2019年12月1日、韓国の産業通商資源部は「11月輸出入動向(暫定値)」を発表した。
11月の輸出も前年同月比14.3%減となり、12か月連続で減少した。2019年の年間輸出額は3年ぶりのマイナス、それも10年ぶりで2ケタ減となる可能性が高まった。
11月の輸出額は441億ドルだった。
輸出がマイナスに転じたのは2018年12月で、11月の輸出減でちょうど1マイナスが続いたことになる。
マイナス幅は2019年2月に前年同月比11.3%だったが、その後5月まで3か月間は1桁だった。
ところが、6月に同13.8減となって以降はずっと2ケタ減が続いてしまった。
11月までの年間輸出は10.7%減
2019年1~11月の累計輸出額は4968億6000ドル。前年同期比でマイナス10.7%となった。12月の輸出がかなり反転しない限り、2009年以来10年ぶりに2桁減となる。
「半導体の不振と米中摩擦による世界的な貿易減少」
韓国産業通商資源部の発表資料には親切にも、「輸出上位10か国の輸出増減率」という一覧表が付いている。
中国、米国、ドイツ、日本など主要国の2018年10月~2019年9月までの前年同月比の増減率の表だ。
どの国・地域ともにこの間輸出がマイナスだった月が多いが、減少幅は韓国が突出して高い。
世界貿易が低迷したうえに、韓国は半導体への依存度が高いためにこういう結果になった。
韓国も輸出、さらに経済の牽引役は半導体だ。韓国の輸出の2割近くを占めるが、2018年秋口から「スーパー好況」から一気に調整局面に入った。
「切り札」の半導体を直撃
輸出額の減少にはまだ歯止めがかかっていないことが分かる。
前年同月比でみると、2019年5月マイナス30.5%、6月マイナス25.6%、7月マイナス28.1%、8月マイナス30.1%、9月マイナス31.5%、10月マイナス32.1%となったのに続き、11月もマイナス30.8%だった。
1~11月までの累計でも前年同期比26.5%減の866億5500万ドルだった。半導体が輸出不振の大きな原因だった。
ちなみに輸出上位10品目のうち、自動車と船舶を除く8品目の1~11月の累計輸出額がマイナスとなった。
自動車と船舶は2019年に好調だったわけではなく、以前から不振だったため2019年は、全同期比で5.9%増、4.2%増とわずかながら持ち直した。
半導体の影響が大きかったとはいえ、ほとんどすべての品目の輸出が不振だった。
では、仕向け先別にみるとどうだったのか?
輸出の4分の1を占める中国向けも不振
韓国の最大の輸出相手国は中国で、全体の25%以上を占める。
対中輸出も、2018年12月に前年同月比14%減になった以降、ずっとマイナスが続いている。
6月以降だけを見ても、6月マイナス24.1%、7月マイナス16.3%、8月マイナス21.3%、9月マイナス21.8%、10月16.9%で11月もマイナス12.2%だった。
「中国向け輸出は中間財が多い。通商摩擦で中国から米国向けなどの完成品輸出が減少すると韓国からの中間材輸入が減少する構造」(通商問題に詳しい大学教授)という。
米国やASEAN(東南アジア諸国連合)、EU向けなども前年比でマイナスが続いている。
日韓貿易は?
さて、では、日韓貿易はどうだったのか?
日本政府による韓国向け輸出規制強化とこれに対抗した韓国内での「日本製品不買運動」のあおりで日韓間の貿易にどれほど影響が出たのか?
韓国では、ビールや衣料品、乗用車など日本製品の販売に7月以降大きな影響が出た。ビールの対韓輸出が激減したなどの報道もある。
日韓貿易は、2019年初めから低迷していた。対日貿易は、ほとんどの月で前年同月比マイナスだった。輸出は、1月以降、ずっとマイナスだった。
7月以降、日本からの輸入は、7月マイナス8.4%、8月マイナス8.2%、9月マイナス8.6%、10月マイナス23.3%、11月マイナス18.5%となった。
マイナス幅が大きくなっている点からみて、不買運動の影響はあったとみられる。
日韓貿易、減少だが「突出」とは言えず
だが、11月の統計を見ると、中国からの輸入は前年同月比9%減、ASEANからはマイナス20.3%、EUからはマイナス14.1%、中東からはマイナス20.9%となっており、日本からの輸入だけが突出して減少しているとまでは言えない。
韓国側から見た対日貿易赤字額は11月に11億1200万ドルだった。
4月の23億5400万ドルに比べるとかなり減少したが、ここ数年10億~20億ドルで推移しており、「この水準」を維持した。
日韓政府間の対立が貿易に影響を与えたことは否定できないが、その程度は、「日韓貿易だけが突出して減少した」とまでは言えない。
輸出が低迷することは韓国経済全体にとって大きな問題だ。
高い輸出依存度
韓国貿易協会によると、2018年の名目GDP(国内総生産)に対する比率でみると韓国の「輸出依存度」は37.5%だ。輸出を含む「貿易依存度」となると68.8%となってしまう。
これがどのくらい高いかと言えば、日本の場合、輸出依存度は14.3%、貿易依存度は28.1%だ。韓国は2倍以上も依存度が高いのだ。
つまり、韓国経済は輸出に大きく依存し、その中では「半導体」と「中国向け」の比率が最も高い構造なのだ。
日本企業は1970年代以降の貿易摩擦の激化や、その後急速に進んだ円高への対応のため、急速に海外生産を拡大させた。輸出依存度はぐっと下がった。
韓国の大企業も、現地化や国内での生産コスト上昇に対応して海外シフトを加速しているが、まだまだ国内比重が高いのだ。
相次ぐ成長率下方修正
だから輸出が不振に陥ると経済全体に影響が出る。
韓国銀行(中央銀行)は2019年11月29日に、2019年のGDP成長率見通しを2.0%に引き下げた。
なんと引き下げは今年に入って4度目。年初の見通しは2.6%だった、下方修正を重ねる羽目になった。
民間の経済研究所などは1%台の成長を予想する例が多く、2019年の韓国経済は「減速」が鮮明になった年だった。
問題はこれからだ。
韓国銀行は2020年のGDP成長率を2.3%と予測した。「国内景気は現在底を通過中で来年半ばには改善するとみられる」という展望だ。
韓国産業通商資源部も「2019年の輸出が底で減少幅が少しずつ改善しており、2020年1~3月期にもプラスに転換する」との見通しを明らかにしてはいる。
ではその根拠は何か。
半導体市況の回復は?
「半導体、船舶、自動車、石油製品などで需給の改善がみられる」「米中貿易摩擦が緩和する可能性がある」――などだ。
韓国産業通商資源部は、「NAND型フラッシュメモリーは2019年10~12月期、DRAMは2020年4~6月期に供給過剰が解消する」などと説明してはいる。
ここでも注目の的は「半導体」だ。さて、どうなるか。
半導体については、「メモリーの在庫整理は進んでいる」という見方では業界関係者は一致している。
だが、輸出統計を見ても11月の時点ではまだマイナス幅は小さくなっているとは言えない。
反転する時期については、「予想以上に時間がかかっている」(半導体メーカー役員)という指摘も少なくない。
米中摩擦については先行き不透明だ。
輸出の不振について今の政府は、「半導体や通商問題」を挙げ、だから手の打ちようがあまりないという説明だ。
だからといって、もちろん、傍観するわけにはいかない。
2020年3月には「政治決戦」である4年に1度の総選挙(国会議員選挙)がある。野党は「経済不振」を最大の攻撃材料の1つにしようとしている。
「輸出」が政治の大きなカギを握っているのだ。
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