人間と機械が融合したボクシング=“機関拳闘”の世界を描く、中田春彌によるスチームパンク・コミック作品『Levius(レビウス)』。本作がNetflixオリジナルアニメとなって2019年11月28日より全世界独占配信される。ポリゴン・ピクチュアズのCG技術によって生み出された新たな『Levius』に期待が高まるなか、主演のレビウス役・島崎信長に話を聞いた。
※「島崎信長」の「崎」は、たつさきが正式表記

先日行われた「Netflixアニメラインナップ発表会2019-2020」でも、作品の魅力について溢れんばかりの思いを語っていた島崎。「技術はなくとも、気持ちで演じていた新人の頃を思い出した」という『Levius』の現場には、声優として“リアリティ”を追求するためのヒントが詰まっていたようだ。

取材・文 / とみたまい 撮影 / 樋口 涼
構成 / 柳 雄大

スタッフもキャストも。現場の全員が共通して思い描いた“レビウス像”
『Levius』がアニメーションになると聞き、「いったいどんなビジュアルになるのだろう?」と興味を持った。というのも、原作の『Levius』は海外コミックのような独特なタッチで描かれており、正直なところ、この世界観にどんな画がつくのか、どんな声がつくのか、まったく想像できなかったからだ。

そうして目にしたアニメ『Levius』のビジュアルでは、主人公・レビウスが原作以上にシュッとしたイケメンに仕上がっており、「これはもしかしたら、クールに寄ったレビウスになっているのかもしれない」と予想したのだが──島崎信長が発したレビウスの第一声から、その予感は良い意味で裏切られたのだった。

ーー 島崎さんが演じるレビウスは「少年がそのまま大人になったような、純粋な人物」だと感じました。

島崎信長 そう感じていただけて、ありがたいです。「Netflixアニメラインナップ発表会2019-2020」でも“過保護”というキーワードを出させていただきましたが、レビウスってどこかふわっとしていて危なげですし、優しくて周りのこともすごく考えているんだけど、いざっていうときにはワガママを発揮したりする、子どもっぽいところがあるんですよね。だからこそ、周りが放っておけなくて、みんな過保護になってしまうんです(笑)。

ーー 原作からさらにイケメンになっていたので、「クールな感じなのかな?」と思っていたのですが……。

島崎 そうそう! 『Levius』の魅力ってそこなんじゃないかと思うんです。このビジュアルだから“しっかりと定まったクールな人”っていう作り方もできたと思うんですが、スタッフや役者の誰一人もそうは思っていなかった。僕自身、オーディションのときからそんな風に思わなかったし、現場でも“ワガママで、どこかふわっとしているレビウス”というのが想像できたので、そんな彼を僕はすごく好きになったんです。

あらすじだけ読むと、“孤高の戦士・レビウスが強敵を次々に倒していく物語”のような印象を受けるかもしれませんが、全然違うんですよね。レビウスをサポートしているチームのみんながレビウスのことが大好きで、必死に支えてくれているんです。そんな彼らにレビウスも心を開いているから、ついワガママを言って振り回してしまうこともある。シリアスで重いテーマの作品ではありますが、温かさを感じる、観ていて前向きになれる作品でもありますよね。

ーー レビウスを演じる際に意識したことは何でしょうか?

島崎 変な言い方になりますが……意識しすぎないことを意識しました(笑)。『Levius』に登場する人物たちはそれぞれ、矛盾した要素をたくさん内包していて、すごく人間っぽいんですよね。例えばレビウスだったら、素直で優しいけれど、ワガママで危なっかしいところがある。なので、変に彼のキャラクターを固めすぎてしまうと、レビウスではなくなる気がしていて。僕はこの作品で描かれるような“人間っぽさ”がすごく好きなので、そこを大事に、固めすぎないように、その場で感じたものを出していこうと思いました。

ーー 先ほどおっしゃった“過保護”な雰囲気は、現場でお芝居しているなかでも感じられましたか?

島崎 現場でみなさんと掛け合っているときには、まったく意識していなかったんですが、いま思うと……例えば諏訪部(順一)さんが演じるザックスが僕は大好きなんですけど、レビウスのことをすごく心配してくれていて、「ああ、ザックスって温かいな~」って思いながらも「でもごめん、レビウスのワガママを聞いてね」みたいな感じでしたね(笑)。

ビル(声/櫻井孝宏)もさりげない感じだけれど、レビウスのことをすごく気にかけているんです。シビアに現実を捉えながら、心配してくれているのが伝わってくる。ナタリア(声/佐倉綾音)も素直じゃないけど、レビウスを心配したり、ハッパをかけてくれたりする。改めて振り返ると、みなさんのお芝居を通してレビウスはいろんなものをもらっていたんだなと思います。

ーー 共演者のみなさんも、『Levius』という作品の本質をしっかりと捉え、お芝居されていたのですね。

島崎 台本を読んだ段階で、みなさん感じることが共通していたんだと思います。それってすごいことですよね。もちろん、レビウスとして真ん中に居る僕が出したものに対して、みなさんが合わせてくださった部分も大いにあるとは思いますが、それぞれが思い描いた世界をみんなで共有できた気がしていて。そういう意味でも、気持ちよく作品を作り上げることができた、本当に素敵な現場だったと思います。

プレスコ収録で改めて感じた“気持ちで演じることの大切さ”
本作品のアニメーション制作を手がけたのは『シドニアの騎士』、『亜人』、『GODZILLA』などで知られる3Dアニメーションスタジオ「ポリゴン・ピクチュアズ」。フル3DCGでアニメーションを構築していくため、収録はプレスコ方式(※先にセリフを収録して、それに合わせてアニメーションを作る手法)で行われたとのこと。画がないなかで想像力を働かせ掛け合う芝居は、『Levius』の世界観をより充実させたようだ。

ーー プレスコの感触はいかがでしたか?

島崎 画というガイドがない状態で、みんなの想像力だけで空間や状況、感情などを共有して作り上げていくスタイルの収録なので、より“生でお芝居をしている”感じがありました。瀬下(寛之)総監督や井手(恵介)監督からいただくディレクションも……ものすごく難しいことを要求されるんですが、「なにがほしいのか、なぜそうしたいのか」といった理由やビジョンを明確に伝えてくださるので、ひとつひとつ噛み砕きながら演じることができました。

ーー 「難しい要求」とは?

島崎 人間的な繊細さを求められるというか……例えばですが、“悔しがる”という表現に対して、「泣きながら、怒りながら、でもちょっと笑いながら悔しがってください」みたいなニュアンスですね。一方向じゃなくて、いろんな感情が混ざった繊細なお芝居を求められるんですが、その繊細さがすごく心地よくて「ああ、人間ってそうだよなあ」って感じることが多かったですね。

ーー そういった繊細なところまでプレスコで演じなければならないというのは、とても難しそうに思えるのですが。

島崎 画がないと想像力のほうに集中できるから、やりづらいと感じることはなかったです。これってたぶん、声優の特異技術だと思うんですが……画があると「画にお芝居をシンクロさせないといけない」という作業が発生するんですよね。僕ら声優は自然とやっているけれど、実はそれって結構難しいことだと思うんです。空間や距離も画のなかでは決まっているから、そこに引っ張られたり、合わせようとしすぎることもある。

対してプレスコは、みんなの想像力で空間を共有していって、その場でどんどん作り上げていく感じですから。例えば部屋にいるシーンを録るときに、まず最初に喋った人がその部屋の空間や距離のイメージをふわっと示してくれるんです。それを受けて「あ、この距離なんだ。だったら少し遠めから話す感じかな?」とかって、自分のなかでイメージが膨らんでいって、その場でどんどん空間ができあがっていく感じなんです。

ーー 事前に打ち合わせをせずとも、みなさんの瞬発力と想像力で構築できるということでしょうか?

島崎 そうですね。「ここはこういう部屋で、こういう位置関係で、こんな感じの表情をしてるよね」なんて、事前に打ち合わせすることとかもないですから。その場で相手の方が発するセリフを聞いて「あ、こういう顔をして言ってるんだな」ってイメージが浮かんで、それに対して僕はレビウスとして言葉を返す。画がないというのは、そういったことだけに集中できるんです。周りが本当にすごいメンバーでしたから、引っ張ってもらえたっていうのもきっとあると思いますが、そうやってお芝居ができたのはすごく楽しかったです。

プレスコで、レギュラーとしてこれだけガッツリお芝居させていただいたのは初めてでしたし、こんなに素晴らしい作品で、素晴らしいみなさんとご一緒できる機会をいただけて、自分の想像力が深まって広がった気がしています。“気持ちで演じることの大切さ”を改めて感じる作品でしたね。

ーー “気持ちで演じる”とは?

島崎 いろんな作品に参加させていただくことで“画に演技を合わせる技術”というのが自分のなかで育ってきましたが、気がつくと……自分から演技を合わせにいってしまうこともあるんですよね。でも『Levius』はガイドとなる画がないので、みんなと一緒に想像力を膨らませてお芝居するしかない。それがすごく心地よかったんです。

「画に合わせるってなんだろう?」ってよくわからなくて下手だけど、「画に合わなかったとしても、この人物の気持ちをとにかく演技で表現しよう!」っていう思いだけで演じていた新人の頃を思い出して、「やっぱり気持ちって大事だな」と……いつも思っていますが、『Levius』の現場はお芝居だけに集中できる時間・空間だったので、さらに強く実感しましたね。

声優に求められているのは、“リアル”ではなく“リアリティ”
『Levius』は、主人公・レビウスが人体に機械を融合させて戦う“機関拳闘”に没頭し、17歳という若さにしてその才能を開花させていく物語。最新のCG技術で描かれる機関拳闘は、人体と融合する機械の細部まで表現された画と、目を見張るようなアクション、そして──島崎の言葉を借りると──キャストたちの“リアリティ”を追求した芝居によって、一瞬のうちに観る者を作品世界へと引きずり込んでいく。

ーー 完成した『Levius』をご覧になった際、機関拳闘のシーンについてどのように感じましたか?

島崎 すごく好きだなと思ったのは……リング上の拳闘士たちが、絶え間なく動いているんです。激しく殴り合っているところに目が行きがちですが、それ以外のところでもずっと動いていて。実際のボクシングでもそうですが、リング上の選手たちって、相手との距離を計りながらずっと動いていますよね。その感じが、ハイクオリティなアニメーションでちゃんと表現されているんです。

カメラのアングルが変わって観客の視点でリングを映していても、小さく見える拳闘士たちが動いていて、攻防がずっと繰り広げられている。本当に試合を観ているような気持ちになりますし、「すごく細かく作ってくださったんだなあ」って感動しちゃいました。

ーー 拳闘士を演じるにあたって、例えばボクシングをする際の呼吸についてリサーチするなど、特別に準備したことはあるのでしょうか?

島崎 作品によってはそういった準備をすることもありますが、『Levius』に関しては、特別になにか準備するといったことはなかったですね。というのも、アニメって全部が全部“リアルに演じればいい”というわけではないですから。大事なのは“リアリティ”なんですね。

ーー なるほど、“リアル”と“リアリティ”は違いますからね。

島崎 そうなんです。声優というのは、アニメの世界でのリアリティを突き詰めていくお仕事だと思っていて……もちろん、現実世界でのリアルを参考にはしますが、どこまでそれを取り込むのか、それとは別にリアリティの表現があるかもしれない。そういったことを考えながら演じるんですね。

そもそも、リアルな息ってそんなに音がしないじゃないですか。驚いたときの「は!」とか、振り向くときの「ん?」とか、殴られるたびに「ぐっ!」って息が漏れるわけでもなくて。画があれば「いまは口を閉じてるから、鼻息だけのほうがいいかな?」って思ったりもしますが、『Levius』に関してはやっぱり現場で感じて自分のなかから出てきたもののほうが、この世界でのリアリティを表現できるんじゃないかと思いました。

ーー 『Levius』のなかでのリアリティを追求したお芝居に、3DCGで描かれたキャラクターの表情が乗ることで、画面のなかで本当に彼らが息づいているように感じられるわけですね。

島崎 表情もすごかったですよね~。とくに僕が好きなのは、ビルの表情。すごく細か~いんです(笑)。ビルってあんまり表情が変わらないんですが、微妙に顔に出ることがあって。櫻井さんのお芝居と合わせて観ると、それがより伝わってくるんですよね。

収録のときも「あ、ビルはいまクールに喋ってるけど、実は動揺してるな。レビウスのことを心配してるんだな」とかって感じることが多かったんですが、画が乗るとさらにビルが表情豊かな人に見えてくるんです。本当に微妙な表情の動きですが、その表現力ってすごいなあと思いますね。ビルの目つきから「あ、いまは厳しい状況なんだな」ってシリアス度合いもわかるので、すごく面白いですよね。その横でザックスが「レビウスぅ~!」(心配しているザックスの声色で)って、お父さんみたいな顔をしていて(笑)。

ーー わかります(笑)。ザックスは強面ですが、かわいい人ですよね。

島崎 かわいいんだよなぁ~、愛嬌があって。この“セコンド3人衆” (ザックス、ビル、ナタリア)のリアクションの違いが僕はすごく好きなんですが、表情や声色の細かいところまで楽しめますよね。

ーー そんな『Levius』がいよいよ配信開始となります。

島崎 すべてがハイ・ハイ・ハイクオリティな(笑)作品です。アツくなれるし、泣けるし、温かくもなれる。本当に素敵な作品なので、ぜひたくさんの方に観ていただきたいです。そして、みなさんもぜひレビウスを“過保護”に見守っていただけたら(笑)すごく嬉しいです!

Netflixオリジナルアニメシリーズ『Levius』
2019年11月28日(木)Netflixにて全世界独占配信

【キャスト】
レビウス・クロムウェル島崎信長
ザックスクロムウェル諏訪部順一
ビル・ウェインバーグ:櫻井孝宏
ナタリアガーネット佐倉綾音
マルコム・イーデン:大塚芳忠
ヒューゴ・ストラタス:小野大輔
謎の美少女:早見沙織
Dr.クラウン宮野真守

【スタッフ】
原作:中田春彌(集英社 ヤングジャンプ コミックス・ウルトラ)
総監督:瀬下寛之
監督:井手恵介
シリーズ構成:瀬古浩司
脚本:猪原健太 瀬古浩司
プロダクションデザイン:田中直哉 Ferdinando Patulli
キャラクターデザイン:森山佑樹
ディレクター・オブ・フォトグラフィー:片塰満則
CGスーパーバイザー:岩田健志
美術監督:畠山佑貴
色彩設計:野地弘納
音響監督:岩浪美和
音楽菅野祐悟
アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ
製作ポリゴン・ピクチュアズ

(c)中田春彌/集英社 ポリゴン・ピクチュアズ

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掲載:M-ON! Press