11月28日『科捜研の女』テレビ朝日系)の第22話が放送された。数年に1度の傑作回だったと思う。

<第22話あらすじ>出所後、好きな小説の聖地巡礼をしていた被害者
工場に勤務する古田憲一(今野浩喜)の遺体が空き地で発見された。後頭部の傷から転落死と見られたが、現場や遺体の状況から何者かにより運び込まれたことが疑われる。
所持品にあった児童書『あおぞら探偵団』は、“殺人トリック魔術師”と呼ばれる人気推理小説家・高柳龍之介(大和田伸也)のデビュー作で、事件当日の日付で作者のサインも入っていた。
古田の自宅から、子ども向けのお絵描きボードと『あおぞら探偵団』シリーズの他の3冊が見つかった。さらに古田は9年前に殺人を犯し、仮釈放中だったことも判明。古田の自宅からは古田への恨みを綴った手紙も見つかっており、復讐殺人も疑われた。しかしそれを被害者遺族は否定し、筆跡鑑定でも裏付けがとれる。その後、遺体から採取した砂から、事件前に古田はウサギのいる場所に訪れていたと推測され、『あおぞら探偵団』のモデルになった丸太町小学校が浮上した。
古田への恨みが綴られた手紙を書いたのは、古田本人だった。被害者遺族の気持ちになり、加害者である自分宛ての手紙を書く心理療法的な更生プログラム「ロールレタリング」を古田は受けていたのだ。だが、古田は幼い頃に育児放棄に遭い、学校へ行けず読み書きができなかった。そこで、口述筆記で代わりに手紙を書いたのは、ボランティアの面接委員である住職の辻正孝(佐川満男)。辻は古田に読み書きの勉強をするよう勧め、ふり仮名を振った『あおぞら探偵団』をプレゼントしていた。
この本に夢中になった古田は出所後、小説に登場する場所を聖地巡礼するようになる。作中に登場する転落死しそうな場所を探す榊マリコ(沢口靖子)は、高柳から話を聞いて白波神社へ直行。石段から血痕を発見した。
犯人は古田の同僚3人だった。神社で『あおぞら探偵団』を読んでいることをからかい、小説を奪う3人から本を取り戻そうとした古田は、相手と揉み合ううちに石段から落下してしまったのだ。
古田の一生を嘆く高柳は後日、新連載をスタートさせる。その小説の主人公は人を殺した過去を持ち、生き方を改めようと夜間学校へ通う男だった。

1冊の本を手に取って色づいた世界
22話が始まって間もなく、今野浩喜が死体役として登場して驚いた。十分な人気と知名度を持つ彼が、なぜこんな役を? いや、彼が今回の主役だった。両親からネグレクトされた男が心の扉を開け、失った幼少期を取り戻していくという素晴らしい役柄を今野は好演した。

古田が変わったきっかけは一冊の児童書。『あおぞら探偵団』を手にした瞬間、モノクロの回想シーンが一気に色づく演出は感動だった。文字の読み書きができなかった彼は刑務所でこの本をやっとの思いで読み、体験することのなかった小学生生活を本を通じて見事に体験した。「俺には友だちなんて1人もいなかった」と言う古田は、実は、小説の中で友人を見つけていた。独房内で、彼は初めて鮮やかな世界と自由を手にしたのだった。読書が、古田の新しい扉を開いた。

古田は漢字の勉強を始めた。本当は、高柳の本を読破しようとしていたのではないか。高柳のサイン会に訪れるも「サインは新刊をご購入いただいた方のみ」と咎められ、古田は戸惑った。出入り口にある注意書きを、彼は読むことができなかった。
「まあ、いいじゃねえか。はい、ご愛読ありがとさん」(高柳)
今野、そこに愛はあったんだな。

「本じゃない。1人の人間の生きる希望だったんだ」
古田を殺害したのは勤務先の先輩3人だった。犯人がまるでズッコケ3人組のような連中だったのが悲しい。3人は古田が読む『あおぞら探偵団』を見て「なんじゃ、こりゃ。ガキが読む本じゃねえか」と嘲笑し、奪い取った。今日び、小学生でもこんなイジメはしない。「ガキが〜」とからかう者たちが、一番ガキみたいなことをしている。
自分の琴線に触れない、理解できない、受け付けない趣味・娯楽があっても、それが他の誰かにとってかけがえのない生き甲斐に成り得るのはよくある話。世にある創作物を貶める行為は、思慮が足りず浅はかである。

犯人 「たかが本に、あんなムキになるなんて!」
土門 「本じゃない! お前たちが弄んだのは本じゃない。1人の人間の生きる希望そのものだったんだ」

本を原因に命を落とした古田を思い、「哀れな一生だよな。いいことなんか何もねえじゃねえか……」と高柳はうつむいた。
「でも、物語があった。あなたが生み出した心揺さぶる物語があった。たった1つ好きな作品があるだけで、ただ1人好きな作家がいるだけで、人は生きていけるんですね」(マリコ)

全ての創作物の作者に届けたい言葉だ。

好きな作家に未来を描かれる被害者
『あおぞら探偵団』の主人公が2人しかいなかった理由がわかった。

アイデアが浮かばず、廃業まで考えた高柳は新連載をスタートさせた。それは、古川が2人の友人と出会い、活躍する物語。古田が本当は送るかもしれなかった未来を大柳が綴ることで、仲良し3人組を描く新シリーズは始動する。

この22話を観終えた後、筆者は一晩明けてもまだ感動していた。ストーリーやゲスト俳優の熱演も印象的だったが、ネグレクトという現代社会の問題点に光を当てた点でも意義のある回だったと思う。あと、今野が演じる役の名前は、とても偶然だと思えない。
(寺西ジャジューカ)

木曜ミステリー『科捜研の女』
ゼネラルプロデューサー:関拓也(テレビ朝日
プロデューサー:藤崎絵三(テレビ朝日)、中尾亜由子(東映)、谷中寿成(東映)
監督:森本浩史、田崎竜太 ほか
脚本:戸田山雅司、櫻井武晴 ほか
制作:テレビ朝日、東映
主題歌:今井美樹「Hikari」ユニバーサル ミュージック/Virgin Music)
※各話、放送後にテレ朝動画にて配信中

イラスト/サイレントT