2010年エクアドルで見つかった麻薬密輸潜水艦
photo by DEA (Public Domaiin)

 先日スペイン・ガリシア地方でコカイン3000キロ分を積載した「手作りレベル」の潜水艦が治安警察によって摘発されたことを寄稿した。

 152個の包みに分けられた3トン分のコカインを積んだ「潜水艦」は、南米コロンビアを出向してアフリカのカーボベルデから北上してポルトガルからガリシア地方に向かっった。実に20日間の航海だったという。警察の監視の届かない海上で積荷のコカインをガリシアのカルテルに渡す予定であった。ところが、時化でそれが不可能となり、しかもエンジンも不調で燃料も残り少なくなっていた。ということで、仕方なくアルダン港に向かいその河口に入ったところで待機していた治安警察に発見されたのであった。摘発を恐れて、1億ユーロ(118億円)の価値あるコカインを積んでいた潜水艦を沈没させたが、結局それも引き揚げられお縄になったわけだ。(参照:「EL Mundo」、「La Razon」)

◆「密輸用潜水艦」増加の背後にレーダー性能向上
 アメリカの海上では今世紀に入ってからレーダーシステムの性能が向上して麻薬密輸艇の発見がより容易となっている。それに対抗して、発見され難い麻薬を積んだ潜水艦の航行が南米や中米から米国に向けて頻繁となって行った。

 当初、Big Footと呼ばれていた麻薬潜水艦は一般には噂の域を出ることはなかった。それが初めて一般に姿を現したのは2006年のことであった。コスタリカの沖合160キロの所でそれが摘発されたのであった。

 ちなみに、米国への密輸の場合、陸上から密輸送するよりも海上からの密輸の方が摘発される回数は陸送の3分の1だという。(参照:「Infobae」)

◆密輸用潜水艦、元祖はコロンビアカルテ
 最初に潜水艦に麻薬を積んでの密輸をプラニングしたのはコロンビアカルテル・ゴルフであった。そのリーダーダビッ・ウスガ(通称オトニエル)という人物で、コロンビア革命軍の分派である解放人民軍のメンバーだった。オトニエルは潜水艦を建造するのに人がアクセスするのに難しい所としてガイアナとスリナムを選んだ。建造にはエンジニアとしてロシア人とコロンビア人の技師を集めた。もともとコロンビアの革命軍は旧ソビエトとの関係が深ったということから現在のロシアとは接触がありロシア人技師を招聘したということだった。

 北米に密輸するにはそれほど大きな潜水艦は必要なかった。全長14-15メートルで十分だった。しかし、ヨーロッパに密輸するには大西洋を横断する必要がある。しかも、建造費や採算性を考慮すると麻薬を6000キロまでは密輸できなければならない。その為にエンジン2000馬力で25日前後の航海ができることが必須となった。
 速力は8ノット(時速15キロ)、乗務員は3-4人、胴体などは繊維強化樹脂を使用した。建造費は150万から200万ユーロ(1億7700万―2億3600万円)で、1回使用しただけで潜水艦は放棄された。500ユーロ(6億円)を少し切るだけの潜水艦の建造もあるという。積載した麻薬をすべて販売すればその莫大な売上から1回使用するだけで採算に乗るのだ。

潜水艦使い捨てカナリア諸島には「麻薬潜水艦墓場」が!?
 高額な建造費をかけてでも使い捨て潜水艦を作る理由は、コカイン売買がそれだけの利益を生むからだ。
 例えば、コロンビア辺りからメキシコに送られるだけでも価格は500%高い相場になっているそうだ。それが米国の主要都市ではさらに70%以上の値上がりをするのである。単価がもともと高いので、密売業者には莫大な利益がもたらされることになる。それはヨーロッパに密輸する場合も同様だ。

 使い捨てである為、カナリア諸島やアゾレス諸島あたりには1回航海しただけの潜水艦が15-20隻沈められて放棄された墓場があるはずだと専門家は見ているという。

 海中を航海するだけの水圧には耐える構造にはなっておらず、水面から1メール下のあたりを航海するような構造で、潜望鏡もひとつ付いているだけで海面上で起きていることをチェックして危険を避けるための役目だけだ。レーダーで検出されることは容易ではないとしている。そのサイズからクジラと混同されることがあるそうだ。(参照:「La Razon」、「Clarin」)

◆乗組員にとっては「死と隣り合わせ」
 しかし、乗務員にとっては死との戦いなのである。この潜水艦の元乗務員で現在懲役27年の刑に服しているある人物がウニビシオン(米国でスペイン語の最大テレビ放送)のインタビューに次ぎのような回答をしている。

 (艦内では)殆ど呼吸できないような状況だという。彼の兄弟のひとりは艦内の水圧と暑さで心臓発作を起こして亡くなった。乗務員の大半は漁師だそうだ。漁ではひと月200ドルしか稼げないのが、この潜水艦での航海だと機関士は2万5000ドル(270万円)で一般の航海士は1万ドル(110万円)稼げる。しかも、信頼されていれば50%前金を貰える。

 また、海上で麻薬の荷受けの仕事をする場合も一日に400-500ドル(43000円ー54000円)稼げる。漁師だと漁でひと月働いてもこれだけのお金は稼げない。
 しかし、危険性は2倍だ。警察に見つかれば実刑の判決が下り、カルテルからは完全に見放されることになる。

 また、別の元乗務員はこの航海にも汚職が蔓延っており、刑務所に服役中のカルテルのリーダーだと、いつ密輸が実施されるといったことを警察に密告。そのようにして、自らの刑を軽減してもらうのだそうだ。(参照:「Infobae」)

 南米からの麻薬のヨーロッパでの最大密入国はベルギーオランダスペインだ。スペインで最初に麻薬の受け入れ地域として発展したのがガリシア地方である。それを示すように今回の潜水艦事件が起きたのももガリシアだった。

<文・白石和幸>

【白石和幸】
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント1973年スペインバレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

2010年にエクアドルで見つかった麻薬密輸潜水艦 photo by DEA (Public Domaiin)