東京で8月にマラソンは無理! で、札幌に変更となった2020年東京オリンピックマラソンマラソンといえば、スタジアム以外でも観戦できる花形競技なわけで、すでにコースも発表されていたが幻となってしまった。

 幻といっても今年9月、マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)でコースは使用されており、東京にマラソンを残そうと小池都知事が「午前5時」や「午前3時」にスタートする案を出したのは記憶に新しい。

◆今更検証…朝5時スタートしたらどうなるのか?

 私事で恐縮だが、筆者は先月、約2年間勤めた週刊SPA!編集部を一身上の都合で退職。病院の問診票には格好つけて「自営業」と書くが、まあ無職である。「何か仕事をくれ」と古巣の編集部に拝み倒した結果、「幻のマラソンコースを朝の5時から走る仕事」を受注したのだ。

 走るといっても特段運動もしていない39歳松坂世代、お腹に肉がしっかりついた87kgのデブ。普通に走れば完走すらおぼつかない。そこで実際のレースに近いタイムで走るために、レンタサイクルの電動自転車を用意した。最初の30分150円、その後は30分100円の従量制だ。

 気温は5度。めちゃくちゃ寒い。ひとりで5時まで待つのが耐えきれず、4時47分にスタートすることにした。いざ!

◆出だしは順調。大迫選手の日本記録が射程圏内?

 スタートして最初は四谷までほぼ道なりに進むと、大きな上り坂が続く。だが、電動アシスト自転車の恩恵か、全く苦にならない。しかも右折して市ヶ谷まで直進するルートは下り坂。ますます楽勝だ。

 スピードも20kmは出せており(車道に輪道が設定されている)、27歳の担当編集・T内君の「大迫の日本記録(2時間5分50秒)更新したら原稿料アップしますよ」とのたまった発言を後悔させてやる! とよりやる気が増す。

 市ヶ谷から水道橋までは中央・総武線沿いに進んでいく。皇居の外堀とも並走になり、右手に走る電車と外堀の緑を眺めならが気持ちよく走る。道もほぼ平坦。なんと心地良い……と言いたかったのだが、5km地点となる飯田橋のあたりでもうケツが痛い。ほぼ座りながらサイクリング感覚で漕いでいたが、座るだけでケツが悲鳴を上げる。ここから立ち漕ぎ主体となっていくのだが……

東京ドームが見えない…

 飯田橋から水道橋へ。水道橋といえば東京ドーム! さあ左に見えますのはビッグエッグ……と期待していたが、Winsドームホテルが邪魔して走路の高さからは一切見えない。そりゃそうだ。言うほど高い建築物じゃないんだった……あと、手前に建物が多すぎた。

 水道橋から右折して南下し、神保町を目指す。神保町で左折して神田へ。中学時代、筆者の地元だったこの地域。勝手知ったる古本屋街だが、店もだいぶ変わってしまった。減った古本屋を見て感傷に浸りながら、さらにかつてスキー用品店で溢れていた小川町を進み神田駅付近で右折し南下、一路日本橋を目指す。

◆気温7度、日本橋を爆走

 立ち漕ぎを続けていた影響か、太ももに痛みを感じ始める。ケツも痛い。サドル太ももを寄りかからせて休めながら進む状態になり、スピードも落ち気味になってきた。だが、まだ10km地点。あと4倍もあるのかよ!

 日本橋の手前に時刻と気温を表示する電光掲示板が。これ昔からあるのよね。昔はパネル式だったけど今はLEDだ。ふふふ、ここは筆者の小学生時代の地元なのだ。シティボーイだろう? と心で思うもののまだ5時半。だれもその勇姿を見てくれない……寒い、手もかじかむ。手袋してくればよかったと強い後悔が襲う。

 だが、日本橋が見えると違う! ここは俺の地元じゃああああと心を奮い立たせ日本橋を通過。この街を爆走するのはほんと気持ちいい。実際にマラソンコースで採用されていたなら、ここはオススメのビュースポットだと思う。

 さて、日本橋を過ぎて左折し茅場町へ、さらに左折して水天宮、浅草橋と進み、浅草を目指す。ここいらへんは道が細いかな、と思ったがちゃんと2車線あり歩道も広い。よく考えられたコースだなあと思う。

◆6時14分浅草到着。日本記録は無理と悟る

 浅草を目指して北上。右手にはスカイツリーが見える。

 浅草到着時刻が6時14分。ここまで約1時間半。この地点は15km。あ、無理ですね日本記録……そりゃそうだ、いくら20km出して踏めても、信号とかちゃんと交通ルール守って走るとこうなるよね。交通整理って偉大だなあ。

 運動していない39歳は割と限界を迎えていた。「もう許して……」担当T内君に泣きのメールを入れる。「走ってるんですね、7時にゴール地点で待ってます」の返信。リタイアのリの字も言わせる気がない。鬼。

「7時は無理」と返信したが、折返しは来ない……。

◆同じ道を帰るのは辛いがザギンでもう一度奮い立つ

 浅草から日本橋までは同じ道を戻る。日が昇りはじめ、街は明るさを得て自転車ライトを付けなくてもよくなってきたのはいいが、同じ風景を2度見るというのはこれほど「つまらない」ことなのかと思う。が、日本橋到着(20km地点)で約半分まで来た! と思うと同時に、ここからは新ルート。左折して銀座、いや、夜明けのザギンを爆走するのだ!

 日本で一番地価の高い銀座の大通りを文字通り爆走する。早朝のためほっとんど人がいない。疲れて声は出ないけれど「いやっほー」と心で叫びながらスピードを取り戻す。実に爽快である。ザギンオールして朝まで過ごしてたらこの景色を見るのかと思うとなんかかっこよくないですか?

 新橋まで爆走し、JRをくぐるために右折左折をすると増上寺、東京タワー付近まで一直線。もう街は明るくなってきた。だが、やけに道にカラーコーンが多い。どうやら今日は朝からハーフマラソンをするようだ。開始は8時ごろから。もし筆者がもっと遅くここに来ていたら交通規制がかかって通れなかったかもしれない。しかし、8時まであまり時間もなく、もう全身悲鳴を上げるカラダにむち打って爆走。これで25km地点を通過。だが東京タワーをのんびり眺める余裕もない。増上寺前で折り返し、ここから辛い「見た風景の復路」が神保町まで続く。

◆皇居外苑コースへ。だが交通規制?

 神保町へ戻るまでに30km地点を通過。ケツはいたい、脚は重い。スピードはグングン落ちてゆく。だが、神保町からは南下し、最後の新ルートである皇居外苑へ向かうのだ。

 もう普通に朝の明るさとなって、竹橋から皇居沿いに進み、皇居外苑の中央で折り返しとなる。中学生時代、ここでよく皇居のマラソンコースを走っていた。もう20年以上前のことだが、走るのは得意だったよなあ。もう一度心を奮い立たせて進む。

 だが、皇居外苑もなにか様子が違う。御即位に伴う慶祝行事の一環で交通規制が行われそうな気配。人出も警備員も多いのだが、詳細を確認する余裕もない。交通規制があるのかもわからないので、急いでここも進むことに。いい景色だったのだが、ここは実際のマラソンでも勝負所になる地点だ。踏ん張りどころでどう心を奮い立たせるかが重要なはず。幸い筆者は、ここで運動していた過去を思い出して奮起できたが。

◆担当へ電話するも

 皇居外苑を折り返し神保町交差点地点が35km。だが、ここで尿意が襲う。もう時刻は8時。コンビニトイレをお借りして、一旦担当T内君に電話する。あと少し、なにか後押しの言葉がほしい。観客も声援もないのに俺はここまで走ってきた。担当だけは温かい言葉を……と思っていたが甘かった。

筆者「今35km地点、遅くてごめん。国立競技場にいるよね?」

T内「国立競技場の前で伊東豊雄似のおじさんと、新国立競技場デザインについて語り合ってますよ」

筆者「(なんだそれ、面白そう…)全力で走るからもうちょっと待っててね」

T内「あ、そうっすかーはーい」(ガチャ切り)

 こいつ、ゴールしたらブン殴る。そう決めて、ある意味走る理由を得て、最後復路を爆走する。

◆感動のゴール! のはずが…

 もう残りはゴールを目指すだけ! 平坦な中央・総武線沿いを爆走し、さあ最後……となった瞬間、スタート地点の急勾配。ここにきてスタート直後にスイスイ進めた急坂が襲いかかるのだ。電動アシストもほぼ実感できない。だが、もう頭真っ白で残り1km、あとは下り一直線。初めて30kmを計測した直線ゴール前、爆走して叫びながらゴールへ到着した!!!

 が、担当T内がいねぇ…。嫌な予感がしたが、電話をしてみる。

T内「ああ、寒かったんで目の前のホープ軒でラーメン食ってます。2階席なんで来てくださ~い」

 朝5時から走り続けてラーメンなんて食えるわけない。しかも脚ガックガクなのに2階席って……まあ、仕方がないのでホープ軒に行く。

T内「お疲れっす~2時間以上待ちましたよ、結局どれくらいかかったんすか」

 時計を見ると3時間47分36秒だった。

T内「あ~このタイムじゃノーギャラっすね」

 鬼、悪魔、クソ担当!

T内「あ、食い終わったら一応完走後の写真撮っておきますか、一応」

◆実際に走ってみて思ったこと

 結局2時間台では走れなかったが、12月に5時前スタートし、8時41分にゴールしたことで、日の出の時間などを考慮すれば明るさは後半になるとリアルなものに近くなったと思われる。8月の5時からなら、ちゃんと明るさもありレースは見れたんじゃないか。また、全ての道は2車線以上、歩道もほぼ広いところが指定されており、観戦面では申し分ないコース設定だった。

 だが、やはり8月。東京の8月は確実に蒸す。問題はやはり時期だけだ。細かい意見は避けるが、単純に何時スタートだったとしても8月に東京都市部でマラソンというのは時間だけではどうにもならなかっただろう。10月とかにできたら最高のコースだったのに。<取材・文・写真/佐藤永記>

※撮影は赤信号時や停止時など、交通ルールを守って撮影しています。
※道路上の画像はカメラを固定した動画からキャプチャしたものです。

【佐藤永記】
公営競技ライター・生主。シグナルRightの名前で公営競技の解説配信活動「公営競技大学」を個人運営している。また、日刊SPA!のギャンブルコーナー勝SPA!編集担当も。Twitter@signalright

筆者。このレンタサイクルでスタート