©石塚千尋/講談社/「ふらいんぐうぃっち」製作委員会
point
  • トマトなどの植物は、ストレスを受けると可聴域外で音波を発していることがわかった
  • 昆虫や動物は、5m離れた場所でもその音を聞いて反応している可能性もある
  • 植物のストレスによる悲鳴を検出できるようになれば、精密農業の分野に改革を起こせる可能性がある

ファンタジーの世界には、マンドラゴラという悲鳴をあげる植物がいますが、どうやら現実の植物たちもストレスを受けると、人間には聴き取れない超音波で悲鳴を上げていたようです。

イスラエルのテルアビブ大学の研究者Itzhak Khait教授率いるチームの研究によると、トマトやタバコの木(ナス科の植物)は水不足によるストレスを受けたり、茎が切断されたりすると、人間には聴き取れない周波数の音を出すというのです。

「この発見は、沈黙していると思われていた植物に対する考えを変えるかもしれない」と研究チームは語っています。

この研究論文は、現在は未査読の状況で、生物学関連のプレプリントサーバー「bioRxiv(バイオアーカイヴ)」にて公開されています。

Plants emit informative airborne sounds under stress
https://doi.org/10.1101/507590

植物の悲鳴

植物はストレスを受けた場合、色や匂い、形状などに変化が現れることはよく知られています。

そのため、あえて音を発しているという部分に着目して研究されたことはありませんでした。しかし、植物以外の周囲の生き物たちは基本的に音を発する能力を有しており、また音に反応してその影響を受けます。

そこで今回の研究者たちは、「植物が音を放射する能力を持っていて、周囲の動物や植物へ影響を与えている可能性はないか」と考え調査を行ったのです。

調査されたのはトマトとタバコの植物。タバコの植物は一般にあまり馴染みのあるものではありませんが、これはナス科の植物です。

タバコ畑。/Credit:Ken Hammond/Wikipedia Commons

研究では、まず音響室内に置かれた植物に2つの指向性マイクを向けて調査されました。

マイクを2つ使ったのは、電気ノイズの音と区別するため、また植物間での干渉による音の誤検出をなくすためです。

音の検出環境。音響ボックスの中で2つのマイクを使い検出されている。/Credit:Itzhak Khait

植物はそれぞれ異なる状態が設定されていました。この調査の結果、2つの状態の植物が明らかに他の植物より多くの音を発していることがわかりました。

それは乾燥状態(干ばつのストレス)と切断状態の植物です。

どうやって音を出すのか?

植物は声帯を持っているわけではないので、ぎゃーと悲鳴を上げているわけではありません。

植物の出す音はキャビテーションと呼ばれる現象で生じる音です。キャビテーションとは、液体が流れるときに気泡が生じることを言います。このキャビテーションの気泡の破裂などによる振動が音を発しているのです。

植物の中には水を輸送する維管束が走っていますが、ここでキャビテーションが起きることで、植物の周りにはクリック音のようなものが生じるのです。

Credit:中学理科の達人

今回の調査では、この音が人間には聞こえない周波数で周囲5メートル程度まで響いていたと報告されています。

そして、このクリック音は植物が乾燥していたり、切断された場合、通常より明らかに多く発生していたのです。

乾燥状態のとき、トマトは1時間に平均35回、タバコは11回、茎の切断時には、トマトが1時間平均25回、タバコは15回の音を立てていました。

これ以外の状態の植物では、クリック音は1時間に1回程度しか出ていません。ここには顕著な違いが見て取れます。

さらにこの発生する音は、植物が乾燥のストレスを受けているか、切断のストレスを受けているかで、異なる音の強さや周波数を出していることもわかりました。

そこで、研究チームはこの超音波を機械学習によって人工知能に覚えさせ、他の騒音と区別して測定できるようにしました。

この結果、温室内に置かれた植物が乾燥しているのか、切断されてストレスを受けているのか、正確に特定することに成功したのです。

この成果は、農作物の状態をきめ細かく制御して、収穫量や品質の向上を図る精密農業の分野に役立てると考えられます。

この研究は、まだ植物の他のストレス状態については詳細に検証されていません。またこの音が周囲の動植物に影響するかも明らかになっていません。

しかし、この超音波の周波数は昆虫やマウスなどは聞き取ることが可能なものであり、周囲5メートルまで響いているという事実も考慮すると、この植物の音が他の生物にも影響している可能性は十分に考えられます。

ただ、植物が周囲へサインを送る手段は、他にもすでに多く発見されており、昆虫が音に反応するという考えは現状推測の域を出ないものです。

実際は悲鳴というよりは、意図せず発せられる音のようですが、予備実験によるとこうした音はサボテンでも確認できているそうです。

Credit:pixabay

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reference:newscientist/ written by KAIN
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