相も変わらず全国で自然災害が多発し、国民が死に、さらには氷河期世代など「国民の貧困」が深刻化し、ようやく与党サイドから「財政拡大」を求める声が出始めた。

 自民党二階俊博幹事長と世耕弘成参院幹事長は、2019年度補正予算として「10兆円規模」を打ち上げている。ちなみに、世耕参院幹事長は、アベノミクスの第二の矢であったはずの「機動的な財政出動」について、「第二の矢だけは1回もちゃんと打ったことがない」との認識を示した。要するに、安倍政権下では緊縮財政が続けられていたという話で、もちろん事実ではあるのだが、世耕参院幹事長は先日まで経済産業大臣として「閣内」にいたわけだ。何を「他人事」のように言っているのだ、という感想しか出てこない。

アベノミクスの三本の矢は、一本目(金融緩和)は放たれたが、三本目(成長戦略)は政商たち(竹中平蔵氏ら)のビジネスになり、二本目の矢は放たれるどころか、自分目掛けて飛んでくる自滅的な緊縮財政」だったことは、単なる事実である。

 安倍政権を懸命に庇おうとする人ですら、「安倍政権は財政拡大をしていた」と主張する人は、さすがに見かけない。

 むしろ、野党やメディアが「安倍政権は放漫財政」といった、事実に基づかない、見当違いの批判を展開していたが、安倍政権の緊縮財政は、統計が証明する。安倍政権は’13年のPB目標設定後、財政赤字を「着実」に削減し、’18年のPB赤字は、ついに’07年以来の最小値になった。

 緊縮財政の継続は、総理の価値観が働いたのか、政治的なパワーゲームの結果なのだろう。安倍政権が国民を史上稀にみるほどに「貧困化」させたのであれば、その責任を取らせるべく動くだけの話である。政治家は、責任を取るのも仕事の内であろう。

 もっとも、さすがに野党サイド緊縮財政に対する批判を強めつつあり、結果的に与党側も財政拡大に「わずかに」舵を切ろうとしているわけだ。もちろん、筆者は現段階における大型の補正予算には全く反対しないが、「デフレ脱却」「長期的な供給能力の拡大(というか『回復』)」を目指す以上、「短期の一時しのぎ」の補正予算は効果が限定的にならざるを得ない。

 そもそも、世耕氏や二階氏が主張する補正予算10兆円がすべて「投資」であったと仮定して(実際には違う)、その「程度」の規模では日本のデフレギャップは埋まらず、さらには国民の防災安全保障強化は不可能だ。来年もまた、自然災害で国民が死に、財産を失うことになる。

 それどころか、付け焼き刃的な補正予算では、「10兆円“も”カネを使ったのに、デフレ脱却はできないし、自然災害も防げない。財政出動はムダだ」、「せっかく10兆円もの補正予算を組んだにも関わらず、予想通り人手不足で消化しきれなかった。財政出動はムダだ」といった、緊縮財政のレトリックに活用されかねないのだ。

 正しい財政出動は、規模に加えて「長期予算」でなければならない。あるいは、せめて「長期計画」が必要だ。長期で予算規模が増えていくことがコミットされて初めて、土木・建設業などは供給能力の強化(正しくは「回復」)に乗り出す。

 長期計画に基づき、土木や建設業、あるいは「防災サービス」の供給能力が拡大していけば、今はもちろん、将来の国民も救われることになる。

「短期的な補正予算」と、「政府に財政的な予算制約がないという前提に基づく、長期的な供給能力回復を伴う財政の継続的な拡大」の間の隔たり、あるいは壁が大きく越えられない。

 やはり、MMT(現代貨幣理論)が説明した「貨幣の真実」が広く共有されるパラダイム・シフトが必要なのであろう。

 ところで、安倍総理は、いわゆる「就職氷河期」世代への支援策として、「国みずからが積極的に動くという観点から、国家公務員の中途採用を今年度から具体的に取り組んでいく」と発言した。

 もちろん、筆者は氷河期世代(のみならず)を公務員採用していくことには賛成だ。日本の公務員対労働人口比率は、世界最低レベル。その状況で、国民のルサンチマンがあおられ、「公務員を減らせ!」、「公務員給料を減らせ!」との世論が高まり、緊縮財政が進められ、パソナを代表株とする人材派遣会社がボロ儲けをしている。今や、地方自治体公務員の3分の1が非正規。官が自ら、所得格差を拡大する、狂った共同体が我が国だ。

 もっとも、公務員を増やすのは構わないのだが、プライマリーバランス黒字化目標がある限り、「公務員を増やすならば、他の予算を削れ」という政策にならざるを得ない。

 加えて、現在の日本の公務員雇用には、総定員法(行政機関の職員の定員に関する法律)の縛りがかかっているのをご存じだろうか。総定員法は、ずばり「法律」で国家公務員の人数の上限を定めるものだ。

〈第一条 内閣の機関(内閣官房及び内閣法制局をいう。以下同じ。)、内閣府及び各省の所掌事務を遂行するために恒常的に置く必要がある職に充てるべき常勤の職員の定員の総数の最高限度は、三十三万千九百八十四人とする。〉

 総定員法がある以上、就職氷河期世代を国家公務員として雇うと、「その分、他の職員を削れ」という狂った話になってしまう。信じがたいだろうが、これが「緊縮の王国」日本の実態だ。

 というわけで、国民は政治に対し、「補正予算を組むならば、供給能力が回復するように長期の複数年度の予算化をせよ」、「国家公務員を増やすならば、同時に緊縮前提の総定員法を改定せよ」といった「突っ込み」をしなければならないのである。さもなければ、補正予算も氷河期世代の公務員雇用も、「状況をより悪化させるために利用される」のが、現実の日本なのである。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。