2019年は国際周期表

2019年は、国連のユネスコが制定する国際周期表年でした。いやー、盛り上がりましたね。え? 知らない? 世界的なクロージングイベントが、12月5日になんと東京タワーのそばの東京プリンスホテルで行われるんですよ! え? 知らない??? いや、結構一部では盛り上がっていたんですよ。最後の最後ですが、ちょいとお話しておきますねー。

国際連合は、様々なキャンペーンのために、国際年を宣言しています。最初の国際年は1959年の国際難民年、1968年は国際人権年でした。国連らしい仕事ですな。1979年の国際児童年と1985年の国際青年年は、それぞれゴダイゴ佐野元春による協賛曲をNHKが「みんなのうた」や番組間スポットで連日放送するなどして日本でもかなり話題になりました。

その後もほぼ毎年のように国際年は定められ、それを契機に音楽だけじゃなく、イベントが行われたり、施設の整備が行われたり、いろいろでございます。サイエンス関係でも1992年に国際宇宙年、2005年に世界物理年、2009年に世界天文年、2011年に世界化学年、2014年に世界結晶年、2015年に光および光技術の国際年ときまして、今年2019年は先住民言語の国際年、節度の国際年、そして元素周期表の国際年(通称、国際周期表年)なのでございます。

もちろん、出し抜けに国際年が決められるわけじゃなく、2005年の世界物理年は、アインシュタインの光電効果(ノーベル賞受賞)、ブラウン運動の研究、そして相対性理論の3本の論文の発表により現代物理学の幕開けから100年を、2009年の世界天文年はガリレオが天体望遠鏡を発明して400年を記念したのですね。

そして、2019年の国際周期表年はメンデレーエフが周期表を発表して150年を記念して…おい、なんか地味じゃないかい?…定められたのでございますな。
周期表の発表以前に発見されていた元素は57種類

ここで元素の周期表でございます。

こんなやつですな。

周期表はperiodic table、かつては周期律表と表記されることもよくありましたが(化学者の坂根先生の調査論考が参考になります)、周期表で正しいです。

水素ヘリウムなどの元素を、原子量の小さい順にならべ、化学的性質の似たものを集めると、元素18個ごとに周期的に似たものが現れるというものでございます。

原子番号18番のアルゴンと18を足した38番クリプトン、54番のキセノンはいずれもあとに「ランプ」をつければよいように不活性ガスをつくるものとしてよく使われます。29の銅、47の銀、79の金が縦に並んでいるのは見事ですな。メンデレーエフは学校で教えるために元素の性質を整理しているうちに、これに思い至ったのだそうでございます。ここに、すいへーりーべと覚える文化の芽が誕生したのでございますな(微妙)。

ただ、周期表は「覚えるのに便利」なだけではなく、当時未発見だった元素の性質をいいあて、そもそもなぜそのように周期的な似た元素があるのか? という元素の本質に迫る手がかりを与えてくれたのですな。いうならば、元素ワールドの地図となったわけです。それが、その後の元素に関する科学的発見をアシストしたのは言うまでもありません。

ちなみに150年前の周期表の発表以前に発見されていたのは57元素、現在は倍以上の118元素が発見されています。ちなみに周期表発表(1869年)の1年前に2番のヘリウムが発見されています。

その周期表以後の発見のものには、9番フッ素、10番ネオン、18番アルゴン、32番ゲルマニウム、54番キセノンなどがあり、よくまあそんな抜け抜けで周期表を考えられたものだと感心します。そして、その抜けてる中で、個人的に萌え元素1936年に発見された43番のテクネチウムでございます。
幻となったニッポニウム

テクネチウムは、43番と25番のマンガンのすぐ下(ちなみに横の42番はモリブテン)という、まあなんか簡単に見つかりそうなところにあって、見つからなかった元素です。いや、実はいったんは、見つかったという発表がなされたんですな。1908年に日本の東北大学の小川正孝は英国のラムジー(1904年ノーベル化学賞受賞)の弟子として研究した成果をふくらませ、モリブテナイトという鉱石から43番ニッポニウムの発見を発表するのですな。まさに空欄を埋めたのでございます。ただ、これは後に間違いとわかります。実は小川さんは、もう18個あとの75番を見つけていたのですが、小川さんは43番で発表しちゃったんですね。で、間違いだとわかります。75番レニウムは1925年にドイツのノダックらが発見し確定しています。

43番が見つからなかったのは当たり前で、地球上の天然にはほとんど存在しないのです。20世紀初頭の技術では見つけられなくて当然なんですな。1936年にアメリカのセグレが42番のモリブデンに加速器で重陽子のビームをぶち当ててもらったものを分析したところ、43番の元素が合成できたことを確認して発見しています。技術的に発見された人工の元素だったので、テクノロジーの名前をとってテクネチウムというのでございます。

ちなみにその後、赤色巨星の恒星のスペクトルを分析すると、テクネチウムがあることがわかり、大量のテクネチウムがある恒星も発見され、恒星内での元素合成の証拠とされました。また、地球上のウラン鉱石で核分裂の生成物として微量にできることがわかっています。全てのテクネチウムは放射性元素ですが一番半減期が長いのが420万年なので、人工的に作れば粉とかにすることも可能です。
元素周期表を無料でダウンロード

さて、ということで周期表は元素ワールドの地図として、日々、水兵リーベ、僕の船を漕いでいくわけですが(微妙にちがう)。いまではの理科の教科書の見返しにあるだけでなく、いろいろな展開がありますね。あ、ちなみにおなじみの形式の周期表はメンデレーエフオリジナルではなく、1905年にスイスアルフレート・ヴェルナーが改良したものです。彼は分子結合の研究で1913年にノーベル化学賞を受賞していますが、あまり知られていませんよねー。

まずは、周期表スターです。国がやったキャンペーンとしては異例にうまくいった、科学技術週間の「一家に1枚ポスター」の周期表スターは、こまめに改訂されてなんと第11版までいっています。ダウンロードは無料でできますし、博物館などで廉価で販売もされています。A1のポスター560円(税別)はかなりやすいですな。アマゾンヤフーで扱っているようですし、クリアフォルダーの展開もあるようです。

周期表グッズとしては、京都大学の前野先生考案のエレメンタッチが有名ですな。これは周期を円にしようということで、円筒状の周期表です。まあ、みてくださいませ。ダウンロードして自分でつくれるようになっています。京都大学の生協でも買えるので、京都のかわったお土産としてもよいですね。あ、生協だれでも入れます。あと通販もありますよ。

周期表Tシャツやトートバックに展開しているのが、理科ハウスですね。神奈川の逗子にある個人で運営する小さな科学館です。ここのグッズは他の科学館でも入手できることがあります。

Tシャツといえば、世界の歌姫テイラー・スウィフト(日本でもよくCMで使われてますよ)は、2009年You Belong With Meのミュージックビデオでだっさい女の子の扮装ででてくる(そういう女の子の歌なので)のですが、そこで周期表Tシャツを着ています(2分40秒くらい)。同じ型のTシャツ売ってるよというお店もございますので、Swiftyなみなさんは、探してみてくださいませ。まあ、とっくにご存じですかね。

チャート式参考書の数研出版は、マグカップを展開しています。世界一美しい数式のオイラーの公式のもあるな。ええなー。

他にもマグネットとかキーホルダーとかメモ帳とかおよそ考えられる限りのグッズになっている周期表。物理や化学は苦手でも、なんとなく憎めない周期表。物理年とか化学年だと、俺関係ねーな向きも、周期表ならOKなの、かしらね
メンデレーエフ博物館に行ってみよう

さて、おまけのひとつ。ちょっとだけ周期表を見いだしたドミトリ・イヴァーノヴィチ・メンデレーエフ(1834年-1907年)さんに興味がわいたら、ロシアに行ってみたくなりますよね。で、ロシアのどこにいくべきかといえば、サンクト・ペテルブルグです。モスクワフィンランドのヘルシンキの間ですが、直行便はないので、ヘルシンキかモスクワトランジットでござんすな。

ロシアまれのメンデレーエフは、16歳の時にサンクト・ペテルブルグに移住し、師範学校を卒業して地方の中等学校の教員になるも22歳の時に修士論文のためにサンクト・ペテルブルグに戻り、その後ドイツで研究しますが、27歳でサンクト・ペテルブルグに戻って、化学の教授になり、1867年には応用化学だけでなく基礎化学の教育をすることになります。これが周期表を生むきっかけになったのですな。これが高く評価され、現在に至るわけです。ただノーベル化学賞は受賞できませんでした。101番元素は彼にちなんでメンデレビウムと名付けられています。

ということで、サンクト・ペテルブルグにはメンデレーエフゆかりの場所がいくつかございます。東京理科大学の榎本先生が訪問記をあげてはります。周期表のでっかいのがあったり、いろいろ楽しそうでございます。まあ、大きな町なのロシアを楽しんだらよいかなと思いますね。

ところで、ここにいくならまずは、プーチン大統領や文学者ツルゲーネフ、物理学者のジョージ・ガモフも卒業し、パブロフの犬パブロフさんが教えたという伝統校サンクトペテルブルグ大学のメンデレーエフ博物館なんですが、メンデレーエフが住んでいたアパートを改修し、メンデレーエフの研究室が再現されているそうです。おおい、いいですな。が、榎本先生いわく

サンクトペテルブルグ大学の構内にあり、非常にわかりにくいです。」

おい。非常にわかりにくいって…。ええと、トリップアドバイザー、あと、VISITペテルスブルグでわかりますですかね。

いや、行ったことないのでちと無責任かな。ヨーロッパ物理学会の最新の「歴史的な場所」に指定されたので、そうそうなくなることはないと思いますが。

治安とか、ロシア語全然わからなんとか、ちょっと不安なところはございますが、しかしなんとも魅力的なんですよねー。うーむ。
2024年は国際ラクダ

ところで、国連の国際年の表では2024年は「国際ラクダ年」になっております。

お、おうラクダ年ですか。

制定に関係する書類を読むと、まあラクダって人類、特に厳しい環境で暮らす人々にとって、非常に大切な存在ということがわかります。サイエンスな部分だけ見ると、ラクダ類は4500万年前にアメリカ! で登場し、ラクダの他に、リャマアルパカなどが仲間なんだそうでございます。

日本ではほぼ動物園と、あとはセーターの材料のイメージしかない訳ですが、確かに国際年で学び触れる機会があると、世界の見方が変わりそうですな。国際年、やはり大切ですし、おもしろいですな。

著者プロフィール
東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。
(東明六郎)

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