『なきごと「夜のつくり方」Release Tour 2019』2019.11.24(SUN)新代田FEVER

「この景色が見たかった」――ライブの中盤、なきごとの代表曲でもある「メトロポリタン」を披露したとき、ボーカルの水上えみり(Vo.Gt)は心から嬉しそうに喜びの言葉を口にした。2018年になきごとして初めてのライブをおこなった新代田FEVER。あれから1年、なきごとは同じ場所を見事にソールドアウトさせるバンドへと成長を遂げて帰ってきた。この日は、9月18日リリースしたミニアルバム『夜のつくり方』を引っさげた全国7ヵ所8公演の『なきごと「夜のつくり方」Release Tour 2019』のツアーファイナルゲストには、現在の事務所に所属する以前からリスペクトを寄せていた、先輩バンドSAKANAMONを迎えて、急成長するバンドのいまを刻むステージを見せてくれた。

先攻は、SAKANAMONマスコットキャラクター「サカなもん」を置いたステージに、藤森元生(Vo.Gt)、木村浩大(Dr)、森野光晴(Ba)が現れると、スリーピースとは思えないタフで密度の高い演奏で駆け抜ける「クダラナインサイド」からライブキックオフ。お客さんの「やいやいやい」のかけ声を巻き込んだ「幼気な少女」、がんじがらめの世界から解放されていくようなダンスロックアイデアル」へと、アグレッシブアップナンバーを容赦なく畳みかけていく。「もっと室内の温度を温めていきたいと思います!」と、藤森が気合いを込めたあと、中盤には、突如、なきごとの「メトロポリタン」のワンフレーズカバーすると、そのまま音楽への執念を滲ませた「ミュージックプランクトン」へ。熱いリスペクトを寄せて、この日のライブに誘ってくれた対バン相手に向けて、たとえ後輩であろうとも、しっかりと敬意を払う。そのスタンスが、とてもSAKANAMONらしい。

日本の伝統芸能を彷彿とさせる独特のリズムのなかで、ひたすら<鬼怖い>と歌う「鬼」や、跳ねるグルーヴにラップをのせた「YAMINABE」へと、中盤にかけては、曲ごとにまったく異なるアプローチの楽曲を連発。それを受けて、「初めて我々を見た人は、どんなバンドかわからなくなってるんじゃないですかね(笑)。掴みどころがないところが強みであり、弱点でもあるSAKANAMONです」と、藤森は自虐気味に語って笑いをさそっていた。たしかに、SAKANAMONが鳴らす音楽には、一聴して脈略がなく、やりたい放題にも見えるが、なにげにセンチメンタルで優しいメロディが軸にあり、思春期の衝動をそのまま拗らせたような危うさのようなものがあって、それが、ジャンルを超えたSAKANAMONロックとして貫かれていると思うのだ。そんなSAKANAMONの魅力が最大限に詰まっていたのが、最新ミニアルバム『GUZMANIA』から披露されたラストの2曲「SECRET ROCK’N’ROLLER」と「箱人間」だった。SAKANAMONにしても、なきごとにしても、ひとりでライブハウスに来るようなお客さんが多い。そういうお客さんを、「他のみんなとは違う特別でハイセンスな人たち」と呼び、世間から隠れたシークレットロックローラーだという親愛を込めて、シンガロングを巻き起こした「SECRET ROCK’N’ROLLER」も、バラバラの一人ひとりを肯定する「箱人間」も、まさにライブハウスという場所で歌われてこそ意味があるナンバーだ。骨の髄までバンドマンであり続けるSAKANAMONは、その本領を発揮するステージで、後半戦を、後輩・なきごとに託した。

なきごと

なきごと

ピアノのSEにのせて、水上えみり、岡田安未(Gt)に、サポートドラム奥村大爆発とベース山崎英明を加えた4人が登場すると、気持ちをひとつにするように向かい合ってから、ライブがはじまった。オープニングを飾ったのは、『夜のつくり方』でも1曲目に収録されている「合鍵」だ。音源で聴く以上に力強いバンドサウンド。そのうえをさまよう仄暗いメロディライブの始まりを静かに告げる。続いて、激しく明滅する光のなかで、岡田が繰り出すインパクトのあるギターフレーズから突入した「忘却炉」、心のなかに渦巻く混然一体とした感情がぶつかり合う「ユーモラル討論会」へと、序盤はパワフルなロックナンバーを畳みかけていく。

なきごと

なきごと

なきごと結成前、「女の子だからアイドルっぽく見られるのではなく、ちゃんとロックバンドとして見てほしかった」というような葛藤があったという。そこから生まれた骨太なロックサウンドと、揺るぎない意志が貫かれたなきごとの佇まいは、正真正銘のロックバンドだった。

なきごと

なきごと

MCでは、1年前に初めて開催したライブが新代田FEVERだったことに触れて、「あの時、今度はソールドさせるようになってから帰ってきますと言ったことが、まさか1年で実現できるとは思わなかった」と伝えた水上。自身の過去に想いを馳せるように、「過去と今について比べた曲を」と紹介すると、まだCDには収録されていないポップな曲「さよならシャンプー」を届けた。さらに、1年前にも演奏した曲として、<愛されていたかった>という切ないフレーズが胸に突き刺さる「ヒロイン」へとつなぐ。

なきごと

なきごと

そして、「生まれ変わったら猫になりたい」という想いをこめて、肩のちからを抜いたミディアムテンポ「のらりくらり」や、ファンキーなグルーヴを聴かせる「連れ去ってサラブレット」のあと、ひときわ大きな歓声が湧いたのは、バンドの存在を広めるきっかけになった「メトロポリタン」だ。曲調こそフロアのハンドクラップを誘うほど軽やかだが、恋愛におけるドロドロとした情念が込められた独特の歌詞は、敬愛するスピッツ草野マサムネの世界観にも通じるものがある。ふだんは人見知りコミュニケーションが苦手だという水上が、音楽だからこそ、自分の感情と真っすぐに向き合い、丁寧に紡ぐ言葉たちは、どことなく歪だが、とても切実な想いが滲む。

なきごと

なきごと

終盤、1年前のライブで1曲目として演奏したバラード曲「癖」や「Oyasumi Tokyo」など、エモーショナルなスローナンバーをじっくりと聴かせると、水上は、ぽろぽろとギターを弾きながら、詞を朗読するように語りかけた。それぞれの事情を抱える一人ひとりの夜に寄り添う作品として完成させた『夜のつくり方』アルバムについて。「死にたい」と言った自分に、「バカじゃないの」と鼻で笑ってくれた人について。そして、「私の背中を押してくれたその人のように、わたしも聴いてくれる人の背中を押せたらという願いを込めて書きました」と伝えて届けたのは、かつてバイトを辞めた日の夜道で作ったというエモーショナルなロックナンバー「深夜2時とハイボール」だった。漠然とした不安と焦燥感から頭をよぎる「死にたい」は、やがて「生きたくなった」と救いを残して終わる。その後、「最後に羊の安楽死の歌を」と、多くは語らず、本編のエンディングナンバーとして届けたのは、『夜のつくり方』でもラストを飾る「ドリー」だ。かつて話題になったクローン羊「ドリー」の鎮魂歌のような歌だが、おそらく、なきごとがこの曲で伝えるものは、人は決して誰かの代わりではなく、揺るぎない自分自身として生きる価値があるという熱く優しいメッセージだと思う。

なきごと

なきごと

アンコールでは、SAKANAMONが、サプライズでカバーした「メトロポリタン」を聴いて、「まさか歌われるとは思ってなくて、本当に泣いた」と、喜びを伝えた水上。今年の新年会で実現したSAKANAMONとの出会いについては、コミュ障気味だから何を話したか、あまり覚えていないと言っていたが、隣でその様子を見ていた岡田は「(水上と藤森は)ふたりともおどおどしてたけど、先輩、後輩の良い関係ができてたよ」と言う。アンコールで披露されたのは、そんなSAKANAMONとの大切な日を忘れないように作った「憧れとレモンサワー」(「深夜2時とハイボール」の続編みたいなタイトルがいい)。SAKANAMONへのオマージュを感じるサウンドにのせて、<また僕はあなたに、救われてしまったなぁ>とストレートに歌っていた。自分の好きなもの、大切にしたいものに対して、ピュアに心をぶつけられることが、なきごとの大きな魅力だなと改めて思う。

なきごと

なきごと

さらに、アンコールの最後は、『夜のつくり方』にシークレットトラックとして収録されている「B」で、終演。最低限の光だけを灯したステージで、<君が起きる前に 涙は飲み干しておかなきゃな>と歌うフレーズは、それぞれの想いを抱えた夜を経て、やがて朝へと向かうような、このツアーの終わりに相応しい締めくくりだった。

なきごと

なきごと

この日のライブで、なきごとは2020年1月26日に渋谷eggmanで自主企画ライブ「鳴言」vol.2を開催することを発表した。大きな成長を遂げた2019年を経て、この先、なきごとがどんなふうに音楽シーンを突き進んでいくのか。目が離せない。

なきごと 撮影=南雲直人