スカートとひと括りにいっても、世の中にあるのは人間が使う布製のものだけではありません。戦車も鋼鉄製やゴム製のものを着用します。ファッションやデザインのためではない、戦うために用いるスカート、どんな意味があるのでしょう。

スカートをはく理由は色々あり

「スカート」。この単語は、一般的にはおもに女性が着用する筒状の衣類を指す単語です。しかし専門用語では広義で使われることがあり、鉄道車両が脱線防止を目的に、レールの上に置かれた障害物を排除するために前面下部に取り付けている「排障器」もスカートと呼ばれます。

戦車にもスカートと呼ばれる部分があります。戦車のスカートは車体左右に取り付けられていることから、「サイドスカート」と呼ばれることもあります。

サイドスカートを取り付ける意味合いにはいくつかあり、車体前面や砲塔よりも防御力の低い車体側面を守り、履帯(いわゆるキャタピラ)や転輪(履帯のなかの円形の部品)などの足回り部分が攻撃されて走行不能に陥るのを防ぐほかに、履帯や転輪が放出する赤外線を抑制するという理由もあります。

履帯や転輪は戦車の機動力を支える重要な箇所であり、当然ですが戦車が走っているときは絶えず動いています。そのため、履帯や転輪は摩擦熱によって熱を帯びやすく、赤外線を感知する暗視装置や照準装置で捉えやすくなります。その赤外線の探知をしにくくするカバーという意味もサイドスカートにはあります。

なお、サイドスカートを付けた車体の場合、泥濘地や積雪地を走ると、サイドスカートの内側に泥や雪が詰まりやすいです。これらが詰まると履帯の脱落や変形、破損の原因となるため、そういった場所を走る際は、あらかじめサイドスカートを外しておくこともあります。

またサイドスカートの中にものが詰まる以外にも、岩などにぶつけてサイドスカートが曲がることもあります。内側に曲がればサイドスカート自体が履帯や転輪の動きを阻害する障害物となってしまいます。乗員が気付かない間に外れてしまうこともあるでしょう。そういったことを未然に防ぐためにも、あらかじめ外してしまうことがあります。

スカートの厚さは防御力と整備性の天秤で決まる

他方で、サイドスカートもぶ厚くしたり、複合装甲を挟み込めば防御力を高めることはできます。しかし当然、防御力を高めようとすれば重くなります。

サイドスカートは、点検や整備の際は、跳ね上げたり外したりすることの多い部分です。特に状況によっては人力でそれらを行う場合もあります。あまり重たくしてしまうと、今度は保守整備の面で問題となってしまいます。

そのため、サイドスカートひとつとっても国によって考え方が異なり、ぶ厚いものを取り付けている戦車もあれば、被弾しやすい前方のみぶ厚くし残りは薄いままの車両、不整地を走ることが多いため、脱着しやすくコストもかからないゴムの小さいもので済ますものなど、さまざまです。

陸上自衛隊では90式戦車で初めてサイドスカートを装着するようになりましたが、90式戦車は鋼板だけだったのに対し、その後登場した10式戦車では上半分が鋼板、下半分がゴムのハイブリッドとなっています。

なぜ10式戦車は鋼板とゴムの混用なのかというと、サイドスカートは大きくした方が防御力や赤外線抑制効果は高まりますが、あまり大きくすると、今度は地面と接触しやすくなってしまうため、その点を踏まえて下半分をゴムにしているのです。そのためゴムスカートの部分は防御のためよりも赤外線抑制の意味合いの方が強いです。

戦車は足元をさらすと思わぬ危険が待っています。そのため、スカートのめくれ上がりには気を付けています。

自衛隊の10式戦車。鋼板製のサイドスカートの下にゴムスカートを付けている(2013年8月、柘植優介撮影)。