日曜劇場「グランメゾン東京」第7話が12月1日に放送された。

尾花(木村拓哉)のライバルである丹後学(尾上菊之助)の魅力が存分に掘り下げられ、「この先もっと面白くなるじゃん」と確信させてくれる回だった。

料理人の異常な情熱を問題視
トップレストラン50」の発表セレモニーの一週間前、相沢(及川光博)の失踪していた妻・エリーゼ(太田緑ロランス)が突然「グランメゾン東京」に現れた。娘のアメリマノン)をパリに連れ戻しにきたのだ。

アメリを置いて出て行ったのは君だろ!」いつも冷静な相沢が穏やかではいられない。身勝手に失踪したエリーゼだったが、言い分は「相沢は三ツ星を狙うことで家庭をないがしろにした」「今回も子育てと両立できないに決まっている」というものだった。

とんでもなくヤバイ女が来たと思ったが、実際はそうでもなかった。「ミシュランを恨んでる。三ツ星のために料理人はいろんなものを犠牲にしている」と料理人の労働環境を嘆き、尾花とはバチバチながらも、ワインを飲みながら談笑するなど、ところどころで「相沢の嫁として、一緒に『エスコフィユ』を盛り上げる仲間」だったことを匂わせた。

料理人としてではなく、人間としての相沢や尾花のことを思いやっていたのだ。エリーゼは、今作で初めて「料理に全てを注ぐ情熱」を、「過重労働」に置き換える目線を持っていた。

「どの料理もおいしい。それが嫌なの」

エリーゼを説得するため、尾花と相沢はフルコースとオリジナル料理「ガレットシャンピニオン」を振る舞った。しかし、エリーゼはクオリティの高さに感動するのではなく、作るまでにかけた時間が気になってしまう。料理が美味しければ美味しいほど、アメリが寂しい思いをしたことが想像できるのだ。初めて「グランメゾン東京」の料理が否定された瞬間だった。

「グランメゾン東京」では、様々なものを犠牲にしながら料理が作られている。尾花は倫子(鈴木京香)宅の車庫に仮住まいしているし、相沢は娘との時間を十分に取ることができていない。そんな2人の料理への情熱を、エリーゼは問題視したのだ。「情熱を注いでいるのだから仕方ない」と都合よく済ませるのではなく、その一方のリスクをしっかりと描いて視聴者に提供したのは、とてもフェアな脚本と言える。キムタクなら「奇才だから」で最後まで押し切るパワーがあるのに偉い。

相沢が本当の意味で「グランメゾン東京」入り
アメリをパリに連れてってよ。もっと料理がしたいんだ。アメリがいないほうが、僕も料理に打ち込めて助かる。新しいパートナーとの幸せを心から祈っています」

エリーゼを思い、相沢が必死に吐いたセリフはどう見ても強がりだ。だけど、本当はそういう気持ちが少しだけあったのかもしれない。料理とアメリのどちらかを選ぶなんてことはできないが、心のどこかで誰かに決めて欲しかったのかもしれない。アメリが幸せな形で、アメリを気にせずに料理に没頭できる環境を待っていたのかもしれない。時代錯誤な生き方を選んだ男の悲しい結末だ。

子育てと料理がどっちつかずになっていた相沢は、「グランメゾン東京」の一員として三ツ星を狙う覚悟をついに決めた第7話だった。余談だが、木村拓哉が大好きな漫画「ONE PIECE」にも、あの話でウソップが本当の意味で仲間になったとか、チョッパーはまだなっていないとか、そういう筋がある。

僕はちょっと丹後派
前話で覚悟を決めたのは、芹田(寛一郎)だ。今話からは後輩が入り、髪型にも清潔感が出て生まれ変わった感じ。「gaku」の江藤オーナー(手塚とおる)にもらっていた金を突き返す、前回に続いて胸アツ展開を繰り広げた。しかし、そんな芹田のドラマなんて、丹後の前座に過ぎなかった。

「お前、江藤オーナーに頼まれてくだらない余計なことしてんじゃねーだろーな?」

「gaku」に出入りする芹田を見つけた丹後は、芹田の眼前に迫る。この怒りは芹田にではなく、江藤オーナーへ向けられたものだ。尾花を打ち負かしたい丹後に、狂気が宿る。

しかし、生まれ変わった芹田を認めたのか、丹後は笑みを浮かべて「うちの厨房見てけよ」と男前な対応。「どうせマネなんてできねーよ」前話の尾花と同じセリフで、卑怯な江藤オーナーとは別次元で尾花と戦う男のプライドを見せた。

丹後は、尾花の才能を「怖い」としながらも真っ向から立ち向かい、意見の合わないオーナーに力を借りてでも、三ツ星を取りに行く覚悟を持っている。正々堂々勝つためになら何でもする。京野や相沢とはまた違う形で、尾花に影響された男だ。尾花派ではなく、丹後派、そんな視聴者が少し増える、最高のライバル丹後の魅力がわかる一幕だった。

「グランメゾン東京」と「gaku」
丹後の粋な計らいで芹田は厨房へ。中には、「ハバネロ味噌」「14週間キャラメライズしたスナックパイン」「未熟なカシスの塩漬け」など、最先端の機材を使った何が何だかわからないものがてんこ盛りだ。

素材の味を生かしたシンプルな料理を出すお前の店とは違う。素材の味をもう一段も二段も上に持っていくために、とことん人の手を加える。それが『gaku』の料理だ」

料理監修は、「グランメゾン東京」が12年連続で三ツ星の「カンテサンス」の岸田周三シェフで、「gaku」が「世界のベストレストラン50」(トップレストラン50のモデル)でナンバーワンに4度輝いた「INUA(イヌア)」のトーマス・フレベル氏だ。丹後の「どうせマネなんてできねーよ」の意趣返しから、同じフレンチでありながら両店の特色の違いがしっかりと描かれた。なんて合理的な脚本なのだろう。

相沢の覚悟が決まり、丹後が「トップレストラン50」で結果を残してライバルとして一皮むけた。最終回に向けて、物語のパーツが集まり始めた。

覚悟、情熱、プライド……そんなカッコいい言葉が並びそうな第7話だったが、ラストはまさかの京野(沢村一樹)から倫子への愛の告白で終わり。嫉妬からつい口に出してしまったという、およそアラフィフとは思えない京野はエライ可愛かったが、本筋へ(さわだ 沢野奈津夫改め)

■『グランメゾン東京』
出演:木村拓哉、鈴木京香、玉森裕太 (Kis-My-Ft2)、尾上菊之助、冨永愛、中村アン、手塚とおる、及川光博沢村一樹
脚本:黒岩勉
プロデュース:伊與田英徳、東仲恵吾演出:塚原あゆ子、山室大輔、青山貴洋。料理監修:岸田周三(カンテサンス)、トーマス・フレベル(INUA)、服部栄養専門学校音楽:木村秀彬主題歌:山下達郎「RECIPE(レシピ)」

イラスト/たけだあや