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ハイチューンのビートル・エンジンサウンド

text:Greg Macleman(グレッグ・マクレマン)
photo: Olgun Kordal(オルガンコーダル)/Adelino Dinis(アデリノ・ディニス)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
美しくレストアされたWDデンゼル1300のダッシュボードの下には、ラリー用のハルダ・スピードパイロットタイマーが見える。クルマの戦歴を裏付ける。でも繊細なドアハンドルや窓用のハンドルなど、すべてが上品にまとまっている。

ペダル類も同様だが、軽く扱いやすい。オルガンタイプアクセルペダルは、MDFボードのような集成木材でできているようだ。

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WDデンゼル1300

WDデンゼルはどこかキットカーにも思える。バラバラの部品で購入し、ガレージで夜な夜な組み立てたクルマのような雰囲気がある。反面、細部への配慮には感心する。ボンネットのヒンジは精巧に作られたアルミニウム性で、軽量化のために複数の穴が空いている。WDのロゴがレブカウンタースピードメーターの両方にあしらわれている。

エンジンを始動させよう。アクセルペダルを数回踏み込んで、ソレックス・キャブレターガソリンを送る。小さなデンゼルは2度めのクランキングで目を覚ます。フォルクスワーゲン製のフラット4らしいビートが周囲を満たすが、独特の低音の響きが引き上げられた性能を教えてくれる。

エンジンが冷えている間はアクセルを少し踏んで、ガソリンを送り続ける必要がある。温まってしまえば、少しリラックスした、にぎやかなアイドリングに落ち着く。

乾燥した砂っぽい景色が視界に広がる。1955年の、カリフォルニア・ウィロー・スプリングスにいるように思えてくるが、ここはポルトガル・リスボンの南。にぎやかな都市部から1時間ほど離れ、周囲の丘陵地帯にはコルクの木が立ち並ぶ。深い緑色の葉が、黄土色の地面と美しいコントラストを作る。

すべてが軽快なWDデンゼル1300

大きな農場の間を走っていく。狭くカーブの続く道が網の目のように広がっている。クルマも殆ど走っていないから、古いレーサーがどんな走りをするのか確かめる絶好の条件。

トランスミッションマニュアル。変速フィールは、ずっとカシっとしているが、驚くほどビートルの雰囲気を残している。オリジナルなのかレストアによるものなのかは不明だが、ストロークは短く、とてもタイトな手応えで印象が良い。

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WDデンゼル1300

クラッチの踏力も含めてすべてが軽快なWDデンゼル1300。生粋のレーシングスポーツカーなのに、スムーズな発進も楽勝でできる。空冷エンジンは回転が早くなるにつれ、叫びもうるさくなる。ツインキャブレターの呼吸音と隔てているのは、薄いエンジンカバーだけ。

すべての路面の凹凸や起伏が、フロアを通じて伝わってくる。フロントタイヤに掛かる荷重は少なく、ホイールの幅は5Jと狭いから、羽のようにステアリングが軽いのもうなずける。こんなコンビネーションを持つクルマは、他にはない。

だがステアリングフィールの素晴らしさには驚かされた。ロックトゥロック2.6回転とクイックなレシを持ち、ダイレクト感はアルピーヌA110のようだ。ビスケットの缶のようなクルマの構造と、道の両脇に絶え間なく続くオリーブの木が生えているにも関わらず、コーナーを攻め込んでいこうという自信が湧いてくる。

当時の戦闘力の高さを物語る走り

バランスは素晴らしく、オーバーステア状態になるまで想像通りにボディはロールする。フォルクスワーゲン製を含む、すべての部品を組み合わせた以上の仕上りを持っている。

このWDデンゼル1300は、名門サザビーズのオークションで推定45万ユーロ(5400万円)の上限値が付いている。その事実が、限界付近まで確かめたい気持ちを抑え込む。だがデンゼルはそう簡単に手に負えなくはならなそうだ。

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WDデンゼル1300

加速も鋭く、同調するように素晴らしいサウンドトラックが楽しめる。イキイキとしたパフォーマンスがWDデンゼル1300のトレードマーク。長い時間運転するほどに、引き出せるポテンシャルが高まっていくのがわかる。

爽やかな晩夏の風が吹く夕刻に、傾いた太陽に向かってロードスターを走らせる。現役時代、ドライバーがどんな心持ちを抱いていたのか、オーバーラップする。このコンパクトでしなやかなスポーツカーが、タイトなストリートコースラリーステージで、どれだけ戦闘力が高かったのかも理解できた。

モータースポーツでの優れた成績や素晴らしい走行性能に、愛らしいスタイリング。これだけのクルマでありながら、現役時代にデンゼルが構えるウィーンワークショップに立ち寄る人はとても少なかった。歴史の不思議さでもある。

デンゼルのロードスターが何台製造されたのか、正確な数は明らかにはなっていない。推定で350台という人もいれば、わずかに65台と考えている人もいる。だが、現状の残存台数の少なさを考えると、65台の方が信憑性が高い。

生産台数はわずかに65台という希少性

いま確認されているクルマは35台で、ヨーロッパアメリカに分布している。ポルシェ356スピードスターは数千台は製造されているから、その希少性は相当なものだ。

デンゼルは世界的な認知を得られなかっただけでなく、オーストリアに当時いたポルシェに対しても成功は収めることはできなかった。だがこのまま忘れ去られるのは、正しいことではない。

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WDデンゼル1300

精巧に作られたクルマは、ライバルモデルを何度も実践の場で打ち破っている。可能性を秘めたプロジェクトに心動かされたポルトガルのヘレディアには、輸入業者になる自信まで持たせた。

結果的にデンゼルの計画は道半ばで終わる。フォルクスワーゲンビートルエンジンの限界が見えたこともあっただろう。だが、ヴォルフガング・デンゼル自信の関心が薄れたことも関係している。

デンゼルは、1952年オーストリアBMWの正規輸入業者となったのだ。そしてBMWとの密接な関係を築き、BMW 700の設計から生産にも関わることになる。そちらは、彼自身の人生を大きく変えたクルマになった。

これも、歴史の面白いところでもある。

WDデンゼル1300(1949〜1959年)のスペック

価格:1949年時 4695ポンド(50万円)/現在 38万ポンド(5320万円)以下
生産台数:65台(予想)
全長:3607mm
全幅:1620mm
全高:1200mm
最高速度:164km/h
0-96km/h加速:13.7秒
燃費:13.1km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:641kg
パワートレイン水平対向4気筒1281cc
使用燃料:ガソリン
最高出力:74ps/5400rpm
最大トルク:9.7kg-m/4400rpm
ギアボックス:4速マニュアル


■WDデンゼル1300の記事
WDデンゼル1300

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