ひと口に「ヘルメット」といっても多岐にわたりますが、自衛隊で使用している航空機用のものは総じて「航空ヘルメット」と呼称されています。地上部隊のいわゆる「鉄帽」などとはだいぶ異なる、その特徴を見ていきます。

「航空ヘルメット」にも種類あり

高速で飛行する戦闘機や災害現場で被災者を救助するヘリコプターの、パイロットやクルーが着用しているヘルメットは、たとえばバイク用のヘルメットなどとは、もちろん大きく異なるものです。

自衛隊が使用する「航空ヘルメット」は、大きく分けて2種類あります。ひとつは戦闘機などの固定翼機で使用されるヘルメット。もうひとつはヘリコプターなどの回転翼機で使用されるヘルメットです。

固定翼機用は酸素マスクが装着できるようになっており、このマスク内に通信マイクが取り付けられているため、ヘルメットの外見はスッキリとした印象です。対して回転翼用となると、酸素マスクを取り付ける金具はなく、代わりに通話用のマイクマイクブームが取り付けられています。そのため、ヘルメットの周囲はゴテゴテした印象となっています。

自衛隊内でも固定翼機用、回転翼機用それぞれにいくつかの種類が見られますが、共通しているのは「航空ヘルメット」という名称と、「防弾性が無い」「顔面を保護するバイザーがある」、そして操縦士の聴覚を保護する「防音性がある」という点です。

実は防弾性ナシ

共通の特徴のひとつである防弾性がないという点について、意外に思われるかもしれませんが、ヘルメット本体と内張り(ライナー)のあいだには発砲スチロールが張り巡らされているだけで、あくまでも衝撃吸収用であるということが、見ただけでもすぐにわかります。本体も軽量なプラスチック製であるため、あまりにも強い衝撃を与えると割れてしまうこともあります。そのため、地上部隊が着用している88式鉄帽のように、頭上で炸裂する砲弾の破片などを防ぐことはできません。

もうひとつの共通点、格納式のバイザーは、スモークシールドの一枚式となっていて、眼球や顔面を保護する役目を持っています。前述の88式鉄帽にはついていないものです。

ここで興味深いのが、射出座席を使用して高速で空に打ち出される可能性のある戦闘機搭乗員は、基本的にバイザーを下ろした状態での飛行が推奨されているのに対し、陸上自衛隊の回転翼機の場合は、ヘルメットに備わっているバイザーの使用は任意となっている点です。つまり、このバイザーを使用するかどうかは、操縦士が自分で決めることができるということです。

なお、戦闘機戦闘ヘリ用のヘルメットには、HMDヘルメットマウンテッドディスプレイ)とよばれる装置が組み込まれているものもあり、バイザーに速度や高度などの情報が投影されたり、機関砲やミサイルの照準などと連動したりしているものもあります。F-35A戦闘機用のヘルメットなどは、その最新式といえるものです。一方、陸上自衛隊ヘリコプター用としては、AH-64D「アパッチ・ロングボウ」に片眼鏡スタイルのディスプレイは見られるものの、バイザー投影式のものはまだ採用されていないため、上述したようにバイザーの使用は任意というわけです。

防音性がとても大事な理由

3つめの共通点「聴覚保護」という点については、たとえば実際にヘリコプターに乗ってみると、やはり騒音の激しい機内であり、こと連絡通話時にはその必要性を実感するそうです。

航空機が搭載するエンジンの騒音は、機外で聞いているよりもうるさく感じ、なおかつ、その騒音が飛行時間中ずっと聞こえているのです。これによって聴力へ異常をきたすという深刻なケースも見られ、機外で飛行支援をする整備員であっても、そうした異常を訴える隊員もいるとのことです。ヘルメットに防音性能は欠かせません。

このように「航空ヘルメット」は、操縦士等の聴覚と頭部を保護し、機内における連絡通信を確保するためにも、必須の航空装備であるといえるのです。

航空自衛隊の戦闘機用航空ヘルメットHGU-55/PJを着用するF-2A戦闘機の操縦士(清水 薫撮影)。