海のプラスチック汚染、とくに5ミリ以下の小片に細分化された「マイクロプラスチック」が大きな問題になっている。「どこから」「何が」流出しているのか。2019年5月まで川崎市議会議員を務めていた小田理恵子さんが取り組んだ、海面/河川のマイクロプラスチック浮遊状況調査の結果を3回にわたってお伝えする。(JBpress)

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※本記事はPublicLab(パブラボ)に掲載された「東京湾を漂うマイクロプラスチックはどこからやってくる?」「調査手法がまだ確立されていないマイクロプラスチック」を再構成したものです。

(文:PublicLab編集部 小田理恵子)

 プラスチックごみ(プラごみ)の海洋投棄が世界各地で問題となっています。このまま対策を講じない場合、2050年には海の魚の量とプラスチックごみの量が同じになるといわれています。「海のプラスチック汚染」は、気候変動と並ぶ人類への脅威として認識されつつあります。

 環境省の資料によると、日本のプラスチックごみの海洋への流出量の推計は世界30位で、1位の中国の1.5~1.6%と、日本のみが努力して解決できる課題ではありません。図1に示す通りプラスチックごみの流出はアジア諸国が上位を占めていますが、世界全体の流出量を減らすために日本がリーダーシップを発揮して、環境技術の開発や対策の推進を行っていく必要もあるのではないかと考えます。

マイクロプラスチックはどこから流出する?

 プラスチックごみは、陸上からさまざまな経路を通じて海へと流出し、紫外線などにより5ミリ以下の小片に細分化され、「マイクロプラスチック」となります。このマイクロプラスチックを魚や貝や海鳥が食べてしまい、食物連鎖の中で最終的には人体にも取り込まれます。人体への影響はまだ明らかになってはいませんが、海洋生物への蓄積は報告されており、生態系への影響が懸念されます。

 さて、このマイクロプラスチックですが、実は流出経路が明らかになっていません。

 我が国でのマイクロプラスチック対策といえば、プラスチック素材を使ったストローレジ袋の廃止など、一部商品について取り沙汰されることが多いのですが、それではこの問題の根本的解決とはなり得ません。我々の産業や生活全般を見渡して、根本原因を探る必要があります。

 ところが、その調査手法は確立されていません。日本では、環境省日本海周辺の海域での調査を行うにとどまっており、各地域で調査を行うとすれば、その調査手法の確立と標準化が必要となってきます。

 2019年5月まで神奈川県川崎市議会議員を務めていた筆者は、その当時、議会という立場を活かしてできることもあるのではないかと考えました。

 そこで、まず先に議員として調査を行い、ある程度信頼できるデータを提示することができれば、今後の道筋もつくのではないかと考えました。

 川崎市において、プラスチックがどこから流出しているのか、また、流出している製品は何か、その用途は何かを絞り込むことを目的として、実態調査を行いました。本レポートは、2018年8~9月にかけて川崎市内の河川や港湾、計14カ所で実施したマイクロプラスチック等の浮遊状況調査とその結果について報告するものです。

川崎市で調査を実施

 調査に当たっては、環境系ベンチャー企業である、ピリカ(https://corp.pirika.org/)に協力をお願いしました。ピリカでは、東京理科大学の二瓶泰雄教授(環境水理学、河川工学、数値流体力学)、片岡智哉助教(海岸工学、水工学)らのアドバイザリー協力の下、NOAA(米国海洋大気庁)が公開している調査手順書を参考に浮遊するマイクロプラスチックの調査を行う手法を開発していたためです。また、ピリカは、マイクロプラスチックの調査だけでなく、ポイ捨てごみの調査など社会課題の解決に取り組む若手エンジニアが立ち上げたベンチャー企業でもあることから、その活動を後押ししたいという意図もありました。

 そのため、今回の調査内容および結果は、全てオープンデータとしてピリカが公表することについて同意しています。

 ピリカでは、調査に河川や港湾、下水処理施設など、さまざまな場所で利用可能な(マイクロ)プラスチック浮遊量調査装置「アルバトロス」(特許出願中)を用います(図2)。これはバッテリー駆動のスクリューで水面付近の水をネットに取り込み、濾過して、浮遊マイクロプラスチックを採取する装置です。橋上または船上などから収集機を水中に沈め、3分間で濾し取った固形物を収集します(写真1)。収集機のネットの網目は0.3ミリ、3分間で5~10立方メートルの水を濾過し、固形物を採取します。

 ただし、これは水より比重の軽いプラスチックに絞った調査であり、ペットボトル繊維などは水より比重が重く海底に沈殿するため、この調査では採取できません。海底に沈殿するごみからマイクロプラスチックを分離し調査する手法は見つかっておらず、本調査は浮遊するプラスチックごみだけを対象に実施しました。

 本調査は、川崎市内の河川および港湾14カ所で実施しました(図3、表1)。海面調査は、川崎港の岸壁寄りの地点と岸から離れた海上で行っています。海面調査に加え河川調査も含めたのは、陸上からの流出経路を特定するためであり、主な河川の本流、支流および上流、下流を調査地点に含めています。また下水道からの流出の可能性も考え、下水道処理場に繋がる上流、下流地点も調査に加えました。

採取したサンプルからプラスチックを抽出

 本調査は、収集機を水中に沈めて、濾し取る方式のため、岸壁や橋上からの調査が可能です。河川調査、岸壁からの海洋調査には、特別な許可や申請は必要がないことを確認の上、順次実施していきました。海上調査に当たっては、川崎市港湾局に協力いただき、港湾局所有の巡視船(写真2)の船上から採取を行いました。

 1カ所当たりの採取は、セッティング(写真3)から作業完了まで最大2時間程度かかります。調査員の確保や降雨などで当日の作業が中止になることもあり、14カ所の現地調査だけでも、2週間程度必要でした。

 このようにして採取したサンプルは、まず固形物の中からマイクロプラスチックのみを分離します。塩化ナトリウム溶液を用いて固形物を沈降分離し、目視での判断をしやすくした状態でプラスチックの可能性があると判断された固形物を手作業で抽出します。これは非常に根気と手間を要する作業です(写真4)。

 その後、FT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いた成分分析および、マイクロスコープを用いた外観の撮影や大きさの測定による分析を行います(写真5)。FT-IRを用いて読み取った固形物のスペクトルから成分を同定するプロセスは、東京工業大学の福原学准教授(分析化学)のアドバイスを受けて実施し、品質を担保しています。

 このようにして調査をしたことで、意外な調査結果が浮かび上がってきました。次回はその調査結果についてレポートします。

浮遊するプラごみで最も多いのは人工芝だった!
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58486

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海面に浮遊するプラスチックごみ(ピリカ提供)