最近気になっているのが、モスクワで私が住んでいるマンションの徒歩5分圏内に、5軒もアダルトショップがあることだ。

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 私は決して、渋谷や新宿、秋葉原のような繁華街に住んでいるわけではない。東京で言えば文京区世田谷区のような、そこそこ高級な住宅街で、近くにはロシアの最高学府モスクワ大学や日本人学校がある。

 この地区は、モスクワの中でも特に住環境が良いとされている。

 ロシアでは、日本の地下鉄で見るような扇情的な中吊り広告もなければ、大通りを風俗店の求人トラックが走ることもないし、ポストにデリヘルの広告を投げ込まれることもない。

 例外的に、地下鉄の無料ワイファイに接続する時にコンドームの広告が流れるくらいで、自分の意思に反して性的なものを目にすることはほぼない。

 今から7年前、ロシア連邦保安庁(かつてのKGB)のすぐ近くに、ロシア初のコンドーム専門店ができた時は、眉をひそめる人がたくさんいた。

 ソ連時代、コンドームは「製品その2」という、ある種の隠語で呼ばれていたため、店の前に「コンドーム」と堂々と書かれていることに対して店主を訴える人もいた。

 それが今や、アダルトショップは本当にどこにでもある。

 このことに違和感を感じていたところ、インターネット新聞「ガゼータ・ル」で興味深い記事を見つけた。

 店舗型のアダルトショップがロシアで急増しているというのである。

 11月21日付の記事によると、ロシアの複数の大都市で、ここ1年の間に、アダルトショップ店の数は3倍以上に増加しているという。

 シベリアの都市・オムスクでさえも44%の増加だ。また、ネットを含めたアダルトグッズ業界の成長率はここ数年で記録的なものになると予想されている。

 モスクワには536店、サンクトペテルブルクには209店あるということだが、これは地図アプリから割り出した数なので、実際にはもっと多くの店があると予想される。

 サンクトペテルブルクの有名チェーン「ピンクのうさぎ」創業者のインタビューによると、実際に目で見て触ってみたい人が多いため、店舗での売り上げは常にネット通販を上回っている。

 また、数年前にネットショップをオープンした個人事業主によれば、サイトでは半分以上の商品が全く売れなかったため、半年後に大手チェーンのフランチャイズ権を購入しモスクワ住宅街に実店舗を開設したところ、商売繁盛しているという。

 彼の店の客1人当たりの単価は4000~5000ルーブル(6000~8500円)で、ロシア人の平均所得を考えると、かなり高い。

 客の多くは女性で、ここ最近で男性やカップルの来店も増えている。

 記事によると、ロシアにおける2006年のアダルトグッズ市場の規模は280億ルーブルだったが、2018年には500億ルーブル(850億円以上)にまで成長している。

 この間、特に2014年以降に景気が大きく後退したことを考えれば、この数字の伸びには驚かされる。

 さて、30~40代の女性がメインの購買層だと分かったところで、勇気を出して自分でも近所の店に入ってみることにした。

 店はマンションの1階部分にあり、果物店と両替所に挟まれている。

 ここはモスクワで急増しているチェーン店で、市内に70店舗以上を構えている。

 外から中の様子は全く見えない。ドアを開けるとびっくりするほど照明が明るかった。店員は1人で、20代後半くらいの元気の良い女性だ。

 店が思いのほか狭くてすぐに彼女と目が合い、どぎまぎしていると、「こういうお店、初めてですか。よく決心しましたね。素晴らしいわ!」と褒めてくれた。

 店内は細長く、左右の棚とレジ奥に様々な商品が陳列してある。

 端の棚から順番に案内してくれ、まずは商品の特徴や、シリコンの良し悪しの見分け方などについて説明してもらった。

 商品は主にドイツカナダのメーカーのものが多く、超高級なスイス製の商品もあった。

 店が狭くて、売れ筋の商品しか店頭に出していないということなので、高額商品でもよく売れているのだろう。

 おしゃれマトリョーシカらしきものがあるな、と思ったら日本メーカーの商品「TENGAカップ」だった。

 驚いたのはTENGAカップを分解したものが置いてあり、中を自由に触れるようになっていたことだ。

 私も触らせてもらったが、かなり複雑な構造になっていて、とても興味深い体験だった。

 TENGAカップもそうだが、一目ではアダルトグッズだと分からないような米国製のランプなど、デザイン性の高いものがたくさんあった。

バイブを選ぶ時にはどうやって自分に合った振動の強さを選べばいいのか?」という説明を受けている最中に、40代と思しき男性が入って来た。

 男性はじっと待っていて、店員に何か相談したい様子だったので、私は気まずくなり会話を切り上げようとした。

 しかし、店員は最後まで説明を続け、男性の方も意に介していないようだった。

 この店が特にお薦めしていた商品の値段とメーカーを覚えておいたのだが、後で当該チェーンの公式オンラインショップを見てみると、なぜか店舗よりもネットの方がずっと安かった。

 中には数千ルーブル単位で値段の違うものもあった。もしかすると店側に値段を決める裁量があるのかもしれない。

 数日後、2店目訪問にチャレンジしてみた。

 こちらはモスクワで最初にできたアダルトショップチェーンで、もともと医療機関の治療の一環としてスタートした。

 高級マンションの1階に入居しており、隣にはスーパーや薬局、銀行がある。

 店員は40代後半か50代くらいの女性で、黒髪ロングヘアですらっと背が高く、美容に気を使っている様子だ。

 正面にベッド用香水がたくさん並んでいて、両サイドに様々なグッズが陳列されている。

「こういう特殊なお店はほぼ初めてなので」と私が言いかけると、笑顔で 「特殊な場所じゃないわ。健康に大事なことよ!」と言って、店内を案内してくれた。

 高級マンションの中という立地にもかかわらず、最初の店よりも手が届きやすい価格帯で、確かに品質もピンからキリまであるという感じだった。

 この女性は基本的に自分の使用体験に基づいて話してくれたので、かなり詳しい知識を得ることができた。

 こちらにはTENGAカップがなかったので(使い捨て商品としては高すぎるのだろう)男性用の商品でお薦めを聞いてみると、マレーシア産の精力剤だという。

 カザフスタンを経由してロシアに輸入されている。その正体はマレーシアでは有名な薬用植物で、70代の男性のリピーターもいるということだった。

 レジ横にはTENGAエッグが置いてあり、「これは使い捨てですか?」と聞いたら「ちゃんと洗えば3回は使えますよ」とのことだった。

 すると、ドアの上の鐘が鳴り、さっきまで公園でスノボでもしていたようなカジュアルな若い女性が入ってきた。

 ここでも店員は私に対する接客を中断することはなく、女性に「ちょっと待ってくださいね!」とまるで八百屋のように明るく声をかけて、待ってもらっていた。

 すると、隣のスーパーの袋を下げた若い男性が入って来た。どうも、基本的に一人で来る場所のようだ。

 わずか2店を見ただけだが、自分でひょいと商品を選んでレジに持っていく人は一人もおらず、どの人も何かしらのアドバイスかコミュニケーションを求めていた。

 物によってはかなり高額になるし、商品のほとんどが外国製なので、そうせざるを得ないのかもしれない。

 もちろん接客にマニュアルがあるはずだが、どちらの店でも、客が居心地の悪い思いをしないように、明るく丁寧に接客してくれたのは、嬉しい驚きだった。

 多少高くついても、時間が取られても、実店舗で買い物をする人の気持ちがよく分かった。

 唯一、品揃えで気になったのは、どちらの店にも下着・ランジェリー類が黒か赤しかなく、ヨーロッパからの輸入品で、定番のデザインばかりだったことである。

 ロシアは女性にプレゼントする機会の多い国だ。

 実際、店員の話によれば、新年やバレンタイン、国際婦人デーなどには、プレゼント用のセクシー下着が次から次へと売れていくという。

 この分野における日本の品揃えは圧倒的だと思うので、ぜひロシア向けにも広がってほしい。

 かつての「ソ連にセックスはない」と言われていた時代から打って変わって、新生ロシアではかなりのスピードでセックスがオープンなものになり、「生活の欠かせない一部である」という認識が広がっているようだ。

 日本でも最近、老舗デパートアダルトグッズの常設コーナーができたりして話題を呼んだが、ロシア人のメンタリティも、それ以上に大きく変化しているのだと実感させられた。

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2012年開店のコンドーム専門店。向かって左隣はラーメン店