人々が生活を変えてCO2排出を減らさなければ地球が滅びると説くアメリカ元副大統領のアル・ゴア氏。だが、当のゴア氏の豪邸が、米国の平均的な家庭の20倍もエネルギーを使うことをご存じだろうか。また、大邸宅を何件も持ち自家用ジェットを乗り回しながら、温暖化の脅威を訴えるハリウッドセレブがいる。その言葉に一体どれだけの説得力があるのか? まさに「偽善」と言うしかない“温暖化脅威派”著名人たちの言行不一致を、ジャーナリスト、マーク・モラノ氏の著書『「地球温暖化」の不都合な真実』(渡辺正訳、日本評論社)から一部抜粋・再編集してお届けしよう。(JBpress)

JBpressですべての写真や図表を見る

世界の終わりを説く大富豪

 温暖化脅威派は、破局的な状況を避けるため省エネに励もうなどと口にする。その当人が豪勢な暮らしをしているのは、なぜなのだろう?

 ハリウッドのセレブには、温暖化ホラー話が好きで、温暖化防止行動をしようと叫ぶ人が多い。国民に向かい、「自分を犠牲にしてでも地球を救おう」と熱弁をふるう。つましく暮らそうと言いながら、徒歩で移動する人はめったにいない。

 2007年に元副大統領アル・ゴアは、同志の活動家レオナルド・ディカプリオを伴って、第79回アカデミー賞オスカー)の授賞式に出た。2人が壇上へ向おうとする直前、スクリーンにはオスカー像とCO2削減のためと称する標語が映る。評論家チャールズクラウハマーがタイム誌に、傑作は「公共交通機関に乗ろう」だったと書いた。「月面着陸の時代から地下鉄など知らず、公共交通機関といえば座席が10以上のリムジンしか思い浮かばないハリウッドの富豪たちの秘密会合に、あの標語はふさわしいのか?」 ゴアやディカプリオが最後に市バスを使ったのは、いつだったのか?

 ゴアがオスカー賞を得た2006年の映画『不都合な真実』は、ラストシーンで「あなたは暮らしを変えますか?」と問いかける。実のところゴアは、テネシー州の豪邸が一般家庭の20倍もエネルギーを使うと報じられた際、同じ質問を受けた。2007年3月21日の上院公聴会でジェームズ・インホフ議員が、ゴアの莫大なCO2排出を咎め、「家庭省エネ宣言書」に署名するよう迫ったけれど、ゴアは署名を拒否。当時インホフは環境・公共事業委員会の常任委員だった。

 10年後も状況はほとんど変わっていない。2017年6月、ゴアはCNNの取材にこう弁解する。「自家用ジェットは手放しました。サウスウェスト航空を使う旅行のCO2排出は、排出量取引で相殺しています。いま私は、CO2排出ゼロに近い暮らしをしているのです」。

 だが『不都合な真実2』が出た2017年8月、デイリーコーラー紙によると、ゴアがテネシー州ナッシュビルに構える豪邸(全米3軒のうちひとつ)は平均的な家庭の21倍もエネルギーを使った。翌月は34倍に増えている。「温暖化過激派のゴアは年に220万円も電気代を使うが、環境ホラー話で大儲けしたから痛くもかゆくもない。2億円未満だった純資産が、2008年には30億円にも増えたから」。とどめの一撃は「庭の温水プールに使う電力だけで、一般家庭6軒分の年間使用料に等しい」。

 2017年のリッチモンドタイムズディスパッチ紙論説に、「脅威論広報担当ゴア」の問題点がまとめてある。「他人に省エネせよと説きながら、自分は莫大なエネルギーを使う。・・・たぶん温暖化は大問題でもないのだろう。少なくとも暮らしに影響はない。・・・世界の終わりを説く大富豪の発言は、とりわけ元政治家なら、眉に唾をつけて聞くようにしたい」。

空飛ぶセレブ

 ゴアの大親友であるレオナルド・ディカプリオも言行不一致のお手本だ。国連が「平和の使者」に選んだ彼は2013年、「私は環境のために世界中を飛び回る」と胸を張った。自分を冷静に見る目がないのだろう。デイリーメール紙がセレブ集団のCO2排出量を調べたところ、ディカプリオは2017年に「約8万8000マイルを飛び、14.8トンのCO2を出した」。

 そんなディカプリオが2015年のCOP21(パリ)で、行動を変えようと参加者に説く。「温暖化防止には、世界のみんなが生活や事業のやりかたを変え、社会全体を管理する必要があります。化石資源の呪縛を脱しないと、人類の繁栄と公正は保てないのです」

 2016年、ヨットの上や豪邸(複数)でしじゅう写真に収まるディカプリオは、ニューヨーク市で「環境関係の賞をもらうために自家用ジェットで8000マイルも飛び、ひとしきり批判を浴びる。そのときジェット機が吐いたCO2は、1万台のクルマが1日に吐く量だ。再工ネ(再生可能エネルギー)企業を経営するロバートラピアーが呆れ返る。「日ごろ自家用ジェットで飛びながら庶民にCO2削減を説くディカプリオは、言行不一致もいいところだ。・・・彼のような暮らしが化石資源の消費を増やすのに。化石資源の消費を減らしたいなら、何かを犠牲にするしかない」。

 ジョン・トラボルタはやや腰が低い。温暖化防止のためファンに「できることをしよう」と説きながら、自家用機を5機と自家用高速道路をもつ。だが言行不一致は自覚しているようで、こう告白した。「自家用ジェットで飛び回る私に、温暖化防止を語る資格は十分じゃないのかも」。

 1979~93年のテレビドラマ『ノッツ・ランディング』で名を売ったドナ・ミルズも2000年のアースデイ集会で偽善者ぶりを発揮した。「贅沢はやめましょう。米国は世界じゅうでも最凶の犯罪者です。幸福の根元はモノじゃなく、人間と環境なんですよ」。そのミルズは140坪の豪邸にボーイフレンドとお住まいだ。

 かのハリソン・フォードも、地球を收おうと叫ぶ。けれど日ごろの暮らしはそれに合わない。たとえば2010年のデイリーメール紙にこんな発言がある。「自家用機でチーズバーガーを食べに行くのはしょっちゅうです」。地球を救いたい人間のすることなのか? 2015年にも、「温暖化防止のために行動しないと、地球に人間が住めなくなる」などと言っている。

 元カリフォルニア州知事、共和党なのに環境活動家のアーノルド・シュワルツェネッガーは、私邸(ブレントウッド)~公邸(サクラメント)の自家用ジェット通勤を叩かれた。ロサンゼルスタイムズ紙がこう書く。「知事のジェットが一時間に吐くCO2は、普通車の1年分」。知事は「出した分は排出量取引で相殺している」と言うのだが、偽善にうんざりの同類もいる。たとえば環境活動家デニス・ヘイズがたしなめた。「他人に何か言うのなら、少しは襟を正さなきゃ」。

 身も心もタフなシュワルツェネッガーは、温暖化防止のため衣類乾燥機を使わないようすすめる。「誰でもできるよ。物干しで乾かせば、半年に300キロものCO2排出を削減できるって知ってた?」と彼は2009年、アースデイの知事挨拶で問いかけた。ただし公邸のベランダにはためく洗濯物を見た州民はいない。

 燃費の悪いハマーを乗り回しながらシュワルツェネッガーは、他人にあれこれと説教する。たとえば「タイヤの空気圧をいつも正常に保てば、燃料費が4%浮く。4%ならわずかだと思うだろうが、とんでもない。全国民が努めれば、国の石油消費が日に80万バレル(13万立方メートル)も減る。個人の力はそれほどに大きい。わかるだろ?」。

 2017年にセレブ連中は「24時間テレビ」でハリケーン被害の救済を訴える。むろんその機を逃さず、温暖化防止も世に訴えようとした。

 番組中で、極端な弱視のスティービー・ワンダーがこう言った。「温暖化を疑う人間は盲目か低能のどちらかでしょう」。歌手のビヨンセが引き取ってこう。「温暖化の悪影響は連日、世界じゅうに起きていますね」。彼女はメキシコの地震も温暖化のせいにした。ジャスティン・ビーバージョージ・クルーニー、シェール、レオナルド・ディカプリオハリケーン(ハービーとイルマ)の被災者に募金を訴える。英国のデイリーメール紙が同番組を「温暖化の講義で幕を開け、邸宅(複数)と高級車と自家用ジェットをもつセレブたちが募金を訴えた集会」と報じた。

尽きぬ偽善者

 俳優ロバート・レッドフォードが2011年にこう叫ぶ。「EPA(環境保護庁)がCO2を汚染物質として規制しないなら、国そのものが壊れかねない」。タイム誌が「環境ヒーロー」と呼んだレッドフォードはNPO「天然資源保護協議会」に属し、温暖化防止をライフワークと決め、風力や太陽光など再エネの普及にも励んできた。彼は温暖化防止行動を1960年代の公民権運動にたとえ、温暖化は現代の最重要課題だと訴える。

 レッドフォードは「化石資源は文字どおり地球を焼き上げる」と警告した。温暖化対策に乗り気でないオバマ大統領を批判し、原油パイプラインの建設にも反対した。だが私生活は、彼の言行不一致をまざまざと語る。

 映画制作者アン・マッケルヒニーとフェリム・マッカリーが、『偽善者ロバート・レッドフォード』で言行不一致を指弾した。レッドフォードは、「ユタ州にある私有地そばの『エコ集落』建設に反対しながら、2億円分の区画をこっそり売却していた」。また彼は、ユナイテッド航空のCMで「さぁ飛び立とう!」のナレーションを担当しながら、国民にはCO2排出を減らせと訴える。

 映画『タイタニック』や『アバター』で名高いハリウッドの監督ジェームズ・キャメロンも、声高に温暖化防止を叫ぶ。ある公開討論の席では、西部劇ガンマンを引き合いに、懐疑派をこう攻撃した。「懐疑派の阿呆を真昼の決闘に呼びつけ、撃ち殺してやりたい」。

 2010年にキャメロンの代理人が連絡をよこし、公開討論会をしたいから懐疑派を集めてくれと言う。日取りが決まり、マッケルヒニーと故アンドリュー・ブライトバートが同道を快諾した。

 コロラド州アスペンで予定された「真昼の決闘」への道中、キャメロンから討論会中止の連絡が入る。つまり彼は、言い出しっぺの討論会をドタキャンした。連絡が来たのは、乗り換え地のデンバー空港に下りたあと。代理人によると中止の理由は、「モラノは小物すぎる。キャメロンは自分と似た地位の人間と討論したい」。本心は地位ではなく、討論に負けるからではないか? そんな推察も含め私は一件をこう書いた。「たぶん仲間に『負ける。やめとけ』と言われた。猫を見たネズミの心境か」。つまりキャメロンは、ガンマンから臆病者に変身した。ただし討論を逃げたのはかまわない。途上国の願いなど顧みない偽善ぶりが許しがたい。

 2010年にキャメロンは女優シガニー・ウィーバーとブラジルに飛び、世界最大規模のダム建設に抗議した。当時のブラジル大統領ルイス・イナシオ・ルーラ・ダシルバは、労働者党の左派らしくもなく、途上国のエネルギー供給を邪魔するキャメロンに反発。「ダムは現在と将来のエネルギー供給に必須なのだ」。つまりキャメロンは、ブラジルに必須の電力を生むダムの建設をやめろと叫んだ。言い換えると、途上国の貧しい民の暮らしを向上させるなと騒いだ。

 だが大富豪キャメロンは、ユートピアふうの哲学がお好きらしい。2010年のロサンゼルスタイムズ紙に彼のこんな発言が載っている。「私たちは質素に暮らすべきだ」。純資産900億円といわれる彼は2014年にもこう説教。「生活や財産を見直さないと、世界は破滅への道をたどる。新製品が出たらすぐに買い替え、大量のプラスチック製品や電子機器をゴミにする。・・・そんな大量消費社会は、いずれ成り行かなくなる」。

 キャメロンは米国民に向けても生活を変えろと迫った。「数年のうちに、暮らしの隅々までと、人間の存在そのものを再考しなきゃいけない。最大の問題はエネルギーの多消費。温暖化に直結するからだ」。

 だがキャメロン自身は「暮らしの隅々まで」再考してなどいない。なにしろロサンゼルス近郊に200坪の大邸宅を、しかも隣り合わせで2軒も構えるほか、潜水艦までもっている。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  「温暖化対策」100兆円をドブに、日本はバカなのか?

[関連記事]

「温室効果ガスゼロ」は豊かな国のエゴイズムだ

大災害はまた来る、異常気象を織り込んだ政策形成を