菅義偉官房長官の発言に波紋が広がっている。

 安倍首相主催の「桜を見る会」に反社(反社会的勢力)が出席していた疑惑に対し、11月27日の会見で、「『反社会勢力』について様々な場面で使われることがあり、定義は一義的に定まっているわけではないと承知しております」と話したのだ。そして反社出席の有無については「私自身は把握していないが…」と明言を避けた。

 菅官房長官の言う通り、「反社」の定義は定まっていないのだろうか?

政府2007年に定義しているが……

 反社とは、もともとは暴力団構成員と、暴力団と関わる人間及び企業のことを指す言葉だ。政府が公式に反社を定義したのは07年6月のこと。「犯罪対策閣僚会議幹事会」の中で、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」と定義され、現在までの基本になっている。
 
「政府が反社を改めて定義した背景には、暴力団の資金源を断つという目的があったとされています。

 暴力団構成員は隠れ、一般人を表に立てる『フロント企業』が増え、ITベンチャー企業にも食い込んでいると指摘されはじめました。暴力団と何らかの関わりを持つ人間を『共生者』と名付けたのもこの頃です。

 暴力団構成員だけではなく、こうした周辺者を含めて広く『反社』と定義し、銀行や企業に反社との取引を禁じたものなのです」(社会部記者)

 しかしこの文言だけでは、具体的に誰を指すのかは分からない。銀行や企業から見れば、融資先や取引先が反社か否かを判断するのが大変難しいという問題が生まれた。

警察は情報を教えてくれない

 大手銀行の審査担当者はこう話す。

「反社情報は、警察に聞けば教えてくれるというものではありません。そのため、警察OBを顧問にして警察とのパイプを期待したり、警察傘下の『特暴連』(特殊暴力防止対策連合会)に加入したりするのです。しかしここで得られる情報は、基本的には、該当人物が暴力団構成員か否かだけ。今時、暴力団の構成員が企業の代表や役員に就くことはありません。実際、私が知る限り、現役の構成員が企業の代表者や役員だったことは1回もありません。

 私達が知りたいのは、暴力団と関係のある人間と企業です。融資した後に反社だと分かれば大問題になる。しかし、こうした情報を警察は教えてくれず、まして反社チェック(契約の前に相手企業が反社会的勢力か否かを見極めること)をしてくれるわけではないのです」

関係のない人がデータベースに入る可能性

 そのため、銀行は独自に情報収集して、企業が反社か否かを判断するようになった。

「様々な情報を集めてデータベースを構築しています。メディアの逮捕情報などはもちろん、ネット上の様々な情報も参考にしているし、行政処分情報なども収集しています。審査担当者が集まる会合などで情報交換も行っています。これらの情報はすべてデータベースに入れ、企業を審査する際に確認しているのです」(同)

 警察が捜査の過程で、捜査対象者の口座情報を銀行に照会してくることもある。

「容疑者の他に、関係者の口座情報も合わせて照会してきます。1回に50人とか100人分を照会してくることもある。こうした照会があった人物は全員、データベースに入れています。犯罪に関係ない人がいるかもしれませんが、犯罪に関わっている可能性があるから照会してきたと考えるしかありません」(同)

噂程度でも反社認定されている

 事業会社や中小企業は自前の審査部門を持つことが難しく、取引銀行に確認したり、信用調査機関、探偵事務所などに「反社チェック」を依頼している。

「警察とのパイプを強調している調査会社もありますが、今は、警察情報は簡単には取れません。調査能力の高いところもありますが、一方で、新聞記事やネットを検索する程度で判断しているところもあります」(信用調査機関担当者)

 こうしてそれぞれが独自に情報収集して判断した結果、反社の定義は広がり、曖昧になっていった。逮捕歴のある者はもちろん、暴力団犯罪者との関係が疑われた者、果ては噂程度でも反社認定されている可能性があるという。

 そして定義は曖昧なまま、反社のレッテルが貼られると糾弾される風潮ができた。

一度反社扱いされると、覆すのは難しい

 問題は、反社認定は内々に行われるため、当人には分からないことだ。

「数カ月前、西日本の建設会社の社長が反社だという話が流れ、事業に支障をきたすようになった。一部の記者が取材に動いて、社長は自分が反社扱いされていることを初めて知ったようです。調べると、暴力団との関係を示す根拠は薄弱でしたが、ある地銀は反社認定して融資に応じていませんでした。社長は関わりを否定しましたが、一度反社扱いされると覆すのは難しいでしょう」(同)

政府として曖昧な定義を出しておいて「定まっていない」?

 前出の大手銀行審査担当者はこう話す。

「警察が暴力団情報を軽々しく出せないのも分かりますが、反社が定義されて以降、現場の審査担当は困っている。警察が銀行や企業に反社情報を提供するという話が出ては消え、遅々として進んでいません」

 菅官房長官の言う通り、現実の反社の定義は曖昧になっている。しかし政府として反社を定義しておいて、官房長官が「定まっていない」と言うのは逃げ口上だろう。その姿勢が反社認定の“乱発”を招き、無実の企業や人物が不利益を被る例も出ている。

(清水 俊一)

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