厚生労働省によると、全国の労働局などに寄せられる、職場での「いじめ・嫌がらせ」に関する相談が年々増えています。2018年度は8万2797件で過去最高となり、働く全ての人々にとって、決して人ごとではありません。職場で行われるいじめ・嫌がらせの事例や対策について、社会保険労務士の木村政美さんに聞きました。

職場のコミュニケーション不足が原因

Q.なぜ、職場でのいじめ・嫌がらせが増えているのでしょうか。

木村さん「職場でのいじめや嫌がらせが増えている原因の一つに、職場内のコミュニケーション不足があります。社内では複数の人が働いており、それぞれに立場や価値観の違いがありますが、お互いにコミュニケーションを取りながら協調して仕事をしています。しかし、コミュニケーションが不足すると、人間関係が不調になりがちで、結果、いじめや嫌がらせが起きやすくなります。

また、昨今の人手不足やパソコン・モバイル機器の普及などを背景に、会社が従業員個人に対してより多くの仕事の成果を求める傾向があります。残業が増加したり、業務の配置・分担に関する労務管理が不十分だったりする職場では、従業員のストレスがたまりやすく、そのはけ口として、いじめ・嫌がらせが横行していることも考えられるでしょう」

Q.増えているのは、どのようないじめ・嫌がらせですか。

木村さん「厚労省所管の独立行政法人『労働政策研究・研修機構』の統計によると、実際に行われているいじめ・嫌がらせの中で上位に挙げられるのは、仕事に関連、または関連しない不適切な発言などの精神的な攻撃、無視、事実上遂行が不可能な要求などとなっています。特に、業務に関連しない不適切な発言の中で最も割合が高かった行為は、暴言、脅し的発言、嫌み、礼を失した発言、一方的非難、怒声などで4割強を占めています」

Q.厳しい指導がいじめに当たる場合もあるのでしょうか。

木村さん「仕事上で上司や先輩、同僚などから厳しい指導や指摘を受けた場合、中には『いじめられた』『嫌みを言われた』などと思う人がいるかもしれません。

しかし、その言動が仕事を行う上で必要かつ適切な範囲と認められれば、いじめや嫌がらせには当たりません。また、あいさつしたのにたまたま無視されたとか、担当者が失念して業務の連絡を回さなかったといった行為が、1、2回程度であれば、いじめとは認定されない可能性が高いでしょう」

Q.相談業務の中で見聞きしたいじめ・嫌がらせのエピソードで、特に強く印象に残っている具体的な事例はありますか。

木村さん「いじめ・嫌がらせの方法は本当にさまざまですが、通勤で使用する車を破損するという事例が複数ありました。具体的には、被害者が社内の駐車場に止めている間に加害者が車体に傷を付けたり、付属の物品を壊したりするほか、タイヤにガラス片やビスを差し込む、パンクさせる、などです。

車の破損行為は外部の人間が行った可能性も考えられ、調査や犯人の特定に時間がかかることが多く、会社だけではなく警察を巻き込む事態になりやすいです。また、被害者が破損に気付かないまま車を運転していると事故が起きかねず、被害者の生命に関わり、他者をも巻き込む可能性があります。それらを考えると、かなり悪質な嫌がらせであるといえます」

Q.職場でいじめ・嫌がらせを受けても周囲に相談できない場合、どのようにして解決すればよいのでしょうか。

木村さん「まずは会社の上司や社内のハラスメント相談窓口に相談すべきです。しかし、『上司に取り合ってもらえない』『相談すると社内での自分の立場に不都合がある』『社内に相談窓口がない』などの理由で、社内で相談できない場合は、各都道府県にある労働局に設置された総合労働相談コーナーや法テラスなどの外部機関を利用したり、労働問題に詳しい弁護士などの専門家に相談したりする方法があります。

相談するときは、被害内容の記録文章や加害者からのメール、会話の録音・録画といった、いじめ・嫌がらせを受けていることを証明する記録を持参するとよいでしょう。いじめや嫌がらせによる精神的なストレスが原因で医療機関を受診した場合は、医師の診断書も合わせて持参してください」

オトナンサー編集部

職場でいじめや嫌がらせに遭遇したら…?