(尾藤 克之:コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員)

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 10月、建て替えが検討されてきた「中野サンプラザ」を含む中野駅前の再開発について、新たな方針が発表されました。中野区の酒井直人区長は「サンプラザのDNAを継承し、デザインや名前についても引き継いでいく」方針を示しています。さらに、中野サンプラザを解体して最大収容人数7000名の多目的ホールなどの施設をつくるとしています。

 筆者はこの発表に強い違和感を覚えました。今回は、サンプラザ解体問題にくわしい、中野区議会議員・いながきじゅん子(稲垣淳子/現4期目、無所属)さんに問題点について伺います。

中野サンプラザが死んだ日

 筆者は中野区民で有権者の1人です。昨年6月に行われた中野区長選は、中野サンプラザ解体問題が争点になりました。サンプラザを解体し1万人規模のアリーナを中心とする集客施設を計画するとした田中大輔氏(前区長4期)を破り、「解体反対派」と見られた酒井直人氏が新区長に就任します。ところが3カ月後、サンプラザの解体を進めると発表します。

 当時、選挙結果を各メディアはどのように報じたのでしょうか。毎日新聞2018.6.15)は、「新区長が初登庁 サンプラザ解体、凍結表明」と紹介します。他メディアも同じような論調でした。多くの区民はサンプラザは守られたと思ったはずです。ところが裏切られる結果となりました。

「サンプラザも再整備する方針とはなったものの、その解体時期や費用についてはまだ何も決まっておらず、宙ぶらりんの状況が続いていました。3月25日、区長から諮問された都市計画審議会で、サンプラザを解体しその敷地内に道路を横断させるという都市計画変更案が全会一致で了承され、同28日にその答申を受けて区が計画決定しました。

 これで事実上サンプラザ解体も決定したことになります。この都市計画決定というのは非常に重い決定でよほどのことがないと覆せない計画です。2019年3月28日は事実上『中野サンプラザが死んだ日』といってもよいのかもしれません」(いながき区議)

 筆者が知るかぎり、「サンプラザ解体が決定した」ことを知る区民はいないと思います。サンプラザが老朽化しているので「どうするか?」を議論しているような認識ではないでしょうか。いま、サンプラザが突然壊されたら多くの区民が驚くと思います。

「この都市計画決定を受けて現在の区役所とサンプラザは解体され、その間の南北道路をなくして一体的な区画とし、駅前に中野通りと繋がる大きな交通広場が整備されます。また交通広場の上空には駅舎と新庁舎を建設予定の四季の都市エリアを結ぶ歩行者デッキができる予定です。

 都市計画審議会では中野駅北口地区の区画の変更や道路の新設について審議されたわけですが、この時点でこの新しい街区にどのような建物ができるのか、どのように再開発されるのか全く不明なままで議論しなければならないことに、委員から疑問と不安の声が上がっていました。本来はこの審議会の前に当初の予定通り、サンプラザ区役所跡地の再整備の方針を示すべきでした」(いながき区議)

前区長と同じ公約に戻った中野再整備

 前区長の田中大輔氏はサンプラザを解体し1万人規模のアリーナを中心とする集客施設を計画しました。しかし、酒井直人氏はその方針に異を唱えて選挙に当選します。立憲民主党からは枝野幸男代表、蓮舫副代表などの大物が応援にはいり、サンプラザの前で、「争点はサンプラザ解体」「サンプラザを守れ」と声を張り上げていたのを覚えています。いまの計画案は、前区長・田中大輔氏のものを踏襲したように見えるのですがどうなのでしょうか?

「もともとこの都市計画変更案は前区長が1万人アリーナを建設する前提で考えたものとほぼ同じです。この計画をもとに区画整理して現区長がアリーナ計画を見直したところで、土地が本当に有効活用できるのか、甚だ疑問が残ります。

 更にいまだ中野サンプラザの解体が決定したことを知らない区民の方も多く、なぜ区はこのような都市計画案を出し、サンプラザを解体して新しい建物をつくることにしたのか、中野駅の新しい駅舎建設や区役所の移転建て替えとこの区役所サンプラザ地区の再開発が複雑に絡み合っていることも含め、今後、区民に対してより一層丁寧な説明が求められます」(いながき区議)

 中野駅北口駅前の広大な公有地は区民の貴重な資産です。この超一等地を区の主導で再開発するのですから、区民のために最も有効に活用して豊かな区民生活につなげていかなければなりません。そのあたりはどのようになっているのでしょうか?

「私たち議員や自治体はこの街の将来への責任があります。区役所を建て替えるために目先の現金に目がくらみ、この貴重な区民の資産を安易に売却してしまうのは、今のみならず未来の区民に対する責任ある政治判断と言えるのか、区長に説明を求めましたが、全く本質ではない答弁が返ってきてしまったのは残念でした」(いながき議員)

 サンプラザを解体するだけでなく、区役所新庁舎の建設資金に充てるため、その跡地も民間に売り払おうとしていることを区民は知りません。これだけ、ポテンシャルが高い駅前の一等地をディベロッパーに売却するとは不可解です。筆者が調べたかぎり他の区ではおこなわれていません。なぜ売るのではなく貸す(定期借地)ではダメなのか、どのような検討がなされてきたのかについては改めて報告したいと思います。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  凍結はどこへ?サンプラザ解体、区民が騙された詭弁

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