邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。
『貞子vs伽椰子』『不能犯』など、アクの強い世界観を描く白石晃士監督の最新作を観てきました。この連載で白石晃士監督作を観るのはなんと4回目!
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みんなの映画部 活動第58回[後編]
『地獄少女』
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子、オカモトレイジ(OKAMOTO’S)
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■劇中の無駄なセクハラセリフには意味があった
小出 ただ僕もね、レイジが言った白石監督の世界観が好きなファンと、それ以外の観客の反応の差は出るだろうなって明確に感じたところがひとつあって。
ご存じないという方に説明しておくと、白石シネマティックユニバースにおける最重要人物と言えるのが、『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズにおける映像制作会社のディレクター工藤 仁と、そのアシスタントディレクターの市川美穂のふたり。
で、今回の『地獄少女』にはフリーライターの工藤 仁(波岡一喜)と女子高生の市川美保(森 七菜)っていう同名の人物が出てくる。
そして、『コワすぎ!』という作品についてもうひとつ重要なのは、パラレルワールドを扱っていて、かつ、白石監督の複数の別作品ともリンクするという点。
つまり、「この登場人物は、別作品に登場したこの人物と同一人物」であるとか、「この登場人物は、別作品に登場したこの人物の別世界線を描いている」ということを想起させる作品作りをしてきているんですね。
で、工藤と市川のコンビは「工藤のパワハラやセクハラに耐える市川」って図式だったんですけど、『地獄少女』におけるふたりもそれを踏まえていたと想像できますよね。
でもそれを知らずに観たら、43歳設定のおっさんが15~6歳の女の子に「抱かせてくれるのか」とか平気で言い放つのって、めちゃキツい(笑)。知らない人からしたら「は!?」じゃないですか。
レイジ あのへんの台詞、よく通せたなと思いました。
小出 でしょ? 明らかにファンへのサービスシーンなんですよ。だって言わなくていいんだもん。ただ白石シネマティックユニバースを観てる我々からすると、別の世界線の工藤と市川の関係性がここにあることにグッときてしまう。
「そうかこの世界でも……」っていう。たぶん白石監督も、コアファンは裏側にある『コワすぎ!』の工藤と市川のふたりの姿を思い浮かべてくれると信じて、あえてやってるんですよ、きっと。
福岡 なるほど。
小出 あと『コワすぎ!』における工藤 仁って無茶苦茶なキャラクターなんだけど、実は家族に関するある悲しみを背負ってるんですね。今回も、工藤 仁の母親が地獄通信の依頼者で……という悲しみを背負っていると。
福岡 じゃあ『地獄少女』の世界と白石監督の世界が本当によく絡んでるわけか。
小出 そうそう。他にも、白石監督の映像世界によく出てくるものがたくさん出てくるので、ユニバースを意識してしまうんですけども、いちばん代表的なのが「うにょうにょ」ですよ。「霊体ミミズ」って言われてますけど、白石作品における「異界」の表現に頻出してるんです。
ちなみに、あのうにょうにょした虫のエフェクトって、白石監督が子供の頃にハリガネムシなんかを見て怖いと思ったことが原点なんだって。原作にも出てくる藁人形が、アニメでは紐をほどいたらそれで終わりだったんだけど、映画ではほどいたらバラバラになってうにょうにょになるって、異界の表現ですよね。
福岡 なってた(笑)。
小出 さらに、地獄に行くまでのゲート。ゲートそのもののデザインもそうだし、通過する際のエフェクトもそうだし、白石作品にたびたび見られる表現ですよね。と、相当濃厚に白石監督の作家性が出ているうえ、これまでの作品と世界観が隣接してることを想像させられるという。
レイジ やりたい放題だ。もはや『コワすぎ!』のスピンオフみたい。
小出 間違いなくコアな白石監督ファンは、ユニバースの一本として観るはずだなと。
■ヒロイン役の森 七菜は『天気の子』の主人公も
小出 あと面白かったのは、カリスマミュージシャンの魔鬼役をやってた藤田 富さん。『仮面ライターアマゾンズ』のアマゾンオメガをやってた役者さんで、水澤 悠っていう普段は清純な少年なんだけど、アマゾンの本能が騒ぐと好戦的になるっていう主人公。
思えば『カルト』(2013年)に出てきたNEO役の三浦涼介さんも仮面ライダー俳優なんですよ。『仮面ライダーオーズ』のアンクっていうキャラクターをやってた。白石監督は仮面ライダー俳優にああいう役をやらせがち(笑)。
レイジ 「NEO vs 魔鬼」観たいっすね。
小出 観たい! でもNEOと今回の魔鬼は、真逆の性質でしたね。スーパー霊能者のNEO様と、金持ちでカリスマ性はあるけど本物ではない魔鬼。真逆のキャラクターで、でも見た目は似てるみたいな。
レイジ それにしても魔鬼っていうネーミングセンス、ほんと天才ですよね。
福岡 あはは。
レイジ あのへんツッコミどころが多そうなんだけど、実は全部リアルなんですよね。客層とかV系の池袋のライブハウスにいかにも居そうだし。
──取材をベースにしたんじゃないかってくらい、独特の熱狂的なカルト感はよく出ていましたよね。
レイジ 出てました。あとヒロイン美保役の森 七菜さん、めちゃめちゃ演技が上手いのかそうじゃないのかわからなくてすげえ良かったです(笑)。
小出 『天気の子』の主人公の女の子の声優さんでもあるんだけど、今回はたまに台詞を噛んでる感じのときがあって、そのままOKテイクにしてる。
レイジ あれもめっちゃリアルっていうか、本当に思ったことを切羽詰まって言ったらこういう感じになるよな、とか。顔は宇多田ヒカルさんにそっくりですよね。
小出 僕もめっちゃ思った。宇多田ヒカルじゃん!って。
レイジ こんな年頃のときに「Automatic」でデビューしたんだ、ヤバいね! とか思って。
福岡 どういう見方してんの?(笑)
小出 あと美保の親友になる南條遥役の仁村紗和さんがすごい頑張っていてうれしかった。うち(Base Ball Bear)の「『それって、for誰?』part.1」のミュージックビデオで踊ってくれています。
──彼女の表情もぐらぐら揺れ動く感じで印象的でした。すごいかわいいときとクールで男っぽいときと。
小出 独特の魅力がある方ですよね。
レイジ あと玉城ティナさんも良かったです。
福岡 いいよね!
──『悪の華』に続いての快演にして怪演ですね。
レイジ 改めてルックスのポテンシャル高すぎるなと。なんでもできちゃうじゃん。
小出 顔ちっちゃくて背が高い。閻魔あいの実写化として、これ以上ないんじゃないかって気がした。すんごい似てんだよね。目の大きさとかさ。
福岡 そっくり。あと声も似てた。決め台詞の「いっぺん、死んでみる?」とか。
小出 アニメをすごい参考にしたらしいですよ。
──原作に対する目配せもちゃんとしているわけですね。今回の客席では高校生らしきカップルも観てたけど、楽しんだかな?
小出 楽しんだんじゃないですか。僕が高校生だったらめっちゃ楽しいよ。
レイジ このあと家で『コワすぎ!』観てね! って言いたい。
小出 たしかに。なんか良いよね。高校生のカップルがディズニーストアの上(渋谷HUMAXシネマ)でホラー映画観てるの。
レイジ 青春ですね。
TEXT BY 森 直人(映画評論家)
(M-ON! MUSIC)
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