(花園 祐:中国在住ジャーナリスト)

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 日本を追い越し、すでに世界屈指のゲーム市場となった中国で、女性向けゲームの売上が急拡大しています。

 市場規模、ユーザー数ともに成長を続けており、女性向けゲームの先駆者である日本の市場に向けても中国製ゲームがリリースされるなど、大きな盛り上がりを見せています。

 一方、制作現場では女性エンジニアの不足といった課題も浮上してきました。また中国政府によるゲームジャンルの規制など、日本とは異なる課題も見られます。

 そこで今回は中国における女性向けゲーム市場について、マクロデータを参照しつつ最新の動向を紹介したいと思います。

市場の4分の1を支える女性の消費

 中国ゲーム業界団体の中国音数協遊戯工委(GPC)、伽馬数据(CNG)、およびIT専門調査会社のIDCが共同発表した「2018年中国ゲーム産業レポート」によると、2018年における中国の女性ユーザーのゲーム消費額は前年比13.8%増の490.4億元(約7600億円)でした。

 同年における中国全体のゲーム市場規模(参照:「市場は10年で10倍に、一斉にゲームを始めた中国人」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55499)は、同5.3%増の2144.4億元(約3.3兆円)でした。両データを比較すると、女性ユーザーのゲーム消費額割合は単純計算で22.9%となり、全体の約4分の1に達していることがわかります。

 また女性ゲームユーザー数も堅調に増加しており、同年のユーザー数規模は同11.5%増の2.9億人で、日本の全人口の約2倍に相当する規模です。

 なお、日本国内の女性向けゲーム市場規模について、2017年に日経新聞スマホゲームで約1000億円と報じています。現在の市場規模はこれよりは確実に大きくなっていると思われますが、仮に今の日本の市場規模を1500億円と多めに見積もったとしても、中国の女性向けゲーム市場規模は日本の5倍以上という計算になります。母数となる人口の差が大きいとはいえ、中国市場の桁違いの大きさがわかります。

デート中でも仕事中でもゲーム

 実際、上記データを裏付けるように、中国の街中ではゲームに熱中している女性をよく見かけます。筆者が見ている限り、日常的にゲームをする女性の割合は日本よりも確実に多いと感じるくらいです。

 スマホゲームを例にとると、電車での通勤中はもとより、食事中、待ち合わせの最中に女性がスマホでゲームをしている姿はごく当たり前です。強者になってくると、仕事中、会議中でも平気で遊んでおり、果てには男性とのデート中でも「ちょっと待って」と言って、時間制限イベントなのか突然プレーし始めるなど、徹底的にゲームにストイックな女性も見られます。

 なぜ、中国の女性は日本の女性よりもゲームに熱中するのか。理由はいくつか考えられますが、筆者は女性の社会進出が日本より進んでいるせいではないかと見ています。

 中国の会社では女性が定年まで働き続けることは珍しくありません。出産しても育児休暇を経て職場に戻る女性がほとんどです。また近年は所得水準が男性に負けじと上昇しています。つまり、働く女性の懐に比較的余裕があるのです。そのせいか、のめり込むゲームがあると躊躇なく購入し、課金もしているようです。

 加えて、近年、中国でも女性の晩婚化が進んでおり、金と時間があり余っている独身女性が増えていることも一因と言えるでしょう。

「恋与制作人」のヒットに業界注目

 では中国の女性は具体的にどんなゲームで遊んでいるのでしょうか。

 中国でヒットした女性向けゲーム作品のランキングを見ると、「恋愛シミュレーション」や「アイドル育成」といった、日本の女性向けゲームと同様のジャンルのゲームが人気を博しています。

 中でも、CNGの「2018年中国女性遊戯研究報告」というレポートなどで「中国の女性向けゲーム市場における一大転機になった」と指摘されるほど大ヒット作となったのが、恋愛シミュレーション・アプリゲームの「恋与制作人」(恋とプロデューサー)です。

「恋与制作人」は、着せ替えRPGの「ニキ(中国名「暖暖」)」シリーズを手掛けてきた、蕪湖叠紙網絡科技有限公司が2017年末にリリースしたゲームです。リリース開始以降、女性ユーザーから高い支持を得て、累計ダウンロード数で9000万回を突破しました。2019年7月には日本語版「恋とプロデューサー ~EVOL×LOVE~」もリリースされ、すでにアニメ化も決定しています。その人気について知り合いの女性OLに尋ねたところ、「(中国の)女性なら誰もが知ってる」ゲームだとのことでした。

 また「恋与制作人」のリリースから間もない2018年初頭には、日本のHit-Point社がリリースした放置型ゲームの「旅かえる(中国名「旅行青蛙」)」が、中国で女性を中心に記録的大ヒットを収めています。

 こうしたヒット作が連発されたことで、中国ゲーム業界でも女性向けゲームの市場性、潜在力が認知されていき、制作本数も増えていきました。

中国にも腐女子はいる?

 こうして次第に中国でも認知されてきた女性向けゲームですが、意外なことに大手ゲーム会社ほど女性向けゲームの開発にまだあまり熱心ではないと指摘されています。

 ある中国人ネットユーザーによると、そもそもゲームの開発現場では依然と男性開発者が多く、開発するゲームも男性だけをターゲットに作られがちだそうです。女性向けゲームを開発しようにも、現場には女性開発者が少ないため女性向けのゲームデザインがうまく行えず、安易に過去のヒット作の模倣に走るという光景も見られるといいます。

 また、これは筆者が気付いたことですが、日本の女性向けゲームの一大ジャンルと言える「ボーイズラブ」ことBL系ゲームは、中国市場においては全く存在していません。ネットで検索すると海外(主に日本)のBLゲームの中国語翻訳版を見つけられますが、どれも正規販売はされていません。

 ゲーム業界関係者の友人に事情を聞くと、「中国では、LGBTをテーマとするゲームに当局の許可はまず下りない」そうです。中国政府による規制の影響と見て、ほぼ間違いないでしょう。なおこの友人は、「だが『腐女子』という人種は中国にも確実に存在するだろう」と意味深なセリフを残して去っていきました。

日本のゲーム業界にも追い風となるか

 以上のような課題や規制が存在しているものの、近年その成長が鈍化してきた中国ゲーム市場において、女性向けゲーム市場の急拡大は大きな朗報として捉えられています。

 また前述の「恋与制作人」のように、国内のみならず海外展開も積極的に行われており、今後も中国から世界的人気作品が出てくる可能性は大いにあり得ます。

 見方を変えると、女性向けゲーム分野を1990年代からいち早く開拓、発展させてきた日本のゲーム業界にとっても大きなビジネスチャンスと言えるでしょう。過去のノウハウをどう活用し、市場の変化をいかにチャンスへと変えていけるか、日系ゲーム各社はその手腕が試されるところでしょう。

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中国のアプリゲーム「恋与制作人」(恋とプロデューサー)の画面イメージ(出所:「恋与制作人」公式サイト)