直線が長いタイの道路では飛ばして運転する人も多い

◆タイでの運転、左側通行なので馴染みやすいと思いきや……
 日本人居住者や観光客が多い東南アジアのタイの道路は日本と同じように左側通行になっている。走っている車も軍用や特別な車両でない限り、欧米車でも右ハンドルばかりだ。
 そのため、ベトナムなど右側通行の国だと慣れるまでに時間がかかるが、タイならそのあたりの感覚は日本のままでいいので、日本人には馴染みやすい。道路標識も世界的に共通するものが多いので、右側通行の国よりはわかりやすい。そのため、旅行者がタイで車を運転することも、思っているほどは難しくはない。日本人は日本で国際免許証を発行して所持していればタイでの運転は可能だ。

 ただ、気をつけたいのは、車の運転に関するマナーや常識、道路交通法が日本とは違う点だ。

 たとえば首都バンコクなら、大通りや高速道路が時間帯によって中央分離帯を越えて反対方向の車が走ってくる。つまり、片側4車線の場合、朝夕の渋滞時にどちらかのひとつのレーンを反対方向にして、片側3車線・片側5車線にしてしまう。これを知らないと、道路を半分まで渡って安心して進んだら見ていない方向から跳ね飛ばされる可能性があることだ。タイは過失割合が10:0という判定がよくあり、このケースだと歩行者が悪いとなってしまう。

 また、合図に関する違いもある。日本ならありがとうを意味してハザードを出すことがあるがタイにはそのマナーはなく、信号のない交差点などではたびたびハザードがたかれる。右でも左でもない、だから「直進する」という合図だ。このように日本にはないルールマナー、常識がいくつもある。

バンコク市内にレンタカー会社は少ない

地方の観光地に気軽に行けるので、レンタカーは便利なのだが……

 それでも運転しようという人はレンタカーを借りることになるが、タイでレンタカーを借りるとなると、多くがリゾートや観光地になる。南部のビーチリゾートであるプーケットや北部の古都チェンマイなら市街地から観光地までの移動距離も長く、また交通量も少ないので運転しやすく、外国人が運転することも珍しくない。

バンコクならレンタカー窓口は空港にある

 その一方で、バンコクはそもそも市内にレンタカーが表立ってはほとんど見られない。需要がないというのもあるし、借りる人は到着時に借りてしまうということもあって、空港には特に欧米のレンタカー会社が窓口を構えている。
 しかし、バンコクにまったくレンタカーがないわけでなく、あくまでも表向きには見えにくいだけに過ぎない。それは貸し出しの形態が違うからにほかならない。

◆運転手付きのレンタカーもあるが……
 バンコクではタイ企業のレンタカー会社、欧米企業のほか、日系も存在する。日本のように時間単位あるいは1日単位で料金計算することもあれば、運転手付きというサービスもある。後者を厳密にレンタカーというかどうかは別にしても、多くのレンタカー会社が運転手付きも用意している。

 運転手付きであれば観光客でも手軽に利用できると思うかもしれないが、諸刃の剣で必ずしもメリットばかりとは限らない。というのは、先にも述べたように、タイ人の交通マナーが非常に悪いため、運転手のスキルや一般常識が著しく欠けていることがよくあるのだ。

 タイでは運転手という職業の社会的地位は低い。そのため、ちゃんと学校を出ていなかったり、ほかの仕事には就けなかった人が働いていることも少なくない。バスや長距離バン(小型の長距離バスのようなもの)などを地方の幹線道路で見ると、スピード超過は当たり前で、見通しの悪いカーブで追い抜きをかけるなど、非常に危ない運転をする。実際にバスなどの大事故は年に何度も発生する。

運転手の危険運転で発生する長距離バスの事故はタイでは頻発している

 こういうときに運転手が生き残ることが多々あり、現場から逃走してしまう。これにはふたつの説がある。ひとつは自分が起こした事故にパニックを起こして逃げ出すというもの。もうひとつは、法律の解釈では現行犯逮捕より、一度逃走してでものちに自首した方が減刑の事由になるからだという。後者はあくまでも噂の範疇なのだが。

 いずれにしても、運転中に乗客の命を守るという自覚は彼らにない。日系のある大企業では工場勤務の駐在員のために運転手を何人も雇っていたが、ある日曜日に社内ゴルフコンペがあり、駐車場で待機中に運転手たちは酒盛りをしたという。その帰り、1台の運転手が居眠りをし、ノーブレーキで立ち木に激突し、日本人駐在員は全治数ヶ月の重傷だった。日系とはいえ、タイに進出して数十年のため、細かなオペレーションはタイ人任せだったこともあるだろう。後日、運転手たちは全員解雇になった。

スクールバスも全然安心できない!
 筆者はタイ人の妻を持ち、子どももタイの学校に通わせている。私立校ではあるものの、スクールバス運転手の道路逆走や追突事故が相次いでいて、とても任せられるものではなく、自分たちで送り迎えをしている。極端な話、タイの自動車保険は対人よりも対物の方が最大支払額が大きいくらいなので、命が安いという怖さがあるのだ。

 とはいっても、運転手付きレンタカーはタイに慣れていない人には大きなメリットだ。好きなところに行けるし、気になった場所で停めてもらって見学ができる。商業施設や観光地は駐車場そのものが混雑していることもあるが、運転手付きなら入り口に送り迎えしてもらって、時間短縮にも繋がる。

 では、運転手付きレンタカーを安全に借りる方法はないのだろうか。

◆安全な運転手付きレンタカーはこう探せ
 運転手付きレンタカーを安全に借りる方法は、なんといっても日系の会社で手配することだ。もちろん100%とは言えないものの、日本人がどこに注目するかを把握しているので、なによりも安全運転することを強く指導していることが多い。筆者も先日、知人の旅行代理店で車を手配したが、逆にイライラするほど安全運転で、日本から来た人たちが危険を感じることなく観光できたのでよかった。

 日系のレンタカー会社や旅行代理店が手配している車は、必ずしもその会社が所有する車とは限らない。タイではトヨタハイエースなどを買い、運転手付きのレンタカーの下請けとして働く個人事業者のような運転手がたくさんいる。タイ系の会社だと指導しないと言うよりも、会社側が安全運転にまで気が回っていない。しかし、日系はしっかりと契約もしているし、指導もしていることが多いので、比較的安心なのだ。

 もちろん、日系の契約・委託運転手でも性格によっては危険運転をすることもある。そういった場合は前の客がクレームを入れているはずなので、危ない運転手は淘汰される傾向にあるとは思う。だから、やはり日系は比較的安全なのだ。

 車だけを借りたいなら、ある程度タイの交通事情がわかって自信がついてからにするべきだろう。ただ、車だけレンタルも気をつけたいことがいくつかある。たとえば、出発前の傷の点検だ。タイ系や欧米系はタイ人従業員がいい加減で適当にしか傷を見ておらず、返却時に揉めることもある。傷があることを出発前に指摘し、従業員も返事したにも関わらず書類を書き忘れ、返却時に違う従業員が担当して修理代を取られたという話もある。

ドンムアン空港のレンタカー窓口で筆者も返却時に傷で揉めたことがある

 とにかく、タイでレンタカーを借りるなら日系の会社から借りることをおすすめする。特に日本人担当者が常駐していたらベストだ。それ以外では自己責任と、自分の英語により交渉力に頼るほかないだろう。

<取材・文・撮影/高田胤臣>

【高田胤臣】
Twitter ID:@NatureNENEAM
たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など

直線が長いタイの道路では飛ばして運転する人も多い