2020年まで残り1カ月。東京オリンピックが控え、スポーツ界にとっては、大事な1年になることは言わずもがなだ。

そして、サッカー界にも大きな出来事が起こる年になる。それは、“キング・カズ”こと、三浦知良がJ1の舞台へと復帰してくるのだ。

◆52歳でトップリーグ挑戦

©︎J.LEAGUE

チームからのリリースがない現時点では、2020シーズンもカズが横浜FCプレーすることになるだろう。13年ぶり、カズとしては横浜FCで2度目のJ1挑戦となる。

Jリーグの最年長記録を次々と塗り替えていくカズ。現在52歳、2020シーズンの開幕は53歳になっている可能性もある。一般人でも確実に衰えが来ている年齢だが、そんなカズは日本プロサッカーの頂点に挑もうとしている。

世界を見渡しても50歳を超えて、トップリーグプレーしている選手は聞いたことがない。かつてのレジェンドがノンプロリーグで復帰したりすることは目にするが、プロのトップレベルでは珍しいことだ。

◆フィジカル強化=全体的な短命化

近年のフィジカルトレーニングの発達やスポーツ医学の進歩により、多くの選手が長い現役生活を送れるようになった。

野球で言えばトミー・ジョン手術(ヒジのじん帯再建手術)が一般化され、手術に踏み切る選手の数も多くなった。もちろんメスを入れるのだから、リスクもあるが、医療の発達で成功率は高まっている。

サッカー界も含め、ケガをした選手が復帰後にパフォーマンスを維持できるようになったのも、医学やコンディショニングの発達があったからだろう。

また、選手の体質改善から、食事制限、そしてトレーニングの進化により、選手のフィジカル面の差が、競技レベルの差に表れるようにもなっている。

多くの選手がフィジカルを鍛えることで、競技そのもののレベルが上がり、結果として、選手の寿命は短くなっていくだろう。年齢による衰えに対応できる限界はやはり存在するからだ。

◆キング・カズという存在
©︎J.LEAGUE

そう考えれば、目覚ましい速度で変化しているスポーツ界において、52歳のカズの存在は異例中の異例といえるだろう。

フィジカルコンタクトがあり、瞬発力が求められ、体力も必要なスポーツで一線を張っている。野球とも違い、出場すれば足を止める時間はほとんどないスポーツだ。

何より、カズのポジションを考えれば、若い選手の方が有利であり、経験だけではカバーできない側面が多い。その中でプレーを続けているカズの存在しうる理由とはなんなのか。

2018シーズンの終わり、とあるイベントで取材をする機会があった。シーズンを終え、自主トレを前にトレーニングについて伺うと「メンタルから体から。やれることなら全部鍛え直したいです」と答えが返ってきた。当時51歳の大ベテランが口にした、「全部鍛え直したい」と言う言葉が、全てを表しているかもしれない。

時代の変化、競技レベルが向上する一方で、衰えを感じてもいるカズ。それでも、もう一度鍛え直し、戦える体を作ることを一番に考える。そのプロフェッショナリズムが、存在しうる理由ともいえるだろう。

また、当時は鹿島アントラーズがクラブ・ワールドカップに出場していたタイミングだったが「鹿島はまだやっていて、僕らは休んでいるんで、それじゃいつまでも追いつかないですよね」と、アジア王者と比較した。常に上を目指し、常にベストを求めるその意識が、50歳を超えてもなお一線で求められる理由だろう。

◆アスリートの引き際は
©︎CWS Brains,LTD.

カズのように、現役を長く続けることも簡単なことではない。どの競技においても、全てのアスリートが過去の記録を上回ろうと努力している。そして、そのために自らの体を鍛え上げていく中で、その鍛え方はより効率的に、より科学的になっていくことは間違いない。

その結果、選手の寿命が延びるケースは増える可能性もあるが、同時に淘汰もされていくはずだ。プロとしてプレーしていく上では、フィジカル面だけでは保てないものがある。それは、プロ意識、向上心、それらを保つメンタル面だ。

12月1日、38歳で現役生活に別れを告げた元日本代表DF田中マルクス闘莉王(京都サンガF.C.)も「自分の心で燃えている炎が、少しでも消えかかりそうになった時は、どんな時であれ、歳も関係なく引退しよう」と、引退を決断した理由を語った。フィジカル面の難しさもあった中で、やはり決断に至ったのはメンタル面だった。

「体力の限界」と言って引退した千代の富士関(当時35歳)の言葉が有名だが「気力もなくなり引退することになりました」と続け、やはり気持ちの部分が大きかったことを感じさせられる。引き際を考えるのは、フィジカルよりもメンタルなのかもしれない。

1986年にブラジルのサントスと初めてプロ契約を結んだカズ。それから多くのことを積み上げ、現役生活は35年目を迎えようとしている。チームがJ1昇格を掴んだシーズンは、ケガの治りも悪く、コンディションが整わずに3試合の出場に終わった。それでもきっと、新シーズンに向けて、カズはJ1で戦えるまでにオフにコンディションを高めるはずだ。気力も体力も充実し、再びトップカテゴリに舞い戻ったキングが、J1のピッチで躍動する姿を早く見たいものだ。
《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》
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