島有事において、朝鮮半島から離れた米軍を容易に介入させないという、戦略的目的はほぼ達成できた。
具体的には、米国本土へは核を搭載した火星15号を米国に向けて発射すると脅し、米国の参戦を抑止または躊躇させる。
米軍の駐留拠点となっているアラスカやハワイへは火星14号、グアムへは火星12号を向ければ、ここから発進する戦略爆撃を止められる。
沖縄や日本の在日米軍へは、スカッド、ノドン、ムスダンのミサイルを向ければ、日本列島からの参戦が困難になる可能性がある。
火星号と称する新たな中・長距離ミサイルの開発は、金正恩委員長が登場してからのことだ。
金正日以前は、半島有事の際、これらの米軍戦力には何も手出しができなかった。
現在では、米軍や自衛隊のミサイル防衛によって、北のミサイルは撃墜されるかもしれないが、ミサイルを撃ち込む実力をつけたことだけは事実だ。
これで、増援米軍と韓国軍とを、戦力分離させる(下図参照)ことができるようになった。
今年発射した短距離ミサイルや超大型ロケットには、中露の衛星測位システムにより誘導(GPS誘導)されて飛翔する技術が搭載されている。
つまり、高度や方向を変換して、目標に誘導し命中させることができるのだ。
北軍は、精密誘導化されたミサイルなどで、ソウル以遠の米韓軍を先制攻撃して破壊すれば、軍事境界線を越えて攻撃する地上軍は、米韓空軍からの反撃を受けず戦えることになる。
2.軍事力第2・3位の中国、ロシアが支援
日本や韓国の周辺には、軍事力世界第2・3位の中国とロシアが、日本海や東シナ海を隔てて存在している。
韓国からしてみれば、北緯38度線で北朝鮮と接し、その背後には陸続きで、中国とロシアが存在する。
北は、1961年に中国とは、現在も朝鮮半島有事の場合いつでも自動で軍事介入できる「中朝友好協力および相互援助条約」を締結し、70年近く存続している。
ロシアとは軍事介入の仕組みはなくなったが、2000年に露朝友好善隣協力条約を締結している。つまり、北と中露は、強い協力関係にあるということだ。
北は今年、口径が300ミリと400ミリより大きい多連装ロケットの発射実験を行った。
これらのロケット本体と発射機が中国製の「WS-1・2型多連装ロケット」に似ている。
これらのロケットは、中国の「北斗」測位衛星システムの誘導を受けて、飛翔軌道を変更する技術を保有し、さらに命中精度を高めているようだ。
これほど大型の多連装ロケットは中国と北を除いて世界には存在しない。中国軍の兵器と完全に同一ではないが、極めて似ている。製造も運用も、中国が軍事支援を行っている証拠であろう。
5~8月にかけて発射した北朝鮮版イスカンデルは、ミサイル本体や移動発射機(TEL)がロシアのイスカンデルミサイルと酷似している。
実際、韓国軍はミサイルが下降段階で再上昇するロシア製イスカンデルに似た飛翔特性を確認している。
このミサイルは、ロシアのグロナス衛星測位システム(米国のGPSと同じ機能)を使用して、飛翔軌道を変更し、命中精度を高めていると見ている。
北朝鮮が今年発射したミサイルやロケットは、中国やロシアから供与されていたか、あるいは技術が提供された可能性が高い。
さらに、こられの誘導においても、中露の宇宙システムから、協力が行われているとみていいだろう。
北朝鮮は両国の首脳との会談も実施していることから、兵器や経済協力があっても不思議ではない。
3.防衛放棄に等しい文在寅氏
金正恩委員長と文在寅大統領は、2度の南北会談において、笑顔で握手した。
2つの宣言を受けて、南北の緊張緩和を進める軍事分野の合意書が締結され、「陸上・海上・空中で、一切の敵対行為を全面中止する」ことについて具体的に定められた。
陸上部分については、韓国は、軍事境界線より南側の鉄条網、地雷、監視所を取り除かなければならない。
これにより、地上部隊の侵攻を阻止するための地雷などの障害や監視所が一部撤去されている。
空中部分では、軍事境界線付近の飛行禁止区域が設定された。米韓軍が実施する空から直接監視することができなくなった。
海上部分では、黄海の北方限界線(NLL)一帯を平和水域にすることが決まった。その結果、海上の境界線が消滅することになる。
北朝鮮海軍ホバークラフト百数十隻が、1~2時間でソウル西岸まで到達でき、海からの奇襲攻撃が可能になる。
韓国国防部の発表によれば、今年の9月に仁川空港の西、海の軍事境界線(北方限界線)に位置する咸朴島(ハンバクト)が軍事基地化されていることが分かった。
その目的は、海上からの奇襲侵攻を支援するためのものだ。
これらの内容について、在韓米軍への事前協議もなかったことから、米国は不快感を示した。
韓国防衛のために米軍が存在しているのに、韓国への侵攻が容易になる事項を在韓米軍に相談することなく合意してしまえば、在韓米軍の存在意義がなくなってしまう。
加えて、米韓合同軍事演習が大幅に縮小された。
北朝鮮が侵攻してくるという想定で訓練を実施していなければ、奇襲侵攻を受けた場合に、効果的な防衛をすることは不可能になる。
北朝鮮が実験する各種弾道ミサイルの成功により、北軍が南侵する場合の成功率が高まっている。
だが、鄭(チョン)国家安保室長は国会で、「北が現在開発しているミサイル能力は我々の安全保障に極めて深刻な脅威になるとは思わない」と答弁した。
事実とは異なる答弁だ。北朝鮮の軍事的脅威が高まれば、本来、南北間の障害を強化しなければならない。合同演習も活発に実施しなければならない。
だが、実際は、逆に地雷などの障害を撤去し、演習も縮小している。文在寅政権は、国家存亡の危機が高まっているのに、対処することよりも、その反対の引き入れる動きを実行している。
4.軍事的脅威より対日批判
北軍の侵攻を抑止するために、韓国が米日との同盟や協力関係を強化することは当然のことである。
ところが、文政権は、日本の韓国向け輸出管理の厳格化、ホワイト国からの除外決定の報復として、日本製品不買運動を煽り、日韓の軍事関係を維持する軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄しようとした。
世論調査では、協定破棄を韓国国民の51%が支持した。
ということは、韓国国民は、ひたひたと迫ってくる北の脅威に対処するための、日米韓の防衛協力よりも、日本を批判し、防衛協力を縮小させる方が、重要だと感じているということだ。
文在寅政権の誤った誘導に、国民が乗せられている。
GSOMIAの失効が迫っていたが、米国政府高官による説得と圧力、および破棄が「自殺行為」「中国や北朝鮮を利するだけだ」と批判を受けたことによって、韓国政府は、とりあえず今回だけは、直前に破棄通告の停止を決定した。
韓国国民は、本来の脅威を認識せず、文在寅政権の捻じ曲げられて誤った誘導の笛に従って行けば、知らず知らずに北朝鮮の不毛の地に連れていかれることになるだろう。
[もっと知りたい!続けてお読みください →] GSOMIA延長、その裏にあるアメリカの本音
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