今ふたたびの、むぎ(猫)。今年2回目の取材ができる幸せは、ひとえに彼の人気のおかげだ。
持ち前の愛らしさや、時おり見せるシュールな行動に猫ファンはすっかり釘づけだし、3月に発表したメジャー1stアルバム『君に会いに』に注ぎ込まれたポップセンスと、ステージでのユーモラスなパフォーマンスで、猫ミュージシャンとしての評価もぐんぐん上昇。むぎちゃんはだからずっと時の人、じゃなくて時の猫であり続けている。
12月4日リリースのメジャー1st EP『ねっこほって e.p.』は、どーんと5曲入りで、音楽的な幅をさらに広げた意欲作。今や猫ミュージシャンとしての風格すらただようむぎちゃんに、本作についてたくさん話を聞いたのだけど、そこには猫ならではのプライドもしっかりと横たわっていた。カッコいいぞ、むぎちゃん!
取材・文 / 斉藤ユカ 撮影 / 森崎純子
見飽きないものを作りたいという気持ちが常にあります。かわいく見えるように意識してます!
ーー むぎちゃん、エンタテイナーであることには慣れましたか?
はい、すっかり慣れましたね。猫ミュージシャンとして音源を作るだけじゃなく、ベースで考えているのはライブなので、見飽きないものを作りたいという気持ちが常にあります。かわいく見えるように意識してます!
ーー 角度とか?
角度とか、ポーズとか、動きとか、やっぱりかわいく見えた方がいいなと思いますから。猫ですし。
ーー ときどきつれない態度を取っても許されますしね、猫だから。
そう、猫だから。猫だからというのは、むぎが得してるところです(笑)。
ーー アルバム『君に会いに』を引っさげてのツアーにもお邪魔しましたが、すごく楽しかった! 楽曲がステージでよりユーモラスに表現されるんですよね。
楽しんでもらえてよかった! ステージを見て、ああ楽しかったって思って帰ってもらうまでがむぎの仕事だと思っているんで、ふだんから真面目に面白いことを考えています。笑ってもらうのもうれしいな。なんだろう、微笑ましく見守ってもらうっていうのが近いかもしれません。
ーー むぎちゃんの視野の狭さの問題もあるんでしょうけど、仕掛けが全部表に出ているのも面白いです。ライブの小道具や猫のお友達もみんな見える(笑)。
そうですね。むぎのおしゃべりもそうですけど、けっこうぶっちゃけるタイプなんです(笑)。ステージ上でいろんなものが壊れたりしても落ち込まないし、“今コレを失敗しました!”って言っちゃう。それでみんなが楽しい気持ちになってくれるなら、それでいいなって。
ーー むぎちゃん、ときどきシュールだもんね。
そうそうそう、けっこうシュール。そこも含めてむぎだよって言いたいです。
間違いの音がひとつ入ると“あの猫ほんとに叩いてるんだ!!”とか、歌詞を間違えたら“あの猫ほんとに歌ってるんだね!?”とか、むぎがそこで生きてることを感じてもらえる
ーー でも何より、スーパー木琴プレイにみんな夢中ですよ。
ありがとうございます。木琴はハズしまくるときもあるんですよ。日によって調子が全然違うんです。でもね、こう言うとほかのミュージシャンの人たちに怒られそうだけど、間違いも含めてむぎのライブだなと思ってもらえたら。というのも、間違いの音がひとつ入ると“あの猫ほんとに叩いてるんだ!!”とか、歌詞を間違えたら“あの猫ほんとに歌ってるんだね!?”とか、むぎがそこで生きてることを感じてもらえるじゃないですか。それがむぎのライブなんです。
ーー なるほど、違うところから音が流れていると思ってる人、いそうですもんね。
そうそう、いると思うんですよ。だからハァハァもね、一生懸命ハァハァしてるんです(笑)。もう全部見せますよ、そもそも全裸ですし。
ーー 猫だからね。
うん、猫だから。
歴史を探る歌にしようと思いました。歴史を学ぶっていうことは、自分のルーツを知るっていうことでもあるじゃないですか
ーー さて、今回の1stEP『ねっこほって e.p.』ですが、忙しいなか制作を進めていたんですね。
8、9月で作りましたね。どんな曲を作ろうかなと思っていたところ、タイアップが決まりまして。『ねこねこ日本史』(NHK Eテレ)のエンディングテーマをむぎが作っていいと言われたら、それはうれしいことですからね。で、張り切って作ったのが表題曲の「ねっこほって」。それに付随してどんどん曲を作っていたら、このEPになったんです。
ーー どんな曲にしようと?
『ねこねこ日本史』は猫が歴史の登場人物になっていて、その猫たちが歴史を教えてくれるんですけど、猫だからたまに猫らしいことになってしまい、猫は動くものが好きである!とか、猫はすぐ飽きる!とか、猫の習性まで学べる番組なんです。だから、歴史を探る歌にしようと思いました。歴史を学ぶっていうことは、自分のルーツを知るっていうことでもあるじゃないですか。ルーツって、根っこのことですよね。その根っこを掘り返して、ルーツを探ろうという意味につなげました。あと、根っこは猫と音感が似てるのでピッタリだなって。
ーー “ここ掘れニャンニャン”というフレーズが印象的ですね。
『花咲か爺さん』って木に花を咲かせる話じゃないですか。『ねこねこ日本史』を観た子供たちや、もちろんむぎの歌を聴いてくれる大人の人たちまで、みんながいろんなことを学んで、自分の花を咲かせてくれたらいいなっていう想いを込めました。自分の根っこを掘って調べて、自分のことを好きになってほしいし、それで素敵な花が咲いたらいいねっていう、そういう歌なんです。
ーー むぎちゃんのメッセージソングですね。
そうですね、メッセージはありますね。
ーー レコーディングは基本、宅録なんですよね? 簡易スタジオみたいなものが自宅にあるんですか?
スタジオじゃなくて、カイヌシの家のただの部屋です。宅録は大変ですけど、だからこそ作れる音楽っていうのはありますから。小さいデジタルのMTRで音を録って、パソコンに読み込んで、そこで簡易ミックスまでしちゃいます。最終的なミックスとマスタリングは沖縄のお友達にやってもらっています。
でも今回、はじめてDJみそしるとMCごはんさんとコラボした曲があって、ボーカル録りのためにビクタースタジオをおさえてもらいました! 憧れのビクタースタジオ!楽しかったです。
おみそはん(DJみそしるとMCごはん)はいつも食べ物の歌をうたってるから、コラボするんだったらバウムクーヘンをテーマにしたいなって
ーー 3曲目に入っている「ミラクルバウムクーヘンアドベンチャー feat.DJみそしるとMCごはん」ですね。めちゃめちゃ楽しい曲!
そう、楽しい曲! バウムクーヘンへの愛を注ぎ込みました。むぎは天国から帰ってくるときに───ここはファンタジーだと思って聞いてくださいね、天使の輪が必要だったんですけど、それがバウムクーヘンだったんです。肉球を預けて、代わりにもらったんです。おみそはん(DJみそしるとMCごはん)はいつも食べ物の歌をうたってるから、コラボするんだったらバウムクーヘンをテーマにしたいなって。
ーー で、頭に乗っけて来たバウムクーヘンはその後どうしたの?
インディーズ時代のファーストアルバム『天国かもしれない』のジャケットには輪っかが乗っかっているんですけど、ケースを開けてCDを取り出すとその後がわかるようになっていました。見てもらえれば分かるんですが、かじっちゃった、食べちゃった(笑)。
ーー この曲のラップ、ぜひステージで聴きたい!
むぎも早くやりたいです。ぜひおみそはんたちとライブしたいですね。ラップの歌詞を自分で作るのははじめてだったんですけど、言葉遊びって面白いなぁと思いました。本当に早くステージで歌いたいです。
ーー 2曲目は「クリスマスに何します?」ですが、最初からクリスマスソングを作ろうと?
最初は考えてはいなかったんですけど、12月に出す作品だから、クリスマスソングがあってもいいなって。だけど、媚びたくはなかったので、飾らなくてもいいんだよねってことを歌おうと思いました。クリスマスはそれぞれに特別なものだから、何もしなくたっていいんだよねって。
一昨年ぐらいにクリスマスにライブをやったとき、マフラーを巻いたんですけど暑いなぁって思ってました(笑)
ーー むぎちゃんの思い出のクリスマスは?
天国に行く前のことはあんまり覚えてないですね。でも普段からカイヌシにかわいがってもらっていたから、クリスマスだからって何か特別なことがあったわけじゃなかったと思います。思い出というなら、一昨年ぐらいにクリスマスにライブをやったとき、マフラーを巻いたんですけど暑いなぁって思ってました(笑)。そう、カイヌシのお母さんが、むぎ用のマフラーを編んでくれたんです。赤いマフラーなんですけど、巻くと喜ぶだろうから、この冬も機会があったら巻こうかな。
ーー 個人的な興味なんですが、カイヌシのゆうさくちゃんは、天国に行く前のむぎちゃんにとってどんな飼い主さんだったんですか?
ムツゴロウさん的にワシャワシャするよりも、距離感を保ってくれるというか。むぎがそうしたい時にだけ膝に乗せてくれるとか、むぎの自由のままにしてくれるカイヌシでした。猫も気まぐれだから近づいたり離れたりするけど、その距離感が好きだって言ってましたね。むぎのことは見つめてくれているだけで、カイヌシからはあまり来ないけど、むぎから寄って行ったら必ずヨシヨシしてくれたんです。
ーー 猫にとって最高の飼い主さんですね! 反省します。私は寝ている猫のおなかに顔をうずめたいという衝動にあらがえないタイプなので。
うわぁ……そうなんですね(笑)。距離感、人と猫それぞれですね。
使い慣れたタオルの方が、互いに意思疎通ができていいですよね。そういうこだわりを表した曲です
ーー そして4曲目ですが、「My Favorite Towel」にある“ボサボサのバスタオル”を愛する気持ち、とても共感します!
わかってくれますか!別の方はフワフワがいいって言ってました。
ーー 綿のものはガッツリ干して、バリッと感が出ているのが好きです。
わかります、バリバリで吸収力すごいタオル!使い慣れたタオルの方が、互いに意思疎通ができていいですよね。そういうこだわりを表した曲です。
ーー 何気ない日常を切り取ったボサノバ、いいですね。
“ボサボサのバスタオル”の中にボサノバって言葉があるなと思って、それでボサノバにしたんですけどね。好きな物を好きって言えるのは大事ですから。「バウムクーヘンアドベンチャー〜」もそうですけど、好きなものは好き!って言いたいんです。みんなも好きなものには、そのぐらい真剣であってほしいなっていう気持ちもあって。僕はこれが好き、君は何が好き?っていう問いかけですね。
ーー 猫がバスタオルを語っていることも、なんだか面白いです。
むぎはね、天国に行く前からお風呂好きだったんですよ。
ーー えーっ!! ほんとに? 猫は水が嫌いなことで有名なのに。
お風呂場が遊び場でもあったし、お湯を張ってもらってそこに浸かってるのが好きだったんです。よく洗ってもらってました。ドライヤーも好きでした。
ーー それ、YouTubeのスターになれるやつ。
今の時代だったらそうかもしれないですね。むぎが天国に行く前はYouTubeはなかったので、デビューできませんでした。でも、今もお風呂好きですよ。
ーー ああ、むぎちゃん、時々真っ白になってますもんね。
時々真っ白になるし、時々くさくなります(笑)。
人間が地球を離れて木星を目指さなきゃいけないぐらい、地球の環境が壊れていくかもしれないよって警鐘を鳴らしてる曲でもあります。むぎのSFですね
ーー 5曲目「三億年後に会いましょう」は、なんて切なくてロマンチックな曲でしょう。
これは、たまというバンドの「さよなら人類」のアンサーソング的な曲。“今日人類が初めて木星に着いたよ”というたまの歌に対して、じゃあどういう理由で木星に行ったのかなっていうお話を作ったんです。あと、人間が地球を離れて木星を目指さなきゃいけないぐらい、地球の環境が壊れていくかもしれないよって警鐘を鳴らしてる曲でもあります。むぎのSFですね。
ーー たまは、猫かな。
本当だ、猫っぽい(笑)。なんか繋がりましたね。むぎはね、たまのメンバーだった石川浩司さんとセッションしたことがあるんですよ。リハーサル一切なしで、誰にでもパーカッションを合わせてくれる石川さん、本当にすごい人なんです。楽しかったですね。また機会があったら一緒にやってみたいです。
ーー 全5曲、ボリューミーなEPになりました。タイトルもかわいいし。
むぎにとっても大好きな作品になったので、いいタイトルをつけたいなって思いました。最初は仮りで“ここ掘れニャンニャン”になっていたんですけど、もっとリズミカルなタイトルがいいなと思って、同じく歌詞の中の“ねっこほって”を採用しました。あと、ネットスラングで猫のことネッコって言うじゃないですか。響きもいいし、かわいくっていいなって。
もっともっと好きになってもらって、楽しんでもらえるように、むぎの世界観を詰め込みたいと思います!
ーー 来年2月からは、このEPを引っさげての全国ツアー「むぎ(猫)Wonder Nyander Tour 2020〜そっちいってねっこほって〜」が始まります。
はい、2月22日のねこの日からスタートするという、猫だらけな感じで。 今年のはじめての全国ツアーで、むぎのことを好きになってくれた人もたくさんいたので、もっともっと好きになってもらって、楽しんでもらえるように、むぎの世界観を詰め込みたいと思います!
ーー 2019年は、むぎちゃんにとってどんな1年でしたか?
むぎにとっては特別な1年だったなと思います。一番はメジャーデビューしたこと。それにともなって全国ツアーもしたし、たくさんの人と出会えてすごく楽しかったです。2020年もワクワクがいっぱいです。今年は忙しかったけど、来年はもっともっと忙しくなりたいな。
ーー え、猫なのに?
うん、猫だけど(笑)。
むぎ(猫) 猫ならではのこだわりとプライドを詰め込んだ1st EP。愛らしさとシュールさが交錯する1枚について訊く。は、【es】エンタメステーションへ。
(エンタメステーション)
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