今季限りでの退団が決定、サポーターから“愛のあるブーイング”を浴びた稀有な存在

 浦和レッズの元日本代表DF森脇良太は、契約満了により今季限りでの退団が決まっている。7日に迎えるJ1リーグ最終節のガンバ大阪戦が浦和でのラストマッチになる見込みだが、7年間所属した浦和に対して「感謝しかない」と繰り返した。今でこそ愛されるキャラクターとして認知されているが、少しずつ積み上げられたものもあった。

 森脇が浦和に加入したのは2013年で、当時の浦和はミハイロ・ペトロヴィッチ監督(現・北海道コンサドーレ札幌)が指揮。サンフレッチェ広島時代に指導を受けたDF槙野智章やMF柏木陽介も在籍していたことで、クラブを取り巻く空気は「広島からの補強」という一括りにされた感もあった。それは翌年にGK西川周作やFW李忠成が加入したことで、より強まったかもしれないが、森脇の明るいキャラは浦和の中でも異質だった。

 一方で、「僕は作っているわけじゃなくて、ありのままなんです」というキャラクターは、少しずつ受け入れられていった。そこには、浦和サポーターの「愛のあるブーイング」との関係が欠かせない。森脇が誕生日の当日にゴールした試合で、ゴール裏のサポーターに「ハッピーバースデー」を求めて指揮者のように手を振るもブーイング。諦めて引き上げかけたところで、その歌が歌われると、喜び勇んで聞きにいった。そして、森脇が手を挙げて応えるとまたブーイングだった。

 また、タイトルを取った際には、トロフィーを低い位置で持った代表者が“タメ”を作り、掲げるのに合わせて選手もサポーターも手を挙げて歓声を送るのが恒例だ。しかし、森脇がそれをやると、選手は反応せず、サポーターはブーイング。そして、森脇はトロフィーとともにオーバーアクションで倒れる。今では“森脇芸”として、ユース年代の試合などでも見かけるようになった。

 ヒーローインタビューでは話している間に、サポーターへ「僕の話、聞いてますか?」と問いかけると、ブーイングを受ける。そして、先にインタビューを受けていたFW興梠慎三は森脇を置いて立ち去る。こうしたいじられキャラ、ブーイングを笑いに昇華した稀有なキャラクターの持ち主だった。森脇もまた「サポーターとの触れ合いの時間、皆さんと一緒に共有できるのが楽しくて。サッカーをやる以外の、そういう時間も素晴らしかった」と、笑顔で振り返った。

退団決定にチームメートも「珍しく残念がってくれた」

 そんな森脇は、浦和について「まさか7年間もプレーできると思っていなかった」と話す。契約満了はクラブの決断であると話し、「受け入れるしかないし、感謝しかない。毎日が刺激的で、何か一つこれという思い出を挙げるのは難しいくらい。毎日がかけがえのない日々でしたからね」と話した。

 チームメートもまた、森脇曰く「珍しく残念がってくれた」という反応だったという。

 前述の興梠は森脇と同じ13年の加入で、2人組のウォーミングアップなどで一緒にやっていることも多かった。一方で、森脇をいじる回数でトップクラスだったのもまた興梠だろう。森脇が取材を受けていると「長く話してるけど、記事になったの見たことないぞ」と冷やかして帰っていくこともあった。契約満了が発表された翌日、森脇に話をしている時も全く同じ光景があった。

 その興梠は「この時期はね、寂しい思いはあるけど、あいつなりに7年間、特別な思いでやってきたと思う。一緒に入ってきたからね。他のチームメートもいるけど、ずっと家族の次くらいに一緒だったから。チーム状況が悪い時に出るのは複雑だとも思うけど、最後は笑顔で終わりたい」と、少し感傷的だった。

 もちろんサッカー選手として、これだけボールをつなぐ技術が高いDFもなかなかいない。本人も「蹴っ飛ばすのは簡単だし、リスクもない。そこをつなげるのがベストプレー」という信念を持つ。李が浦和に在籍していた時、練習後に何か森脇がいじられて、周囲にいた報道陣まで笑ってしまったことがあった。李も笑いながら、「皆さん笑うけど、あいつ、阿部(勇樹)ちゃんの次くらいに上手いからね」と、こちらに話しかけてきたのが印象に残る。一方で、なんで森脇が面白かったのかを思い出せないあたりが、彼の持つキャラクターのような気もした。

 そんな愛すべき男は、「浦和は僕の中で特別になりました。もうレッズプレーはできないけど、心の中に常にあるクラブですね。サポーターの皆さんは、『もう森脇はいいよ』と思うかもしれませんが、僕はしつこく浦和のことを思い続けたい」と、7年間で生まれた思いを語った。

 森脇が浦和の選手として埼玉スタジアムでのホームゲームを迎えるのは、G大阪戦が最後。彼はチームメートやサポーターから、どのような送り出され方をするのか。ただ、どんな形であれ、そこには笑顔があることだけは間違いないはずだ。(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)

浦和レッズを退団する元日本代表DF森脇良太【写真:轡田哲朗】