春海「周りは着々と動き出してますねえ」
満「今に見てろよ。なーんつって」

11月30日(土)放送の土曜ドラマ 『俺の話は長い』日本テレビ系)第8話。

連続ドラマの8話目というと、クライマックスに向けた大きな前進や転換があることも多い。でも、満(生田斗真)たちは違う。一歩進んで二歩下がり、また一歩進んだような回だった。

房枝(原田美枝子)の「変わらないもの」にする力
前半の「其の十五『ゆで卵と福引き』」では、房枝(原田美枝子)をめぐって牧本(西村まさ彦)と檀野(長谷川初範)が満たち家族に接触してきた。

高い鉄板焼きをご馳走になって檀野の味方をする綾子(小池栄子)と光司(安田顕)。鉄板焼きに連れて行ってもらえず、好物の蟹を食べられなくて怒る春海(清原果耶)。一方、満は牧本とおでんを食べながら話をしていた。

牧本「俺はポラリスに通えなくなるのが怖いんだよ。あそこの常連でいられなくなることの方が、何倍もつらいんだ」
満「行きづらくなったら他の喫茶店行けばいいでしょう。近所にうちよりおいしい店たくさんあるから」
牧本「おいしいコーヒーが飲みたいんじゃないんだよ。いつものコーヒーが飲みたいんだ。お前だって自分で店やってたんだから、わかるだろう」

牧本は、房枝が切り盛りする喫茶店ポラリス」の常連客。自分も恋愛関係のごたごたがあって行きつけのバー「クラッチ」に行きづらくなっていた満は、牧本の気持ちに思うところがあったのかもしれない。牧本を応援するわけではないが、檀野が房枝と上手くいかないように、綾子たちに屁理屈を言い出す。

これで房枝が牧本か檀野かどちらかを選ぶ、とならないのが、肩透かしのようでもあり安心感でもある。房枝は、檀野を「ただの客」と言い、牧本のことは「大切なお客さん」と言った。

光司「ただの客より上ってことですか?」
房枝「上も下も別にないけど、私が店を閉めるまでカウンターに座っててくれないと困る人」
満「ふうん、意外と大事に思ってんだね」
房枝「だって、長い付き合いだからね」

変わってほしい、ドラマが起こってほしいと思う一方で、変わらないでいてほしいと思うものもある。房枝は牧本や檀野の恋心を知っていながらも、二人を上手く「変わらないもの」の方に誘導していた。最近は綾子の影響で満に厳しいところもあるが、元々はニートの満をそのままにしてあげていたのも房枝だ。

前回、満は実家を充電できる場として「ルンバの基地」と例えていた。基地がいつもドラマチックで荒れていたら困る。上手に上手に安心感を作り出す、房枝のような「魔性」が家庭にはある。高級車や高級鉄板焼きよりも、商店街の福引きで当たった3等のエステ券のほうに喜んで鼻歌を歌う房枝が可愛らしい。

「出世 出世払い〜」綾子の財布からお金借りる歌
満「同じニートとしてあっという間に追い抜かれそうな勢いだね」
綾子「当たり前でしょ。元々、ニートとしてのポテンシャルは光司の方が上なんだから」
満「それは何の自慢なの?」
綾子「リフォームが終わるまでゆっくりしてればいいのよ。どうせ向こうに戻ったら働かなきゃって気分になるんだから」

「第8話 其の十六『ミカンとコタツ』」では、無職の光司がすっかりニート生活に馴染んでいた。光司は檀野に紹介されて確実に採用されると言われていた議員秘書の仕事を断られ、他の面接も落ちてしまっていた。

満と同じグレーのスウェットを着て、満を手伝いこたつを出してみかんを食べる。光司はみかんの房の皮は食べたくないのだが、綾子に怒られるから普段は我慢して食べている。それが積み重なり、過去に『自由にみかん食わせろ』という歌を作ったことまであるという。

光司と満が『ニートブラザーズ』という歌を作って歌っているところに、春海が帰ってきた。

春海「光司さん、あれ覚えてる? お母さんの財布からお金借りる歌」

どんなだったっけと言う光司に、春海はアカペラで『お母さんの財布からお金借りる歌』を歌ってみせる。これまで、綾子や房枝が「春海と光司は結婚前は仲が良かった」と言っていたのをあまり信じられていなかった。でも、春海が歌詞を完璧に覚え、笑って歌っているだけで、それは紛れもない真実になった。

「綾子の財布は魅力的 小銭でいつもふくれてる
 100円とっても気づかない 春海も10円くすねたよ」

光司が自分の名前を歌に入れてくれたことを、幼い春海が喜んでいる様子が目に浮かぶようだ。

「出世 出世払い 出世 出世払い
 借りてるだけだよ 明日にゃ返すさ

 出世 出世払い 出世 出世払い
 返せなかったら バイクで逃げるぜ

 出世 出世払い 出世 出世払い
 ちょっとだけ待ってろ 奇跡を起こすぜ」

厳しいお母さん・綾子に隠れて、悪いことを一緒に楽しんでくれる大人。光司にも満にもそういうところがあり、春海が懐くのもまた納得。

クラッチでの満と綾子の会話で、春海の父親はある日離婚届を置いていなくなってしまったことが語られていた。春海はどうして父親がいなくなったのか理解できなかったかもしれない。父親からもらったラジカセを使い続けていたのは、もう帰ってこないのだろうかという疑問を捨てきれなかったからだろうか。

その後、春海は満とリサイクルショップに行きラジカセを売る。そして、光司に新しいラジカセを買ってもらった。父親への気持ちを断ち切ったという意味で一歩前進のようでもあり、光司との思い出を取り戻したという意味では昔に戻ったとも見える。

房枝は再婚の気はなく、満と光司はニートに戻り、綾子が家計を支えて、春海は陸(水沢林太郎)と上手く話せなくなる。状況は変わらないどころか、昔に戻ってしまっている。

でも、人から何かをもらったり、好きな場所でお酒を飲めたり、ジグソーパズルを完成させたり、卵の黄身が2つ入っていたりと嬉しいことがある。変わらないことが幸せなのではなく、変わらない中で幸せな点を発見していくことが嬉しい。そんな気分に立ち返る8話だった。

(むらたえりか

=配信サイト=
huluhttps://www.hulu.jp/orebana
日テレ無料!(TADA):https://cu.ntv.co.jp/orebana_01-01/

=番組情報=
土曜ドラマ 『俺の話は長い』日本テレビ系
毎週土曜日よる10時〜
出演:生田斗真安田顕小池栄子清原果耶杉野遥亮、水沢林太郎、浜谷健司(ハマカーン)、本多力、きなり、西村まさ彦、原田美枝子、ほか
脚本:金子茂樹
音楽:得田真裕
主題歌:関ジャニ∞「友よ」(インフィニティ・レコーズ)
コーヒー指導・監修:篠崎好治
動物指導:ZOO動物プロ
国語指導:藤本裕子
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:櫨山裕子、秋元孝之
演出:中島悟 ほか
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
番組公式サイト:https://www.ntv.co.jp/orebana/

イラスト/たけだあや