今年も多くの人たちが鬼籍に入りました。筆者にとって忘れられないのが、金ピカ先生こと佐藤忠志先生(以下、先生)の逝去です。しかし、メディアの扱いがひどく、死者にむち打つ記事が多いことに驚きを禁じ得ませんでした。特に、「現代ビジネス」の記事は興味深く読ませていただきましたが、強い違和感を覚えました。

 先生の変わりざま、あまりに寂しい様子には言葉もありません。先生は脳梗塞心筋梗塞といった大病も患われました。病気の影響で体形はやせ型、涙もろくなっていました。それを殊更みじめに“あおり記事”を書くのはいかがなものでしょうか。このような記事を読んで、離婚した元奥さまがどれだけ苦しんでいるのか、多くの教え子の気持ちをどれほどないがしろにしているのか。本稿で追悼を行います。

なぜ、人の死をみじめにあおり立てるのか

 記事を調べると、若い世代の人に何かを伝えようとしていたに違いないという仮定や推測によるものが多いのが気になります。取材をしているのでしょうか。先生はメディアに出ているときから、写真を拒否されることはありませんでした。撮影を依頼されたときの表情はいつも笑顔です。「著作権肖像権? そんなことは小さいやつが言うことだ!」といつも言われていました。

 数年前までは、外出する際には、ボルサリーノカウボーイハットをかぶり、誰もが知っている派手ないでたちでした。筆者が「先生はいつになってもオシャレですね!」と尋ねると、「僕のことを知っている人の夢を壊してはいけないからね」という返事が返ってきます。これらの写真は先生が許可したものでしょうか。ナルシシストで人一倍見た目を気にする先生が、このようなひどい写真を許可するとは思えませんでした。

 多くの記事には、趣味の車をはじめ、放蕩(ほうとう)を繰り返していたと書かれていますが事実とは異なります。日頃、乗り回していたのは「SLクラス・ベンツ500SL」です。コレクションは昔のこと。すでに走らない車もありました。

 教室に日本刀を持ち込んだり、貴金属や札束を見せつけるパフォーマンスのことを書かれている記事がありますが、裏を取ったのでしょうか。刀はダイカストの模造品。常識で考えれば分かることです。貴金属や札束を見せつけるパフォーマンスは、バブル期にお金をばらまくことで注目を集めた消費者金融社長、杉山治夫氏をまねしたものです。

 今でも、探せばいくつも動画が出てきますが、これは、ミッキー安川さんとの打ち合わせによるヤラセです。同じような派手なシチュエーションで撮影をお願いしたいとオーダーがあったと言われていました。

 晩年、先生が苦労された理由は他にあると考えています。それはタカリです。日常的なタカリが多かったと聞いたことがあります。筆者も知人の経営者など数人を引き合わせたことがありました。時には、イベントに出演してフィーを踏み倒されることがあったようです。先生は案件の吟味や金銭的な交渉が苦手でした。

 テレビなどでも「懐かしのあの人」のような番組で取り上げられることがありました。しかし、ギャラを支払ってくれないという話を聞いたことがあります。先生は見た目とは異なり、優しい性格でもめ事を嫌う性分でした。

先生の死から何を学べばいいのか

 記事によると、先生は「生活保護を受けながら食事はほとんど取らない」「口にするのは焼酎とたばこくらいで、アルコール度数20度の焼酎を朝も夜も飲んでいる」「体中が痛い、早く死ねたらいい」などと語られているとあります。さらに、デイケアの方が週2回、身の回りの物を片付けてくれるだけと書かれています。

 先生は大病を患った後、禁煙、禁酒、食事節制をしていました。そう考えれば、アルコール依存に陥っていたことが容易に推測できます。ここで2つの疑問が残ります。

(1)担当ワーカーは必要な処置をしていたのか?
(2)周囲は単に放置していただけではないのか?

 つまり、適切な支援があれば「救うことができたのではないか」という視点です。先生のみじめな姿をクローズアップしたあおり記事が目立ちましたが、助けられる命を見捨てている「社会構造の愚」こそ、取り上げるべきだったのではないでしょうか。治療できる病院につないでいたら、68歳で孤独死を迎えることにはならなかったと思います。

 ニュースによると、デイサービスのスタッフが、冷たくなって倒れている姿を自宅で見つけ、警察が死亡を確認したとあります。私たちは、先生の孤独死から何を学べばいいのでしょうか。

 先生とホテルオークラや赤プリの旧館で、エビフライオムライスを食べたことを懐かしく思います。「尾藤君、エビフライはカラッと揚げすぎちゃ駄目なんだ。風味が消えちゃうからね」。筆者は、アスカ王国という障害者支援団体を運営しています。先生は社会福祉に造詣が深く、障害者支援活動にもご理解を頂きました。謹んで哀悼の意を表します。先生、安らかにお眠りください。

コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員 尾藤克之

故・佐藤忠志さん(角新一さん提供)