(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長)

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シンギュラリティが訪れる2045年後の世界

 米国の未来学者のレイ・カーツワイルは、著書『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』(NHK出版、2007年)で、2045年人工知能(AI)が全人類の知能を超えるシンギュラリティ技術的特異点)が訪れると予測した。

 本当に、シンギュラリティが来るのかどうかは筆者にはわからない。しかし、今後間違いなく人類の文明は進み続けるだろうし、そのためには様々な半導体が必要不可欠である。したがって、世界半導体市場は成長を続けると確信している。

 では、シンギュラリティが訪れる2045年頃に、世界半導体市場はどのくらいの規模になっているのだろうか? 

 筆者は、8年前の2011年に、「2010年に約3000億ドルだった世界半導体市場は、10年ごとに1125億ドルずつ増大し、2050年には2.5倍の7500億ドルになる」と予測した(電子ジャーナル2011年11月号)。

 この予測を行った当時は、「そんなに半導体市場が成長するとは思えない」という批判を多数受けた。来年2020年は、東京五輪が開催される節目の年である。そこで本稿では、(途中経過ではあるが)筆者の8年前の予測がどうなったかを検証してみたい。そして、その検証結果を基に、再度、2050年の世界半導体市場の予測を試みる。

 先に結論を言ってしまうと、2010年から2020年にかけて、筆者の予測は、約10%上方修正された。この結果を基にすると、2050年に世界半導体市場は9000億ドルを超えると予測される。さらに、10年ごとに10%ずつ上方修正されていくと仮定すれば、2050年の世界半導体市場は約1兆3000憶ドルになると予測できる。筆者は、後者の方になると期待している。

 以下では、まず、8年前に、世界半導体市場が10年ごとに1125億ドルずつ成長し、2050年7500憶ドルに成長すると予測した根拠を簡単に振り返る。

2011年に行った2050年の世界半導体市場予測

 2050年に世界半導体市場が、約3000億ドルだった2010年の2.5倍の7500億ドルになる(図1)と予測した根拠は次の通りである。

(1)過去の30年のデータから、先進国および新興国では1年間に1人当たり、それぞれ150ドルおよび75ドルの半導体を消費しているという計算結果が得られた。

(2)2010年から2050年にかけて、世界人口は70億人から90憶人に増える。その内訳として、先進国の人口は10億人から30億人に増加し、新興国の人口は20億人から40億人に増えると予測されている。

(3)図2から、先進国の人口は10年で5億人ずつ増大し、新興国の人口も10年で5億人ずつ増えることが分かる。

 

(4)すると、10年間で増える世界半導体市場は、先進国の増加分=5億人×150ドル=750億ドルと、新興国の増加分=5億人×75ドル=375億ドルの合計で、1125億ドルになる。

(5)世界半導体市場は、2010年から10年ごとに1125億ドルずつ増大していくことになるため、2050年には7500億ドルになると予測できる(図2)。

別の計算手法での検証

「世界半導体市場は10年ごとに1125億ドルずつ成長する」ことについては、以下に示すように、まったく別の計算による検証も行った。

 図3に、1984年から2013年までの世界半導体市場、出荷個数、平均販売価格の推移を示す。この図から、半導体の出荷個数は、上下動はあるものの、概ね直線的に増大していると言える。そして、その傾きから、毎年平均で250億個ずつ増加していると算出できる。

 一方、平均販売価格は、1995年および2000年に大きなピークがあるものの、次第に一定となり、2013年には0.43ドルに収束していることが分かる。

 つまり世界の半導体市場は、毎年平均して、250億個×0.43ドル=107.5億ドルずつ増加していると言える。すると平均して10年間で、107.5×10=1075憶ドルずつ増加していると計算できる。

 世界半導体市場の10年ごとの増加額は、1人当たりの半導体消費量から計算した場合は1125億ドルになり、年間の平均出荷個数と平均価格からの計算では1075億ドルになった。2つの手法で計算した値は、おおむね一致した。したがって、「世界半導体市場は10年ごとに1125億ドルずつ成長する」ことは確からしいと当時は考えた。

2019年時点のデータで検証

 ここまで述べたように、8年前に、かなり大胆に2050年の世界半導体市場を予測した。この予測が正しかったどうかを、2019年時点のデータを基に検証してみよう。

 図4に1991年から2020年までの世界半導体市場および出荷個数の推移を示す。ただし、2019年以降は推定値である。

 2016年にビッグデータの時代を迎え、半導体メモリ市場が爆発的に成長したため、2018年に世界半導体市場は4688億ドルとなり、出荷個数も1兆個を超えた。しかし、2019年に突如メモリ不況に突入したため、世界半導体市場は4219億ドルに減少した。このメモリ不況は2019年末に回復に向かい、2020年に世界半導体市場は4500億ドルを超えると推測されている

 8年前の筆者の予測では、2010年の3000億ドルから10年経過して1125億ドル増加し、2020年に4125億ドルになるはずだった。しかし、(推定値ではあるが)2020年には4500億ドルを超えるのである。つまり、筆者の予測は、約10%上方修正されることがほぼ確実である。

 8年前の筆者の予測に対しては、「そんなに増えるはずがない」と批判を受けたが、実際は筆者の予測以上に世界半導体市場は成長していることになる。

2050年の世界半導体市場の再予測

 2010年から2020年にかけて、1125億ドル増加するという当初の予測は10%上方修正された。この結果を基に、2050年の世界半導体市場を再予測してみよう(図5)。

 まず、図4から、半導体の出荷個数は、1991年から2018年にかけて毎年平均310億個ずつ増加していると算出できる(8年前に計算した250億個よりも多くなっている!)。そして、ここ数年の半導体の平均販売価格は0.48ドルとなっている(8年前の0.43ドルよりもやや値上がりしている)。したがって、世界半導体市場場は、毎年平均で310億個×0.48ドル=約150億ドルずつ増大することになる。

 8年前は、10年ごとに1125億ドルずつ増加して、2050年7500億ドルになると予測した。しかし、2020年以降は、10年ごとに1500億ドルずつ増加していくことになる。すると、世界半導体市場は、2050年には9000億ドルを超えることになる。

 加えて、この10年間で世界半導体市場の増加分は10%上方修正されたわけだから、今後も10年間で10%ずつ上方修正され続けていく、と仮定してもいいかもしれない。この仮定を取り入れると、2050年に世界半導体市場は約1兆3000億ドルになると予測できる。

 半導体は、PC、スマホ、各種デジタル家電、クルマなど消費財だけでなく、IoTが本格普及するために世界中が半導体付のセンサで覆い尽されることになる。次世代通信5Gの普及も半導体市場の拡大に一役買うに違いない。したがって、世界半導体市場は我々の予想以上に成長を続けるだろう。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  「7nmの半導体」に7nmの箇所はどこにもなかった

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