野の花屋

東京(今回は埼玉)には、オアシスのような花屋がたくさんあります。
なぜ仕事として花屋を選んだのか、日々どんな思いで草花や客と向き合っているのか。

注目の花屋を作家・エッセイストの大平一枝さんがたずね歩きます。

(取材・文/大平一枝 撮影/佐々木孝憲

オアシスのような埼玉の花屋/野の花屋

グリーンも、花のように大事に扱う花屋の心情

野の花屋

グリーンの中に、控えめな色合いの花が点在します。グリーンにも多様な濃淡が。キャビネットなどの備品は古道具屋で買うことが多いそう

「28年前の創業時は、陸の孤島と呼ばれていたエリアでアクセスが悪く、駅からも遠い。花屋もカフェも1軒もなかったそうです」と、野の花屋スタッフ5年目の笹森一成さんは語る。

向かいに建つカフェ・シバケンも営む。斜め向かいには戸田文化会館を要する広大な後谷公園が。

後谷公園

店舗から、通りの向こうの後谷公園を望んだところ

「春の桜から新緑、紅葉、冬の落葉まで、公園だけでも豊かな四季があります。オーナーはあの公園がなければ花屋をしていなかったと言います。だから、店もこの緑の景観を邪魔してはいけない。街の脇役として、遠くから見てもほっとできるような空間にしたいという思いから、緑の草花を多く扱っています」。

ビバーナム・スノーボール

笹森さんに好きな花を尋ねると、ビバーナム・スノーボールとのこと。「主役ではない、控えめな脇役の花、特に今は緑色の花に惹かれます。夏前に花を咲かせる爽やかなライムグリーンが特徴。咲き進むと、やがて白に変化します」

たしかに軒先にも、鮮やかな色の花がない。ユーカリ、オリーブ、ミモザ、あじさいかすみ草など、緑を中心に淡い色の草花が並ぶ。しかし同じ緑でも、明るさの濃淡や質感が多様で、眺めていて飽きない。

笹森さんには入店間もなく言われたオーナーの言葉が今も胸にある。

「花という字は草が化けると書く。花と同じようにグリーンも大事に挿しなさい」。花持ちが悪くなるので、花用冷蔵庫はない。創業時、そういう店は少なかった。

「花のためにもお客さまのためにも、自然な状態がいい。冷蔵庫がない代わりに、花の質は厳しく見極めて仕入れています」でしゃばらず。さりげなく。街にとけ込む花屋の、厳しい矜持とぶれない信念が、28年の歳月を支えている。

カスミソウ

ドライのかすみ草。花のスペースと、花器など雑貨スペース(奥)に分かれています

乾燥中の草花

乾燥中の草花。手前の白い葉は白妙菊。ビロードのような風合いで、通年楽しめる

リース

リースのワークショップを定期的に開催。壁の漆喰はDIYで仕上げてある

ブーケ

ブーケも緑が多め

ブーケ

星型の小花が愛らしいスターチースのブーケ

カフェ

向かいに建つカフェ・シバケンも経営している

野の花屋
adress 埼玉県戸田市上戸田2-32-15
open 10:00 〜19:00 火曜休
telephone* 048・432・8387

cafe shibaken(カフェ シバケン)
adress 埼玉県戸田市上戸田1-17-13
open 11:00 〜18:00(L.O17:30
火曜
telephone* 048・434・0315

※この記事は「リライフプラスvol.29」掲載時のものです。

_SSK8589