阪本順治監督の映画『一度も撃ってません』が、4月に東京・日比谷のTOHOシネマズシャンテほか全国で公開される。

同作の主人公は、昼はハードボイルド気取りだが頼りない小説家、夜は「一度も人を撃ったことがない」伝説の殺し屋サイレントキラーという2つの顔を持つ74歳の市川進。御前零児というペンネームを持つ市川が学生時代からの旧友・石田和行から依頼を請け負うことで物語が動き出す。

原稿が全く採用されない時代遅れの作家・市川役を演じるのは、2002年の『黄昏流星群 星のレストラン』以来、約18年ぶりの映画主演となる石橋蓮司。夫の夜の顔を知らずまっすぐに生きてきた市川の妻・弥生役に大楠道代、石田和行役に岸部一徳、弥生に市川の浮気相手と疑われる元ミュージカル女優の玉淀ひかる役に桃井かおりがキャスティングされている。脚本は丸山昇一が担当。

■石橋蓮司のコメント
この作品は、撮影スケジュールをとにかくこなす、という事だけでなく、昔僕たちが若い時代に作っていた映画のように、アイデアを出し合ってやれた現場でした。夢を諦めながらも必死にしがみついていく我々世代の大人達の話です。
言ってみれば、“昭和の時代の挽歌”というのでしょうか。
ハードボイルドな作品ではあるのですが、あまりシリアス過ぎると共感を呼ばないので、「あくまで、これは喜劇なのだ」という阪本監督の姿勢には賛成でした。真面目にやればやるほど、ある意味喜劇になるかもしれない、はたまたリアリティとして受けとる人もいるでしょう。共感してくれる人がいてくれたら嬉しいですね。
ハードボイルド映画ですから、撮影中、もっとかっこよく歩きたいな、なんて思うんですが、年なんですね、まっすぐ歩こうとするけど余計によれちゃったりして。笑
映画の基礎を作ってきた70年代の厳しく激しい昭和の映画作りの現場や、80~90年代も経験してきましたが、逆に一番のロマンを作ってきた時代だったな、と感じています。この映画は、お利口さんに生きる事ができず不器用で、でも心情的には熱いものがあって、時代に合わせて生きていく事ができない人間たちの物語です。それが昭和の人間の良さであり、“悪さ”とも思う。
そんな作品になってくれればと思っています。 是非面白がって見て頂けたらと思います。

■阪本順治監督のコメント
これは、たとえ、ひとところにいようとも、流れ者たちのものがたり。排気ガスや煤煙や紫煙を肺いっぱいにすい込んできた世代が、せっせと音楽に、映画に、演劇に、涯は政治にからだを預け、そのなかで栄養を摂り、生きてきた。それがいま、「なんですか、この慈悲心のない、みせかけだけの時代は」と、不愉快きわまりない。が、それをぐっとのみこんで、「まあ、遊ぼじゃないか」と集まったものどうし、戯れ、じぶんたちのすきな世界をいつまでも求めて、ひとびとから距離を置き、いや、距離を置かれ、忘れ去られるのは、それはそれでさみしいなと、嘆いたりもするが、それよりずっと大切なじかんがあると、朝から晩までうろたえることをやめない、この作品は、そんな輩たちの、哀愁ただよう活劇&ど喜劇で‥‥あ、そういえば、どこかの小説家が、どこかにこんな言葉を残していたらしい。「なにか言いたいやつは、みんなどこかおかしい」。
どうか、日頃の鬱憤をありったけ持ち込んで、私たちの、架空に遊ぶ無邪気なさまを観ていただければ、きっと心は晴れやかに!

『一度も撃ってません』 ©2019「一度も撃ってません」フィルムパートナーズ