日本では、日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の終了を韓国側が延期したことに関連して、日韓の徴用工問題と貿易問題が再燃している。今週は、文在寅ムン・ジェイン大統領の外交安保問題の懐刀である文正仁(ムン・ジョンイン)大統領安保担当特別補佐官が来日し、日本側の懐柔に当たっている。

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 だがそんな中、本国、すなわち韓国でいま一番ホットな話題は、日韓関係ではない。ズバリ、「在韓米軍撤退問題」である。

トランプも文在寅も在韓米軍撤退論者

 韓国の外交関係者が語る。

文在寅大統領ドナルド・トランプ大統領は、個人的には相性が悪いと、一般には思われている。それはそうに違いないのだが、ただ一点だけ同じ考えを持っている。それは、在韓米軍を一刻も早く撤退させたいということだ。

 トランプ大統領は、アメリカ軍が外国に駐留するのはカネの無駄だと考えている。一方、文在寅大統領は、北朝鮮と完全に和解するため、在韓米軍は邪魔だと考えている。両国のトップが、理由はともあれ同じ方向を向いているのだから、そちらへ進んで行くのは自然な流れだ」

 実際、韓国では、SMAを巡る議論から、在韓米軍の撤退、もしくは縮小に向かうとの観測が流れているのだ。

 SMAとは、在韓米軍防衛費負担金、すなわち韓国側が、2万8000人の在韓米軍の駐留経費をいくら出すかということだ。12月末までに結論を出すことになっている2020年分のSMAを巡って、期限まで1カ月となっても、米韓は大モメなのだ。

 11月18日ソウルで行われた3回目の米韓協議も決裂した。韓国の外交関係者が続ける。

アメリカ側は、今年のSMA10億ドルの5倍の50億ドル出せという。わが国は、今年同様、8%程度の増額にしてほしいという。両国の開きは依然として大きく、3回目の交渉はわずか80分で決裂した。

 アメリカ国防総省は、2020年会計年度(2019年10月2020年9月)で、在韓米軍の駐留経費を44億6420万ドル計上している。その内訳は、在韓米軍の人件費21億400万ドル、運営維持費22億1810万ドル、家族・住宅費1億4080万ドル、特定目的費用130万ドルだ。だがこれは、わが国に対して圧力をかける目的で掲げているものであり、韓国がこれを全額負担するのは理にかなわないというのが、わが国の一貫した立場だ」

 このため、特に文在寅政権を支持する左派の間で、在韓米軍撤退論がにわかに喧しくなってきているというわけだ。

文在寅の「後継者」による爆弾発言

 前述の文正仁大統領補佐官も、在韓米軍撤退論者として知られる。だが、最近その発言に注目が集まっているのは、柳時敏(ユ・シミン)廬武鉉財団理事長である。

 柳理事長は1959年、慶尚北道慶州生まれ。ソウル大学経済学部時代に、総学生代議員会議長を務めるなど、学生運動の闘士としてならした。卒業後はドイツ統一を研究するためドイツに渡り、左派のハンギョレ新聞ドイツ通信員などを務めた。帰国後はMBCの時事討論番組『100分討論』の司会役などを経て、2003年の廬武鉉大統領誕生とともに、文化人から大統領側近の国会議員に転身した。

 廬武鉉政権時代の2006年2月から2007年5月まで、保健福祉部長官(厚労相に相当)を務め、児童と高齢者への社会主義的バラマキ行政で話題を呼んだ。2012年大統領選で左派の文在寅候補が右派の朴槿恵候補に敗れたことで、翌年2月に政界引退を発表。現在は、廬武鉉財団理事長という肩書で、「盟友」文在寅大統領の個人アドバイザーの役割を果たしている。

 その柳理事長が11月26日、次のような爆弾発言を行ったのだ。

アメリカはわが国に、年間6兆ウォンのSMAを要求している。これはわが国の国民一人当たり2億ウォンだ。これは世界一高い額で、こんなものを出していたら、わが国の余力がなくなってしまうし、もはや同盟ではない。

 アメリカは駐留経費がないというなら、規模を減らせばよいのだ。象徴として空軍だけを残して、陸軍はすべて撤退したって構わない。無理な要求ばかりするのだったら、いなくたってよいという話だ」

 柳理事長のこの発言が韓国で注目されたのは、その内容が過激だからということもあるが、文在寅大統領が「新たな後継者」に指名するのではないかとの観測が立ち始めたことも大きい。

 文在統領の任期は2022年5月までで、現在はちょうど5年の任期の折り返し地点を越えたところだ。だが、来年4月の総選挙を終えれば、韓国は事実上、大統領選挙レースに突入する。

 文大統領が当初、後継者に考えていたのは、「タマネギ男」(剥いても剥いても疑惑が出てくる男)のニックネームで有名になった曺国(チョ・グク)前法務長官だった。だが曺前長官は、いまや自身が逮捕されるのではとも噂されるほどで、次期大統領の芽は完全になくなった。

 現在、「次期大統領に最も近い男」と言われるのは李洛淵(イ・ナギョン)首相だが、文大統領とは距離がある。かつ、李首相は全羅南道出身のため、慶尚道の票が取りにくいという致命的な欠点を抱えている。

 それに対し、柳理事長は曺長官と並んで文大統領の古くからの仲間であり、慶尚道の出身だ。文大統領のホンネとしては、曺氏の芽が消えたいま、柳氏こそが、後を託したい「意中の人」と言えるだろう。

アフガン駐留米軍削減の次は在韓米軍

 折りしも、トランプ大統領サンクスギビングデーに合わせて11月28日、電撃的にアフガニスタンの駐留米軍基地を訪問したことが、韓国で大々的に報道された。

トランプ大統領は、現地の兵士たちに七面鳥を翳しながら、現在1万4000人いるアフガニスタンアメリカ軍を、8600人に減らすと宣言した。トランプ大統領は、2016年大統領選挙中から、アフガンと韓国のアメリカ軍を撤退させるという公約を掲げてきた。いよいよ次は韓国軍の番だ。

 文在寅大統領は、自分の任期中に、アメリカから戦時作戦統制権(有事の際に在韓米軍司令官よりも韓国軍最高司令官が上に付く権利)を取り戻すことに意欲を燃やしており、今年8月からそのためのオペレーションも始めている。戦時作戦統制権の返還が、在韓米軍撤退の決定的な契機となるだろう」(同前)

 在韓米軍問題は、日本の防衛にも直結する重要事だ。日本は日韓問題の枠組みの中で、徴用工や貿易問題と合わせて、この問題を考えていくべきである。

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2017年11月、在韓米軍のハンフリーズ基地を訪問したトランプ大統領(写真:AP/アフロ)