◆東京展に続き、九州展でも三国志は大人気

大盛況の特別展「三国志」。九州展にも、多くの来場者が詰めかけている

 東京国立博物館大盛況のうちに終了した、「日中文化交流協定締結40周年記念 特別展『三国志』」が現在、九州国立博物館で開催中だ(2020年1月5日まで)。

 東京展に続き、この九州展も大盛況だという。九州国立博物館広報課の佐原史哉さんはこう語る。

「現在の来場者数は8万人を突破、おそらく会期終了までに10万人を超える見込みです。これは当館でも1年に1度出るかないかの来場者数です。SNS上にあげられているのを見ると、3回、4回と来てくださっているリピーターの方々も多いようです」

 その関心の高さや知識量には、中国人も驚くほど。なぜ日本人は、これほど三国志が好きなのだろうか? その魅力を、九州展に先がけて行われた東京展での取材から紹介したい。
 
◆「中国の歴史に興味を持ってくれて嬉しい」と中国人来場者

三国志クライマックスである「赤壁の戦い」を再現した展示。無数の矢が頭上に(写真は九州展のもの)

 東京国立博物館で開催されていた特別展「三国志」には、多くの熱狂的な三国志ファンが詰め掛けていた。図録セットの前売券が発売当日に完売したほどの人気だったという。これを中国の人々はどう感じているのか? 東京展の中国人来場者に聞いてみた。

「中国では、春秋戦国時代のように群雄割拠の時代はほかにもあります。物語としても、水滸伝などたくさん有名な作品があります。特に三国志が人気というわけではないんです。でも、日本では三国志は特別な人気があるようで、びっくりします」(王麗さん)

「日本の三国志好きの人たちが、マイナーな武将やたくさんのエピソードまで知っているのに驚きます中国人よりも知識が豊富。でも、中国の歴史にこれだけ興味を持ってくれるというのは嬉しい」(蔡文雄さん)

三国志展の音声ガイドを務める歌手の吉川晃司さんも、三国志をはじめとする中国史の大ファンだという。「人生の岐路に立ったと感じたとき、三国志の登場人物たちの生きざまに学んだ」と語る(※写真は、東京国立博物館でのもの)

 当の中国人でも驚くほどの、日本人三国志愛。これについて、「横山三国志吉川三国志、光栄(現・コーエーテクモゲームス)のゲームNHK人形劇。この4つが、日本人三国志好きに大きな貢献をしたことは間違いないでしょう」と、三国志展を企画した東京国立博物館の市元塁・主任研究員(好きな武将:司馬懿)は解説する。

三国志の物語は、中国では陳寿(ちんじゅ)が著した正史の『三国志』、そして小説の『三国志演義』、さらには関羽が神様として崇められるなど、独自の発展を遂げました。その発展線上として、日本では若年層向けの作品が各分野で発表されてきました。今回の展示ではそれらの作品ともコラボしています」

関羽像。青銅製、明時代・15~16世紀、新郷市博物館蔵(写真は九州展のもの)

 市元さんは三国志の魅力というのは、何といっても『人』です」と語る。

「誰もが魏(ぎ)・蜀(しょく)・呉(ご)のどの国が好きか、どの武将が好きかといったこだわりを持っている。青少年期、他者への興味が高まるときに三国志と出合う。若いときに触れたものは一生モノになりますから。大人になっても楽しめるし、また新たな発見もある。日本人三国志好きは、これからもずっと続いていくのでしょうね」

◆曹操の墓発掘での新発見、歴史がまた変わっていく!?

実寸大で再現された、曹操高陵の墓室(写真は九州展のもの)

 今回の三国志展の目玉は、魏王・曹操(そうそう)が埋葬されていた「曹操高陵」(そうそうこうりょう)の出土品だ。20082009年に発掘されたもので、中国でもまだ一般公開されていないものも多く、非常に貴重なものだという。

 曹操は『三国志演義』などでは後漢最後の皇帝・献帝(けんてい)を利用して権勢をふるった悪人のイメージだが、その出土品からはまた違った人物像が見えてくる。

「今回明らかになったのは『曹操の墓はやはり非常に質素だった』ということ。曹操は『遺体を飾ってはならぬ。金玉珍宝のごとき宝飾品も墓に入れてはならぬ』との遺言を残していたんです」(市元さん)

 その遺言が本当に実行されたのかを確かめるため、研究者たちは出土品に注目していた。

「王であれば着せられるであろう玉衣や、金細工などの副葬品も出てきませんでした。遺言は守られていたのです。出土した鼎(てい)なども、素材は土で高級なものではありませんが、厚さが均質でひずみもなく丁寧に作られていました。曹操は当時としては随一の権力者で第一級の文化人であるにもかかわらず、華美なものを求めない、自律心のある人物だったのかもしれません」(同)

 もう一つの新発見は、白磁の容器が見つかったということだ。白磁とは、白色の粘土に灰を主な成分とする釉薬をかけて高火度で焼き上げた磁器のこと。

2016年に発掘報告書が刊行されて、そこに白磁であると記されていました。それまで白磁は6世紀後半、隋の時代に誕生したと考えられていました。それが曹操の時代に出てきたということになると、一気に300年以上さかのぼることになる。焼き物の歴史や、三国志の時代を理解するにも重要な史料です。中国ではこのほかにも、ここ10年ほどの間に三国志関連の考古研究が進み、新発見が続出しているんです」(同)

◆九州展限定の三国志関連展示、世界最古の『三国志』写本など

三国志』呉志第十二残巻 (部分)。世界に現存する三国志で最古の写本。5世紀の中国・南北朝時代に書き写されたと考えられる。九州では初公開となる

 九州展での展示品は、東京展のものと同じ。しかし「展示の仕方、演出方法は当館オリジナルのもので、東京展に行かれた方も楽しめるかもしれません」(佐原さん)という。

 さらにこの九州展会場の4階では、三国志関連展示「『長崎の関帝信仰』と最古の三国志」も開催中だ(12月22日-日曜日まで)。「曹操の墓から出土した鉄の鏡(未出陳)とよく似ている」と報道された、大分県日田市ダンワラ古墳出土の重要文化財「金銀錯嵌珠龍文鉄鏡」も緊急公開中(2020年1月19日-日曜日まで)。特別展「三国志」の半券で入場できる。

「これは九州展限定のもので、世界最古(5世紀)の『三国志』写本や、近世長崎での関帝信仰の象徴ともいえる興福寺長崎市)の関帝倚像なども展示しています」

 ここ10年の新発見が満載の三国志展。東京展に続き、九州展でも展示物は映像作品を除き、すべて撮影OKだという。これは三国志好きでなくとも行きたくなる!

興福寺長崎市)の関帝倚像。「関帝」とは、三国志の武将・関羽が没後に神格化された存在。江戸時代の長崎では中国から伝わった関帝祭祀が盛んに行われた

<取材・文/北村土龍(好きな武将:魯粛) 写真/鈴木麦(好きな武将:徐庶) 九州国立博物館

関羽像。青銅製、明時代・15~16世紀、新郷市博物館蔵(写真は九州展のもの)