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エンジンを換装する理由

text:Takuo Yoshida(吉田拓生)
photo:Satoshi Kamimura(神村 聖)

総生産台数は8000台だが、わが国に輸入されたBMW Z1の数は100台あるのだろうか。今回出会ったZ1は1989年式なので、並行輸入された個体ということになる。

【画像】日本にあった! BMW Z1【ディテール】 全30枚

その希少性やパーツ供給の難しさを考えればガレージにしまい込んでしまうオーナーも少なくないと思われる。

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この時代に既にリトラクタブルでないヘッドランプにも先見性が感じられる。キドニーグリルバンパーと同化しており控えめな印象。微かなブリスターフェンダーがグラマラスなシェイプを作り出す。

しかし今回の撮影車のオーナーである張建中さんのアプローチは違っている。

外観ではホイールがインチアップされていることが特徴になっているが、中身はそれ以上のモディファイが込められている。

なんと2.5Lの直6からアルピナB3 3.3(E46)用の3.3Lの直6に換装されているのである。自然吸気のまま、最高出力は170psから一気に285psあたりまで引き上げられていることになる。

BMW Z1を一度でもドライブしたことがあれば、今回の個体がエンジンを換装している事実に納得がいくはず。

というのも、徹底的に作りこまれたZ1のシャシーは潜在能力がとても高く、これに対して325iから流用されたエンジンのパワーは心許ない。

このため90年代には、数多くのチューナーがZ1のためのチューンを用意していたほどなのである。

ドアを開けた状態こそ「正装」

鍵穴を親指で強く押し込むと、バスッという大き目の音ともにドアが開く。開くというよりガラスはドアの中に、ドアは分厚いサイドシルの中に一気に吸い込まれる感じ。

そのサイドシルを跨ぐために高く脚を上げ、洞窟のように暗いフットボックスの中に差し入れるわけだが、Z1より乗り降りが難しいクルマは珍しいかもしれない。

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3シリーズのコンポーネンツを散りばめてはいるが、専用設計のインテリア。Z1専用の端正なステアリングは人気が高い。スペースがないためエアコンは装備していなかった。

幌が掛けられていればその難易度はさらに上がるはずだ。

Z1のインテリアは80年代のE30 3シリーズの空気感で満たされている。それでもサイドシルとセンタートンネルの隙間にピタリと収まったバケットシートにハマってみると「自分は今特別なクルマに乗っている!」という興奮が襲ってくる。

特に降ろされたままのドアと、そこから見える道端の雑草が、まるでケーターハムにでも乗っているような解放感をもたらしてくれる。

そう、Z1はドアを開けたまま走ることが正装なのだ。それはまるで戦前や戦後すぐの、ドアを外すことができたオープンカーのように。

さっそく走り出してみる。第一印象はかつてドライブしたときと同じ。表現が昭和の子供っぽくて恐縮なのだが「これは超合金だ!」と今回も思ってしまった。

これこそZ1のあるべき姿?

Z1の骨格は鋼材から削り出したように硬い。

そしてボディのサイズ感に比べ異様に重く感じられるので超合金っぽさが漂うのだ。

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厚みがあって端正なテールエンドも秀逸。Aピラーはモノコックシャシーと完全に一体化され強度を確保している。今回の撮影個体のホイールはインチアップされているが違和感はない。

それもそのはず、Z1は実験車のようなオーバースペックのシャシーにやはり実験的な装備を満載し、それをバキューム圧縮したような密度感で構成されている。

ロータスエリーゼに大人4人乗った感じ。というのはあり得ない話だが、大げさに言えばそんな感じだ。

だが今回の個体は、その重さを解消する術がある。

エンジンルームから溢れ出しそうなアルピナ・ユニットだ。スロットルのひと踏みでドンッという強烈な、Z1の巌のようなシャシーに相応しい加速が襲ってくる。

以前ノーマルのZ1に乗せてもらったときには、エンジンをレブリミット寸前まで回さないと楽しめないと思いつつ、借りたクルマでそんなことができるはずもなかった。

だが今回の試乗体験は素晴らしかった。マッスルカーのようにパワフルで、ハンドリングも自由自在。これこそ開発者が思い描いていた真のZ1像なのだと思う。

実験車が販売されることは皆無だが、Z1の実像はそれに近い。

この突発的な事象は、ネオヒストリックの中心にあった華やかな時代が生み落としたものに違いない。


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