日本大学芸術学部映画学科の学生たちが主催する映画祭「スポーツの光と影―日大生、映画でスポーツを考える」が、12月13日(金)~19日(木)の一週間にわたり、東京・渋谷の映画館ユーロスペースで開催される。

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上映されるのは、「花形選手」「競泳選手ジャン・タリス」「リトルファイター 少女たちの光と影」「勇者たちの休息」「あなた買います」「長距離ランナーの孤独」「おれについてこい!」「セックスチェック 第二の性」「スパルタ教育 くたばれ親父」「スパルタの海」「ピンポン」「オフサイドガールズ」「ひゃくはち」「オリ・マキの人生で最も幸せな日」「疑惑のチャンピオン」「ザ・ビッグハウス」「破天荒ボクサー」の17作品。「オリ・マキの―」は、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の作品賞を受賞、2020年1月17日(金)に公開される新作だ

日大映画学科映像表現・理論コースの古賀太教授のゼミでは、映画ビジネスを学ぶ一環として映画祭開催をゼミ生に課しており、学生はテーマ設定・企画から作品調達、交渉、チラシ作り、PRまで、一連の運営を手掛ける。

過去の映画祭では、「女性映画」「マイノリティ」「映画と天皇」「朝鮮半島と私たち」といった社会性を帯びたテーマを設定してきたが、9回目となる今回も問題意識に富むテーマを持ってきた。

スポーツの光と影」というタイトルには、東京オリンピックを来年に控える中、日大アメフト部のタックル問題をはじめ、スポーツ界で頻発する指導者の傲慢、パワハラ、選手自身の不祥事、それらが見て見ぬふりをされる現実が視野に置かれている。

そして、大学サイドの支援があるとはいえ、この映画祭は一つの興行として開催される。動員を重視すれば、作品調達にも苦労があり、映画祭実現には困難も付きまとっているに違いない。そこで、ゼミを担当する古賀教授と、映画祭代表者の佐々木尭(ささき・たかし)さん、パブリシティ・文章統括担当の菅原光梨(すがわら・ひかり)さん、パブリシティ担当の大浜衣(おおはま・きぬ)さんに話を聞いた。(以下敬称略)

――まず、学生が主催する映画祭の意義と、企画の進め方を教えてください。

古賀:学生にとっては、映画祭を企画して実現することが単位になるということです。毎年15人前後のゼミ生がいるのですが、学生一人一人が企画書を作成し、話し合って絞り込んでテーマを6月くらいに決定します。その企画を煮詰めて、ユーロスペースの支配人にプレゼンをして、承諾を得る。上映の交渉を含めて夏の間に作品を決定して、チラシが出来上がるのが9月。半年以上をかけてじっくりと取り組みます。

ユーロスペースという映画館を舞台に、興行という形で企画するので、映画館にとっては、観客が入らないと困るわけです。通常の興行と同等の動員ができる企画でないと、一週間も使わせてはくれませんからね。

――学生のアイデアから、どのようにテーマを絞り込んで行くのですか?

古賀:基本的には多数決です。1、2週間に一度集まって、僕の意見も含めて、徐々に候補を減らしていく。プレゼンの時は2つに絞りましたかね。

佐々木:16人全員が企画書を作成して、最後に残ったのが「移民問題」と「スポーツ」でした。最終的には、日大のタックル問題もある中で、自分たちの声を伝えたいという思いから「スポーツ」をテーマにすることになりました。

――その企画者が佐々木さん?

佐々木はい。私は小中高と柔道をやっていて、父の転勤の影響もあって多くの指導者と巡り合ったのですが、体罰などの報道に接するたびに、指導者と生徒はもっと良い関係になれるはずなのにと思っていました。何かできることは無いかとの思いから「スポーツの光と影」という企画を発案しました。

――菅原さん、大浜さんはどんな提案を?

大浜:私は「ジャーナリズム」というテーマで出しました。同じテーマで企画した人がもう一人いましたが、「ジャーナリズムと映画」というテーマは間口が広すぎたのかもしれません。今回上映する「セックスチェック 第二の性」や「ザ・ビッグハウス」のような目玉作品を見つけられなくて敗れた感じです。

菅原:私は「冤罪」「裁判」をテーマにしました。わりと最後の方まで残りましたが、このテーマは「ユーロスペースがやりそう」ということもあって選ばれませんでした。

――ゼミ内でのプレゼン戦はどのように?

佐々木:設定したテーマの強さ、興行的なメリットを説明しますが、最終的には集めた作品のラインアップが重要だった気がします。

――興行性も問われるでしょうか?

佐々木メンバーの中には若い人に見てもらいたいと意識した人もいます。映画離れが叫ばれる中で、若者の動員につながるテーマとして、「スポーツ」をテーマに選んだところはあるかもしれません。

大浜:「ピンポン」なら入るんじゃないかとか(笑)

菅原:私が企画した裁判ものの映画祭だと、やっぱり若い人は足を運ばないのではないか。シネフィル、ご年配の方向きになると予想されたので、スポーツだと少しは入るかなという期待もありました。

佐々木オリンピックが開催されることは少し意識しました。国立映画アーカイブオリンピック記録映画特集をやるんですけど、進めるうちに、それに対抗した企画にしようという気持ちも生まれて。

――企画書に上映作品案を示したということですが、佐々木さんはどんな映画を選定していたのですか?

佐々木:いちばんは「マイフェニックス」(1989年・東宝系)という、日大のアメフトに関係する作品を上映したかったのですが、東宝に尋ねても、西河克己映画記念館に問い合わせても、素材が無いと言われて。それで上映をあきらめました。アメフト作品は何かを上映しようということで「ザ・ビッグハウス」の上映が決まりました。

古賀:「マイフェニックス」は、日本大学創立100周年記念の映画ですが、プリントがどこにも無い。大学が隠してるんじゃないかと思ったけど(笑)、結局見つからなかったですね。

――テーマが決定してからの動きで苦労は?

佐々木:上映にもっていくまで、学生が一人一本ずつ担当して、交渉を進めます。上映できる素材探しから、映画会社との交渉まで。自分は「破天荒ボクサー」が担当でしたが、途中で「ザ・ビッグハウス」をやろうと決まって自分の担当が2作品になり、代表として全体を見ながら進めるのがとても大変でした。

菅原:私の担当は「長距離ランナーの孤独」。まず、フィルム日本国内のどこにあるかインターネットを使い、映画学科の講師の方に尋ねて情報を探りました。結果、関西の方にあることが分かり、フィルムをお借りすることはできそうだったのですが、上映の権利が切れていた。権利のありかを調べたら、イギリスの映画会社が持っていることが分かり、英語で交渉することになり、それが大変でした。金額交渉も行い、最初からすると随分安くしてもらえたと思います。

古賀:権利元に連絡したら、無料で上映していいですよと言っていただいた作品もありました。

佐々木黒澤明監督の「姿三四郎」も上演案に出てたんですけど、黒澤作品は特集上映でないと、許諾してくれないらしんです。それを知って、若い人たちを映画館から遠ざける理由がそこにあるのかもしれないって思いました(笑)

大浜:私は、初めランス・アームストロングというドーピング問題を起こした自転車選手のドキュメンタリー映画の調達を進めていたんですが、それができなくなり、同じアームストロングを題材にした「疑惑のチャンピオン」に変わりました。変わったことで、スケジュールがタイトだったのは苦労したことですね。

佐々木:上映用の素材がなくて。劇場公開されていない作品だったけど、素材はあるかなと思って、交渉したんですけど、なかったんです。

古賀:今はデジタル化してきているけど、上映用のプリントがあるのか、上映の権利はどこにあるのか、そこが大変ですよね。「花形選手」は、松竹には16ミリがあるけど、状態が良くないから貸し出せないと言われて。国立映画アーカイブは36ミリがあったけれど、チェックをしてみたらけっこう痛んでいた。一回だけの上映なら貸しますと言われて、どうしよう?となったよね。

――そういった映画上映の裏側を学べるのは、貴重なことですよね。

菅原:映画を上映することが、こんなに大変なんだということは学びました。

大浜:それを学生のうちに体験できるのは、このゼミならではかなと。なかなか体験できないことですよね。

――それでは、特にパブリシティ担当の2人から、映画祭の押しを教えていただけますか?

菅原:いちばんは「オリ・マキの人生で最も幸せな日」でしょうか。第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門グランプリを受賞した作品で、来年1月に公開される映画です。そんな作品をラインアップできました。

大浜:まだ公開されていない作品をプレミア上映できるのは、この映画祭企画でもこれまでなかったことです。

菅原:メンバーに、この映画を宣伝する会社にインターンに行っている学生がいたんです。その人から「こういう映画をこれからやる」と聞いて、「それスポーツ映画!」とアタックしてみたら、上映できることになったんです。

大浜:菅原が担当した「長距離ランナーの孤独」は、他で見られる機会がないんじゃないかと思います。

菅原:映画館では、2013年に銀座エルメスのプライベートシネマで上映があったらしいです。実は、日本国内のあるところに保存されていたんですが、貴重な上映といえば「長距離ランナーの孤独」ですね。

佐々木:自分が「長距離ランナーの孤独」を以前に見ていて、この作品はどうしても上映したくて、菅原に絶対交渉に成功してきてって圧をかけて(笑)

――自分で交渉するのじゃなく?(笑)

佐々木:自分は「破天荒ボクサー」を担当していたので・・・。「破天荒ボクサー」が、7月にある映画館で上映された時に、そこに武田倫和監督がいらっしゃっていて、ロビーにいた武田監督に直接交渉したら承諾していただいて。その日のうちに皆に一斉メールしました。

――古い邦画もいくつかありますね。

佐々木:「スパルタ教育 くたばれ親父」の上映も貴重だと思います。分冊百科の石原裕次郎コレクションでしか見られないですし、ゲストに村川透監督にも来ていただくので、注目してほしいですね。

菅原:選んだのは佐々木ですが、学校の図書館にキネマ旬報が、復刻版も含めて1920年代のものから置いてあるんですよ。それを放課後残って、ずーっとスポーツ映画を探して、そうやって見つけたんですよね。作品を見てみたら、面白かったです。

菅原:テーマが「スポーツの光と影」なので、影の映画ばっかりだとどうかなと思うので、光の部分でいうと「オリ・マキの人生で最も幸せな日」もそうだし、「ピンポン」も明るい作品。「花形選手」もほのぼのとした、スポーツモダンだった時代に作られた作品。光の部分を描いた映画、影の部分を描いた映画、バランスよく選んでいると思います。

――村川透監督のほか、連日ゲストの方も登場されます。そのお話もお願いします。

大浜:「疑惑のチャンピオン」の回に出演する栗村修さんは、自転車ロードレースの元プロ選手で、解説者としてもとても有名な方です。ツイッターで映画祭にお招きしますと投稿したら、自転車ファンの方からスゴイ反響がありました。映画ファンだけじゃなく、スポーツファンをも巻き込めるという点で、ご出演していただけてよかったです。

佐々木:栗村さんにトークのご出演をお願いしたときに、「自転車競技の映画はほとんど見てるから全然大丈夫だよ」とおっしゃっていただいて。お忙しいのにすすんで「打合せしようよ」と言ってくださる優しい方でした。トークの内容ついては「当日のお楽しみ」とのことですが。

大浜:ランス・アームストロングにもいろいろと言及されているので、突っ込んだ話が聞けると思います。

――「オリ・マキ―」にはボクシング好きで知られるワタナベイビーさんの名前が。

佐々木:「オリ・マキ―」は、トークショー必須ということになっていたのですが、なかなかゲストが決まらなかったんです。そんな中で、映画コースの卒業生である先輩がワタナベイビーさんのマネジャーを務めていて、その人が先生のところにたまたまいらしたときに「ウチ使う?」って言ってくれて。

――チラシにコメントをいただいている方も錚々(そうそう)たる顔ぶれですね。

佐々木:増田明美さん、前川喜平さん、内田樹さん。前川さんへの連絡を担当しましたが、すごい緊張して、前川さんの本をひたすら読んで交渉に臨みました。

――お3人は足を運んでくれますかね?

菅原:招待券は送ったけど、お忙しいでしょうから。もし来ていただけると本当にうれしいですね。(ザテレビジョン

映画祭「スポーツの光と影―日大生、映画でスポーツを考える」