三鷹の人気店『鶏こく中華すず喜』が、満を持して二毛作店を始動!
爆発するオリジナリティ

 以前、この『食楽web』でも紹介させていただいた、三鷹の『すず喜』。

『麺屋とらのこ(閉店)』『麺酒やまの』など、数々の実力店を手掛けてきた力量の確かさに加え、その親しみやすい人柄から、ラーメン界のゴッドファーザーと称される鈴木店主。そんな店主が、自らの名を冠した店舗が『すず喜』だが、同氏が、空いていた夜の時間帯を活用し、2019年11月18日、全く新しい1杯を提供する二毛作店を始動させた。それが、今回ご紹介する『スタミナ満点ラーメンすず鬼』だ。

「スタ満ソバ」850円。写真は、無料トッピングニンニク、背脂入り
「スタ満ソバ」850円。写真は、無料トッピングニンニク、背脂入り

 同店が手掛ける麺メニューは、「スタ満ソバ」と、それに辛みを加えた「辛いスタ満ソバ」の2種類。基本メニューは「スタ満ソバ」だ。

「『スタミナ満点ラーメン』を略して『スタ満ソバ』と名付けました。どうですか? この商品名、結構、気に入っているんですよ」と笑う。確かに、全国各地を見渡してみれば、「満にら (『満州ニララーメン(※1)』の略称)」、「ベトコンラーメン(『ベストコンディションラーメン(※2)』の略称)」など、ネーミングが絶妙な商品が存在する。「スタ満ソバ」も、それらに負けずとも劣らないキャッチーな商品名だ。一度耳にすれば、記憶に焼き付いて離れない。

「スタ満ソバ」のビジュアルをひと目見て直感したのは「これは、千葉県の秘境系地ラーメン『アリランラーメン(※3)』と『二郎系』のハイブリッドではないか」ということ。

 スープをひと口啜れば、ガツンと濃密な醤油ダレの旨みが口内の隅々にまで拡散し、その後、艶やかなニンニク油の香味が、鼻腔を心地良く刺激する。聞けば「『アリラン』『二郎系』に加え、千葉県のご当地麺『竹岡式ラーメン(※4)』もオマージュしています」とのこと。豚の重厚なコクが旨みの中央部にドカンと鎮座する構成は、確かに「竹岡式」の面影を感じさせるものだ。

 このスープに合わせる麺は、自家製。福島県のご当地麺「白河ラーメン」の麺に用いる小麦と「二郎系」ラーメンご用達の小麦「オーション」をブレンドし、硬めに茹で上げた極太麺は「啜り応え良し・噛み心地良し・風味良し」の三拍子が揃った逸品。

 このスープ&麺に、トッピングとして、甘辛い醤油ダレがタップリ沁み込んだ「豚バラ肉」、頬が落ちるような甘みが印象深い「背脂」、噛むとジューシーなエキスが弾け飛ぶ「ざく切り玉ネギ」等のインパクトアイテムが「これでもか!」と言わんばかりに盛り付けられる。

「一流のラーメン職人が、『アリラン』『二郎』『竹岡式』のチャームポイントを組み合わせると、これほどまでに中毒性の高い1杯が出来るのか!」。いくら食べ進めようが、一向に鈍ることのない箸とレンゲを持つ手。

具材となる玉ネギ、豚バラ肉、ニラは、注文後から炒めている
具材となる玉ネギ、豚バラ肉、ニラは、注文後から炒めている

 鈴木店主の力量の高さは十分理解していたつもりだったが、今回の「スタ満ソバ」の完成度の高さは、私の想定をはるかに上回るものだった。今、このコラムを書いている最中にも「再び、あの味に身も心も委ねたい」という気持ちが込み上げて仕方がない。

「この『スタ満ソバ』は、私ひとりの力で創り上げられるものではありませんでした。沢山のラーメン職人仲間に相談に乗ってもらい、彼らと試食を重ねながら完成させたものです」。一流ラーメン職人の叡智が結集したこの1杯。万難を排してでも召し上がってもらいたい、珠玉の名作だ。

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(※1)岩手県花巻のご当地ラーメン。独特の辛みとニラのコラボレーションが癖になる。
(※2)主に愛知県岐阜県で提供されるご当地ラーメンニンニクを大量に用いたスープが特徴。
(※3)千葉県長生郡、長南町に店舗を構える『八平』が提供する地ラーメン。玉ネギ・ニンニク・ニラを独自の製法で調理。「アリランラーメン」の名称の由来は、朝鮮半島の伝説の峠「アリラン峠」を越えられるスタミナが付くラーメンの意。店舗がアクセス困難地にあることから、秘境系ラーメンとしても知られる。
(※4)富津市竹岡の『梅乃家』を発祥とする、千葉県ご当地ラーメン(分布エリアは内房が中心)。香り高くコク深い、地元の老舗醸造所『宮醤油』を用いる店が多い。醤油とチャーシューから沁み出した豚のうま味で食べさせる素朴なスープは、食べ慣れれば食べ慣れるほど、やみつきになる。

●SHOP INFO

スタミナ満点ラーメンすず鬼 外観

店名:スタミナ満点ラーメンすず鬼

住:東京都三鷹市下連雀3-28-21 公団三鷹駅前第2アパートB-1
TEL:070-2797-8807
営:18:45~24:00(仮) ※売り切れ次第終了
休:日曜

●著者プロフィール

田中一明

フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。

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