11月最終週、私は「桜を見る会」に関する原稿を、結果的に2度書き直したのですが、結局お蔵入りさせざるを得ませんでした。

JBpressですべての写真や図表を見る

 というのも、予定稿を入れても入れても、翌日にはそれを上回る不正が明らかになってしまい、数日前にやや大胆なつもりで記した内容が完全に色あせてしまったからにほかなりません。

 毎日、何らかの事実が明らかになり、あるいは発言や失言があり、その失言を取り繕う失言がさらに事態を悪化させて・・・という負のスパイラルが続き、現政権は完全に詰んでしまったように見えます。

「詰んだ」というのは、元特捜検事で弁護士の郷原信郎さんが採られた表現(https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5ddf2592e4b00149f72942a7)を引用したものです。

 実際、進んでも退いてもこの政権はもたないことが、いまやまともにものを見る大人の目には明らかで、以下に詳述するように、事態はいまや「桜を見る会」疑獄事件と呼ぶべき段階に到達してしまいました。

 郷原弁護士には、大学の案件でもお世話になったことがあり、ご本人を存じ上げますが、実に気持ちよく冷静沈着に問題を解決されます。

 例えばこの「政府広報」(https://www.gov-online.go.jp/sp/gosokui/index.html)をご覧ください。

 令和元年10月23日、「皇位継承式典」の一環として、内閣総理大臣「夫妻」主催の晩餐会なるものが行われました。

 これに先立つ10月22日即位礼正殿の儀」が行われたのち、宮中豊明殿で「饗宴の儀」と名づけられた会食が催されています。同様の「饗宴」は10月25、29、31日にも実施されている。

 その合間を縫うように23日、「外国元首」「各国祝賀使節」などを招待し、首相夫婦主催として開かれた「晩餐会」の会場が、ホテル・ニューオータニ「鶴の間」にほかなりません。

 つまり、日本国として、世界各国のトップを招いて催される、最高の晩餐会を開く会場として選ばれたのが「ホテル・ニューオータニ」<鶴の間>で、ここで「参加費5000円」で開かれたのが「桜を見る会前夜祭>」なる行事だったわけです。

 ちなみに、全く余談ですが、昨晩、このところいろいろ頑張ってくれていたスタッフたちを労う意味も含め、ややよそ行きの食事を共にするべく大学の裏、根津の街にある庶民的なワインバーに出かけました。

 そこですら勘定は5000円の数倍になりました。

 日本国として、米国や欧州など各国の元首級要人を招いて1人5000円ということですから、これからはニューオータニを焼き鳥屋代わりに常用したいと思います。

どちらに転んでも「終わり」

 さてはて、そんな「日本一の宴会場」ホテルニュー・オータニで開催された「桜を見る会前夜祭の経理に関する説明に、決定的なパラドックスが突きつけられました。

 11月18日、郷原さんが示された論理は単純明快、まさに快刀乱麻というべきものです。

安倍首相夫妻や安倍事務所の人間は<桜を見る会前夜祭の会費5000円を払ったのか?」

 直前までぶら下がり記者会見などで語られていたストーリーは「桜を見る会前夜祭は、参加者がホテル側に直接参加費用(5000円)を支払っており、安倍事務所はコミットしていない、というものでした。ある意味分かりやすい説明です。

 そうであるなら、安倍首相夫妻や「前夜祭」に参加したスタッフもまた、この宴会に「参加」しているのですから、参加費を支払わねばならないでしょう。

 そして、そのような支出があったのなら、政治資金の収支報告書に記載がなければなりません。しかし、そのような記載はなかった。

 官房長官からも「支払っていない」との説明があった。

 であるとするならば、首相夫妻や安倍事務所の関係者は、ホテル・ニューオータニで5000円の支出をケチり、無銭飲食、ただ食いただ飲みをしたことになる。

 しかし無銭飲食は、被害を受けたホテル側が訴え出なければ刑事事件にはなりません。

 ホテル・ニューオータニが首相夫婦のただ食いを交番に訴え出なければ、無銭飲食というけち臭い罪名で内閣総理大臣夫婦やその一族郎党が刑事被告人になることは免れます。

 その代わりホテル・ニューオータニは、首相夫婦やその関係者に不当な利益供与をしていたことになります。

 今回は値引きをするので、その代わりに便宜を図ってもらいたい・・・そのような請託を疑われても、全く言い逃れができません。

 事実、ニューオータニという「企業」は内閣府からしばしば業務を委託される「業者」でもあります。

 首相に不当な便宜を供与し、その代わりに請け負った業務の中に「皇位継承式典」の一部である「内閣総理大臣夫妻主催」で、各国国家元首を招いた大晩餐会の不正な受注があったとしたら・・・。

 ケチ臭い些少な金額の「ただ食い」ではなく、国家レベルの大疑獄事件に必然的に発展してしまうだろうというのが、郷原弁護士が明快に示した「桜を見る会」で現政権は完全に「詰んだ」という筋道になります。

 すでに官房長官は「お金は払っていない」と明言していました。

 そして12月2日、月曜午後の国会で、首相は自ら「自分は『ゲスト』であって、前夜祭に参加費を支払っておらず、妻も含めて飲食などはしていない。ホテル側からは特別な配慮で低廉な価格の融通を受けていた」と答弁してしまいました。

 自分の事務所の人間は集金などを担当しただけでやはり飲食はしていない・・・だから参加費を支払う必要はない、と強弁したいようです。

 しかし、自分の事務所が集金して主催する宴会に自身夫婦が「ゲスト」という作文が通用する裁判も法定もあるわけがない。子供が考えても分かる道理でしょう。

 これで、「桜を見る会」疑獄、いや、短縮して記すなら「さくら疑獄」が確定したように思います。本稿はその国会審議を見届けた段階で入稿しています。

疑われてもいけない公的な立場

 さて、私が「桜を見る会」疑獄事件を看過すべきでないと思う一つの理由は、刑法の故・團藤重光先生との個人的な約束があります。

 様々な偶然から2000年代中半以降の團藤先生のメディア対応を、40代の私が秘書役としてお手伝いさせていただきました

 90代の先生は、年を追うごとに、また体調を崩され入退院を繰り返されるごとに、認知や記憶の変化を冷静に自覚しておられました。

 96歳、上智大学のホセ・ヨンパルト先生からカトリックの洗礼を受けられた折、團藤先生は「これで準備ができた」「後を頼む」とおっしゃられました。

 そのように伺ってもご専門の法学には全くの素人の私です。しかしできることは尽くそうと私なりに決意した、その延長に、今回の事件への私なりの対処もあります。

 憲法75条には「国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない」とあります。

 内閣総理大臣自身は実質的に刑事訴追されることがありません。

 逆にその特権的な立場を自覚し、不法行為などそもそも論外、そのように疑われるような振る舞いも避けねばなりません。

 ちなみに私自身ですら、何一つ問題がなくても、おかしな誤解を誘発しうるような事態があれば大きく問題を回避する原則を徹底しています。

 憲法によって刑事訴追を免れる、いわば憲政のブラックホールのような立場にある内閣総理大臣は、不法行為はもとより、それと疑念を持たれるような行動も、一切あってはなりません。

 團藤先生は残念ながら2012年6月25日、98歳で逝去されました。

 そのお見送りもお手伝いさせていただきながら、先生がお元気であればおっしゃられたであろう基本は、自分に可能である限り、襟を正しけじめをつけていくことを思い定めています。

 ここでは別論に具体的に詳細を記しませんが、私が長年関わってきた大きな刑事事件・刑事裁判に関わる問題についても、徹底してきたことは、長年の読者にはよくご存じのところと思います。

 今回の「さくら疑獄」、もし團藤先生がご覧になったら「問題外」とおっしゃったと思います。

「言語道断」などと強い口調で非難するというより、あまりのレベルの低さに「あり得ない」「問題外」と言われるのが目に浮かぶように思います。

 東宮参与として明仁「皇太子」一家の様々な相談に応じられ、英国留学から戻った浩宮が軽井沢の團藤別荘でステーキを焼くような親しい関係にあった團藤先生は、明仁天皇の生前譲位も念頭においておられました。

 また浩宮の即位に向けてのサポートにも力を尽くされました。

 その浩宮が皇太子から皇位を継承する式典に関連して、このような「さくら疑獄」が起きるとは、さすがの團藤先生も予想しておられなかったでしょう。

 第2次安倍内閣が発足するのは、團藤先生のご逝去から半年ほど後のことになります。

 皇位継承に伴う首相夫婦主催の晩餐会が、疑獄事件、利益供与でここまで汚されるなど、ただ単に「あり得ない」仕儀と言うべきでしょう。

さくら疑獄」が確定してしまった状況、政局がどのように動くかは見守るしかありませんが、「人の噂も75日」でうやむやにしてよいような問題でないことは、元特捜検事の郷原弁護士が明瞭に指摘している通りと思います。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  パンツをはいたサルの「チバニアン」

[関連記事]

シャンパンタワー状態だった佐倉洪水

グーグル量子コンピューターは何を達成したのか

2019年4月13日に催された「桜を見る会」(写真:つのだよしお/アフロ)